第13話 勇者、やべえ奴に会う。

 ◇


「冒険者免許なしの職訓生ねえ……。申し訳ないんだが、うちは数年前から優良スクールの在校生、あるいは卒業生しか受けてないんだよね。でないと今の世じゃ依頼人からの依頼がなかなか集まらなくてねえ。他当たってもらえるかい」


 東ジャイロに乱立しているギルドのうち、五軒目のギルドでまたしても門前払いを喰らう。


(くそ、やっぱだめか……)


 懇意にしている酒場のおっちゃんの話を頼りに、比較的融通をきかせてくれるかもしれないという緩めのギルドを選りすぐってさえこの有様。世情を鑑みれば仕方のないことだとはいえ、やはり思っていた以上にギルド探しは厳しいようだ。


(本当はおっちゃんのギルドに入れればそれが一番いいんだけどな。あそこはプロ向けで『冒険者免許有り』の『卒業生』が加入の絶対条件だもんな。世知辛ぇよなあ……)


 コネはあっても、条件が当てはまっていなければどうにもならない。俺は肩を落としながらも、執念を燃やすよう次なるギルドに向かって足を差し出した……その時だった。


「だからぁ。いくら職訓生っつったって転職したてで『吟遊詩人』の冒険者免許はまだねえんだろ?? んなドシロウト誰が雇うってんだ。ギルドってのはな、ノリで登録ができるような歓楽の場じゃねえんだよ。帰った帰った!」


「はァ⁉︎ 俺の美声も聞かずドシロウト扱いとかマジ脳みそ腐ってね? んな見る目のねえギルド、こっちから願い下げだわ」


(……ん?)


 数軒先の建物前で、店主と思しき男と、弦楽器を背負った男がなにやら揉めている。


 話の内容からして、俺と同じようにギルドを門前払いにされたようだが……。


「はー、つまんね。くそ、このままじゃ今月の生活費が死ぬな……って……ん?」


「……」


 やべえ。ギルドから追い出されたと思しきソイツとバッチリ目が合ってしまった。


 俺は、やばいと分かっていながらも吸い寄せられるようにソイツの風貌に視線を彷徨わせる。痩身で身長は高め。やや紫がかったモーヴシルバーの髪をハーフアップにし、耳には複数のピアス。ローズグレイの気だるそうな瞳が妙に色気を感じさせるイケメンで、彼は多少デザインは異なるが俺と同じ校章の入った職業訓練校の制服を着ており、背中に小洒落た弦楽器を背負っている。


 一見してどこかのアイドルか何かみたいだな、なんて思っていると、ソイツはヘラリと笑ってこちらに近づいてきた。なんか知らんけどやべえ、逃げようと思った時には遅かった。


 背を向けた俺の襟ぐりが、ソイツの長い腕でむんずと掴まれる。


「うご」


「おいコラ。なんで逃げんだよー。アンタ、俺と同じ職訓生っしょ?」


「そ、そうっすけど……」


 いや別に何かされたわけじゃないし、面識があるわけでもないんだが、なんだか妙に嫌な予感がしてつい身構えてしまう。そんな俺の第六感を現実のものとさせるように、その男は馴れ馴れしく俺の肩にガッと腕を絡めてきた。


「へー。見かけない顔だよね。新入り?」


「き、今日から受講始めたばかりの者っすけど」


「そう。ならキミ、コーハイ。んでもって俺、パイセンね」


「ま、まあ」


「ちょっとパイセンにお金貸して♡」


「……」


 初対面の後輩にいきなり金タカるとか。やっぱりやべえヤツだった。


「無理っす」


「心配いらねーよ? 出世払いで返すから♡」


「出世払いもなにも、俺自身が金を借りたいぐらいの金欠民なんで……」


 今ギルド追い払われたヤツがどうやって出世払いするんだ……とツッコミたくなるのをグッと堪え、笑顔でカツアゲ回避。俺が揺るぎのない目で貧乏人をアピールすると、ソイツは俺の全身から漂う金無しオーラを察したのか、やがて悪態づきながら俺を解放した。


「なんだよ、アンタも金欠かよ。入校したての新入りのくせに困ってるパイセンに貸せる金もねーとか経済力マジゴミだな。さては彼女いねーだろ?」


「ほ、ほっといてくださいよ……。てか、そんなに金がないなら職訓戻って就労支援課で事務職とかビラ配りとか、地道に稼げるお手軽バイトでも引き受けてくればいいのに」


「あー? 一般職に向かねえ性質だから、冒険職目指して職訓通ってんだろ。ンな畑違いな学生事務バイトをちまちまこなせる真面目な性分ならとっくに一般職で働いてるっての」


 しょうもない己の性分を堂々と言い切る先輩。ひどい言われような気がしないでもないが、まあ、彼の言い分もわからなくもない。


「まあ、それもそうっすね……。つか、先輩も仲間集めにギルド登録しにきたんすか?」


「んー。仲間集めっつうか、パーティ組まねえとろくな案件受けられねえからな。とりあえずギルド登録だけでもしておけば卒業後も何かと楽になるし、軽いノリで凸ったんだけど、どこのギルドも『優良』学校の出身者じゃないとダメだの、『スキルのない吟遊はいらん』だの、人を見る目がねえヤツばっかでゲンナリだわ」


「……」


 やはり俺と同じ穴の狢だったようだ。


 先輩は不満そうに呟き、頭の後ろで手を組んで気だるそうな顔で空を見上げている。


 色気のある外見とはうって変わり、少々柄が悪く感じるのは気になるところだが、人手が足りなくて困っている他者――それも同じ訓練校の訓練生ナカマを――放っておくのもなんだか気が引けてしまって……俺はそれとなく尋ねてみることにした。


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