第11話 勇者、新居に入る。

 ◇


 そうして俺は、無事に入校手続きを終え、一旦下宿先へ移動する。


 宿舎は西ジャイロの中心地――あの妖精やドワーフが住んでいそうな建物が並ぶお上品な閑寂なエリアだ――にあった。


 事務員のトムさんの話によると、この辺りは治安が良く、方々に転送装置が設置されているため、ジャイロ内の行き来やヴァリアント城入り口、上流エリアへと、どのエリアにも移動しやすいので利便性がいいのだとか。


 宿舎自体はやはり老舗らしく古めかしくこぢんまりとした作りの建物だった。


 もちろん、最低限の寝泊まりさえできればそれで問題がないので、ありがたく部屋に上がらせてもらった俺はベッドの上に荷物を置き、窓を開けて外の空気を吸う。そうしてからまずは、鞄の中からサイン済みの手続き書類を取り出した。


『戦士コース(最低年限三年〜最長五年)』


 数あるコースの中から、俺はスタンダードな『戦士コース』を選んだ。


 初年度は戦士の基礎訓練から始まり、希望に沿っていずれ剣士や騎士、聖騎士などのルートに分岐していく。


 俺の目標はいずれ剣士ルートに進み、最終的にはそこを極めて親父のような剣聖になることだった。


(俺は魔法とかてんで使えねえしな……。とにかく剣を極めて魔王をぶっ潰す。その道一択だな)


 先々のことまでは考えていないけれど、それだけは決まってる。


 俺は初志を忘れないよう、マグネットを使ってサイン済みの紙を壁にぺたんと貼った。


(さて、と……)


 続いて俺は、荷解きを始める。


 訓練は早速明日から始まる。初日の注意事項を確認しているうちにあっという間に時間はすぎ、その日の夕暮れには明日から着る戦士コース用の制服や訓練用具が部屋に届いた。


 そしてその数分後には王子もやってきた。驚いたことに俺の部屋の隣は王子らしい。彼はしばらくキャットファングというネコ科のモフモフモンスターの話をして、やがて飽きると自室へ帰っていった。


 どうやら顔に似合わずネコ好きらしい。やれイエローファングは肉球の形が美麗だとか、やれレッドファングは耳の形が俺好みだとか。やれ伝説級にレアなブラックファングにはまだ出会えたことがないので、冒険者免許が取れたらいずれ捕獲して城で飼いたいと熱く語っていたが、そいつはよくある庶民の創り話で幻のカラーであることを伝えたらガチでへこんでいた。


 単なる暇つぶしにされてる感が否めないが、王子には諸々感謝しているので、まあ、適度に振り回されるぐらいのことはよしとしよう。


 俺はその後、なかなか眠れない静かすぎる一人の夜を過ごし、翌朝、ガチガチに緊張したまま訓練初日を迎えた――。


 

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