7「報告」

日々を過ごし、高校二年生になった。

高校一年と高校二年の間にある春休みは、極力速水と一緒に行動をした。

周りも、あの二人付き合いだしたと噂になり、公認となっていた。



その矢先、朝彦と夕海から、話があった。


「三人のご両親、調べが付いたよ。」


朝彦と夕海の職業は、探偵だ。

人探しもお手の物だ。


両親の部屋には、色々な本があった。

推理物の他に、土地の権利や、心理学、法律など他に、ゲームの攻略本や少女漫画に、銃の扱いや種類、家庭菜園の作り方、魚の釣り方など、幅広く揃っていた。


一夜は、両親の部屋から本を、下から一冊ずつ取り、中身をパラパラと見てから、自分が読みたい物を選んで部屋へ持っていて、ゆっくりと読んでいた。

よく読んだのは、絵本や神話などの物語の本で、空想の世界を満喫していた。

だから、自分が作っている本も、空想の物語が多いのである。


その両親だが、表向きは探偵だと名乗っていない。

表向きは、自宅での仕事をしていると設定している。

だが、この二月の半ばから、四月にかけての一ヶ月半は、自宅で仕事ではなく外に行く事が多かった。

それは、兄達の事を調べる為であった。


その一ヶ月半で、一夜にも分かった事があった。

兄達と話せるのは、夕方のみ。

夕方の辺りがオレンジ色に染まっている間だけ、一夜と会話が出来る。

それ以外の時間は、一夜とは会話は出来無いが、兄達、三人は会話が出来ている。

だから、その事も含めて朝彦と夕海に話をし、報告は、夕方まで待って貰った。






夕方になり、一夜の部屋がオレンジ色に染まる。

朝彦と夕海は、一夜の部屋に来た。

一夜は、椅子をベッドに向けた。

ベッドに、両親を案内する。


「早速だけど、えーと、青田君。病院の時みたいに、一夜の身体に入れますか?一夜で話すのと、青田君と話すのとは、報告の仕方が。」

「陸兄、俺は良いよ。」


一夜から許可を得た後、一夜の身体を操るみたいに、意識を現した。


「あの病院の時以来だね。青田陸君。」

「そうですね。神谷朝彦さん。」


目の前にいるのは、姿は一夜でも中身が違うのを確認した朝彦は、報告書を夕海から受け取り読み上げる。


「青田君のご両親、母親は五年前に亡くなっていました。父親は、今は、子供一人と暮らしています。子供は、青田君が亡くなってから、五年後に生まれ、今は十歳の男の子です。五年前から、父子家庭だったけど、今、再婚しようとしている相手がいます。相手には、子供もいて、同じ年の男の子で、趣味も合うらしく、仲は良い。相手の母親になる女性は、職業、税理士で、確りとした人です。」

「そうですか……。朝彦さんから見て、父は幸せそうでしたか?」

「ええ、結構、前向きに考えをお持ちだと思いましたよ。」

「その様子ですと、話しをしたみたいですね。」

「話しをして、本人から直接得た情報で、真実かどうかも、調べました。」


そこまで言われては、陸は言い返せなくて、その情報を受け取るしか無かった。

顔色を見て、朝彦は一言。


「一夜の事は気にしなくていい。」


その時、涙が流れていた。


一夜の身体だからと遠慮していたが、心にあふれる気持ちが堪えきれなかった。

一夜の部屋に響く鳴き声が、沁みてくる。

夕海が、一夜の顔を含めて包み込む。

すると、夕海にすがり泣き、ふと、意識が途切れた。





次に出てきたのは、空だった。

空に変わった瞬間、一夜の頬に付いた涙を袖でふき取り、朝彦に向き合った。

夕海は、空の資料を朝彦に渡した。


「黄田君で間違いないかな?」

「あ。おう。」

「黄田君のご両親は、黄田君が亡くなってから一週間後に亡くなっています。」

「あっ、そう、そうか。」

「黄田君を亡くされた時に、気が抜けたと報告を受けているよ。」

「あー、そういうタイプか。」


子がいるから、頑張って気を張っていた。

けど、いなくなって、気が抜けてしまったのだろう。

その時に、一気に老け、弱くなる。


「黄田君。そして、一夜の中で訊いているであろう、青田君。お墓の場所は調べがついている。気持ちが落ち着き次第、一緒に行こう。」

「その言い方だと、海兄のご両親は?」


いつの間にか一夜へ変わっていた。

朝彦は、一夜に、赤田に変わってもらう。

海に変わった一夜の顔は、少し不安を帯びていた。





「では、赤田君。君のご両親は、生きています。」


生きていると知った海は、とても安心した。

けど、生きています。の後のセリフが怖かった。


「生きてはいますが、道場は無くなっています。」


海は、目を見開いた。

道場は、弟子も含めてかなりの数がいた。

下は小学一年生から上は大学生まで、本当にかなりの弟子を抱えていた。

それが、この十六年間の内に、道場が無くなり、弟子もいなくなった。


「僕が亡くなったからでしょうか?」


顔を下に向けて、両手は握りこぶしを作っており、申し訳ないと身体全体で表現をしていた。

その手に、夕海は自分の手を合わせ、一度、顔を上げてと言う。

顔が朝彦を見たのを確認すると、朝彦は続ける。


「道場が無くなったのは、赤田君が亡くなってから、六年経った時。父が、交通事故に巻き込まれたからです。交通事故を経験して生きてはいるが、それが息子はこれよりもひどく怪我をして亡くなったと思い込んでしまったのだろうね。母が支えてはいるが、とても道場を続けられる状況ではなく、結果的に辞めた。お弟子さん達は、違う道場へ頼んだから、心配はないよ。」

「で、今は?家で過ごしているのですか?」

「もちろん。でも、今は、車椅子で生活なさっています。」

「そう……。道場を辞めてしまったのは悲しいけど、両親が生きているなら。」


朝彦は、複雑な顔をした。


生きている事は、とても嬉しいけど、生きていると、色々な感情が降りかかり、「あの時こうすれば…」「こうなる前に何とか出来なかったのか…」とか、後悔と苛立ちが、心に積み重ねられる。

どう過去と現在と未来と付き合っていくかで、受け取り方も進み方も違う。

だから、生きている、亡くなっている、どちらも正解とは言えないが、この三人が一夜の中で、なるべくなら笑顔でいてくれると祈りつつ、報告書を束ねた。


その時である。

オレンジ色がなくなりつつある部屋だが、一夜が発した。


「あれ?夜になっても、会話出来るぞ。」


一夜の頭の中では、三人と会話出来る。

それだけではなく、三人の会話は、外部の朝彦と夕海にも聞こえる。

その声は、一夜の口からではなく、一夜の周りからとなる。


「色々と情報を吸収すると、出来る事が増えるのか?」


一夜が、口にすると、兄達が話す。


「そうかもな。」

「もしかしたら、一夜の負担が減らせるぜ。」

「そうかもしれませんね。」


一夜の負担が減る。

それはつまり。


「いなくなるのか?」


一夜は、その一言を発すると、目に沢山涙を溜めていた。

せっかく、仲良くなったのに、兄みたいだと思っていたのに、情報が増える度、一夜から離れていく。

この一ヶ月半で、一夜は、思った以上に陸、空、海に惹かれていた。


「一夜、一夜の身体に流れている血が、三人が生きた証だ。だから、話が出来なくなっても、一夜が生きている限り、三人はいなくならないよ。」


朝彦は、一夜を包み、さらに夕海も包んだ。

一夜は、兄達からも言葉を貰い、その日は眠りに落ちた。

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