9「連休」

「……とは聞いたけど、どういう事?」


五月の連休、一日目。


速水は、どこから聞こえる声に、とても驚いていた。


一夜が、泊りに来いと提案があった。

彼氏の家に泊まりと思い、とても浮かれていた。

持っていく荷物も、家族で旅行や、修学旅行よりも、少しだけ多くなった。

それは、かわいい下着やパジャマに着替えを選んだが、しきれなくて、一泊なのに、三泊位の荷物になった。

といても、服やパジャマは、一着だけだが、下着が決められずに、全部持って来てしまった。


そういう期待をしている訳ではないが、それでも、何かの拍子で見えてしまったりした場合を考えてである。

漫画やゲームなどの知識に影響しすぎかな?とは思った。


約束の時間が、午後六時であった。

睡眠は多く取って来てと、一夜からあったから、午前中はぐっすり寝ていた。

午後からは、持っていく物を、再度確認していた。

午後五時からは、ソワソワして、少し早いけど、一夜の家へと出向いた。


一夜は、少し眠たそうな顔をして、玄関を出た。

今まで眠っていたらしい。


「ごめんね。こんな寝起きで。」

「い…いえ、別にいいよ。…なんか、寝起きの一夜、声が低くてかっこいい。」

「そう?あっ、入りなよ。」


一夜の部屋に行くと、そこはオレンジ色が、とても眩しく、凄く綺麗だ。


「久我、寝て来た?」

「うん、一応、午前中。」

「なら、始めるか。」


一夜は、兄達に話しかけ、声を出していいと言った。

速水は、一夜の周りから、一夜以外の声が聞こえてくるのを、とても驚いていた。

その速水に、一夜は、最初から説明をする。


説明を聞いた速水は、一夜に降りかかっている不思議な現象に、現実として受け入れられなかった。




「で、今日は眠れない、一緒に睡眠を負債して欲しい。」

「だから、たっぷり寝てくるように言ったのね。」


まだ、状況を理解はしていても、少し抵抗がある速水に、陸は声を掛ける。


「ごめんな。速水さん、俺の墓参りの為に。」

「本当だぜ。一夜だから、物語を作成していれば、時間は過ぎると思ったけど、何かのきっかけで寝落ちしたら、墓参り出来ないからな。」

「監視役が必要だよね。」


まだ、一夜の周りから一夜じゃない声が聞こえる現象に慣れずにいた速水だが、平気に声に答えている一夜を見ると、現実なんだって思って、受け入れるしかなかった。


「要するに、一夜を寝させなきゃいいのね。」

「そう。」


その時、夕海が夕食の準備が出来たと、一夜の部屋に来た。

一夜は、速水に声を掛けて、居間へと案内する。

夕ご飯は、兄達を含めて、とても楽しい雰囲気であった。

速水も兄達の声には慣れてきて、色々と質問をしていた。


速水にお風呂を先に誘導させて、次に一夜が入る。

出て来た時、一夜は、速水にペットボトル状のオレンジジュースを渡した。

受け取る速水。


「オレンジで良かった?」

「うん、アレルギーないし、一般的な食卓に出される物なら、好き嫌いないから大丈夫だよ。」

「いいな。俺は、納豆とかネバネバした物が苦手だな。」


すると、海が話に加わる。


「一夜が苦手な理由は、納豆を食べようとした時、中の薄いビニールが納豆から離れなくて、一回転自分の身体を回した所、まとわり付いて、怖くなったからですよ。」

「それ以来、納豆以外にも糸が引きそうな食べ物は、見ただけで嫌になったんだよな。」

「幼稚園年中組の時だからな。」


兄達から発せられる一夜の子供時代。

速水は、「そんな事があったのね。」と幼馴染でも、知らない姿を知れた。

そんなこんな話しをしていると、ジュースが空っぽになった。


「新しいの持ってくるよ。何がいい?」

「ジュースより、温かいものが欲しいわ。」

「温かい物、紅茶かな?」

「うーん、起きているならカフェイン入っている紅茶だけど、淹れるのパックのでも大変だよね。白湯でお願いするわ。」

「白湯だな。了解。」


一夜は、まだ五月だが、やっぱり少しだけ冷えたのだろうかと思った。

少し、暖かい物をと思い、ブランケットを収納棚から出した。

もう、暖かいからといって、片付けた防寒具類だが、それは男性の感覚で女性は体を冷やしてはいけないのは、夕海を見て知っていた。

現に、夕海は今でもお腹にはひざ掛けを使っているのを見かける。


「配慮が足らなかったな。」


一夜は、そう思いながら、白湯を用意して、部屋へ戻った。

部屋に行くと、ベッドに横になっている速水がいた。

速水は、少し眠気が来ていた。


時間を見ると、午前三時である。


「そういえば、午前中だけ眠ったと言っていたな。」


速水に、自分のベッドを貸して、一般的に掛けている布団の他に、お腹辺りに持ってきたブランケットを掛けた。

そして、一夜は、兄達と会話が出来るのを確認して、物語の作成に入った。

白湯は、自分で飲んだ。


横で寝息を立てている速水を見て、眠気よりも胸の振動が激しい。

一夜は、物語を書いているが、所々、気になって、進まない。

チラリと見ると、速水は、本当にかわいくて、今のパジャマも裾に小さいがフリルがあり、首元には小さいリボンが付いている。

材質も触ったら、フワフワしそう。


「一夜、大丈夫だよ。私達が付いているから、そんな行動に移せないよね?」


陸が言った一言で、一夜は、気を確かに持った。


「そうだ、俺には、兄達が見ているから、寝ている女子に手を出せないぞ。」

「でも、俺達が誘導したり、目を瞑ればどうだろうな?」

「ああああ……。」


一夜は、椅子に座りながら、頭を抱えた。


「大丈夫ですよ。僕達は、しませんから、安心して下さい。空も、一夜を悩ませない。」

「だって、お前は良いかもしれないが、今回、墓参りを済ませたら、俺、消えそうな感じがする。」


その一言で、一夜を確認したが、その覚悟は出来ている顔をしていた。


「それは、俺も思っていた。兄達の望みは、両親に会う事。両親に会えば、望みは叶えられ、消えてしまう。悲しいけど、でも、強く持たないと。」


一夜の気持ちは、つながっているからこそ分かる。

強くありたい気持ちと、失くす悲しい気持ちが交差していた。


「でも、俺には、両親がいるし、こうやって速水もいる。だから、兄さん達は安心していいからね。」


一夜は、微笑むと、朝日が昇ってきた。

兄と一緒に朝日を見るのは、初めてである。

朝日が部屋に差し込むと、その光で速水が起きた。


「おはよう、久我。」


起きた時に、一夜を見た速水は、瞬間的に顔を赤く染めた。

朝日に照らされた一夜の顔が、とても新鮮で、すごくかっこよかった。

何かを覚悟し、何かと闘う。

そんな気配がして、速水は、一夜から目が離せなかった。


一夜は、速水にもう一度白湯を用意し持って来て差し出すと、速水は胸の中まで熱くなっている身体に、優しい適温の白湯を流し入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る