6「密会」

次の日、朝の準備が済み、玄関を出ると、速水が居た。

速水は、いつもと違い、見た目がとてもかわいい。

今までは、きちんと見ていなかったかもしれないが、こうやって意識をして見ると、速水はとても綺麗でかわいい。


「おはよう、久我。」


すると、速水は、少しだけ下を向いて、小さく挨拶をした。


「久我、今日の頭のピン、とっても似合う。」


昨日、教室でした顔で、速水の身に着けている物をほめると、速水は顔を赤くしてうつむいた。


「久我?」


やり過ぎたかな?と思い、速水の顔をしゃがんで覗き込むと、速水が両手で自分の顔を覆った。


「ちょ…どうしたのよ…、昨日のメールといい、今日といい、一夜、いつもと違うよ。」

「どうしたっていっても、俺、俺はこの通り身長が低いから魅力ないなって思っていたけど、そんな俺でも久我は、いつも一緒に居てくれたし、好いてくれているから、お礼だよ。」

「お礼?」

「そ、それに、俺も久我とは、これからも一緒にいたいし、話もしていきたい。親しき中にも礼儀ありっていうだろ?」

「親しい。」


その一言で、速水は、自分は一夜の中では、特別だと感じた。

それに、自分の悩んでいた欠点を、速水に話した事により、一層、近づいたと感じた。


その日は、手を繋いで学校へ行くと、教室内はおどろきであふれていた。


結果として、一夜の変化によって人気が出ようとしている所へ、人気がある速水と手を繋いで仲良く登校する事により、一夜に声を掛けようとした人、速水に告白をしようとした人、二人の仲を知っていながらも早く付き合えと思っていた人も、全てが「よかったな。」と、一つの思いになった。


一夜の気持ちが速水に傾いたのもあるのだが、裏では三人の助言が影響している。




早速、今日の放課後、紙が売っている店へと、速水に案内して貰った。

店へ行くと、とても沢山の紙が売っており、速水が見つけた紙は、確かに一夜はとても好みだ。

百枚入って一束。

その一束だけ買った。

一束だけなのは、単に持てないからだ。

気に入れば今度、父に車を出して貰い、買いにこよう。


「久我、お礼に何か奢るよ。何がいい?」


速水は、昨日友達と食べたたこ焼きが美味しかったから、一夜にも勧めた。

一夜と速水は、速水の案内で、たこ焼き屋の前に来た。

とても繁盛していて、列が出来ている。

でも、少し待てば買えるし、回転率が良いから、この分だと五分位だろう。


列で待っている時も、一夜は速水と色々な話をしていた。

とても、心地よかった。

意識するのとしないとでは、こんなに人との会話も違うのか。

一夜は、今後も、速水を意識して、身体と心を使い全体で接しようと思った。


たこ焼きを買い、近くのベンチに座った。

一夜は、自分のカバンから携帯用のお手拭きを速水に渡した。


「用意いいわね。」

「インクが手に付く事もあるから、携帯しているだけだよ。」

「一夜らしい。」


お手拭きで手を拭いた後、たこ焼きを食べ始めた。

速水が薦めるだけある。

とても美味しい。

ホクホクと口の中に、たこ焼きを食べていると、一つ聞こえて来た声があった。

『あの二人』『男の背、ちっさ。』『女の子かわいいのにかわいそ。』だった。

速水は、一言言いたくて立ち上がろうとしたが、一夜が速水の肩に手を置いて止めた。


「一夜。」

「言わせておけばいい。気にするな。」

「でも…。」

「そんな人達よりも、俺に集中。」


一夜は、手を置いた速水の肩を、人差し指で叩く。

その時、速水は自分の肩に一夜の手があるのを感じて、顔が赤くなる。


「あ…ありがとう。一夜。」

「いいよ。それにしても、たこ焼き、熱いな。」

「そ…、そうね。」


少しだけ冷えたタコ焼きだが、熱く感じてしまう。

食べ終わり、たこ焼き屋が設置してくれているゴミ箱へ容器とつまようじ、お手拭きを捨てた後、たこ焼き屋の定員に「ごちそうさま」を言い、手を繋いで速水の家まで一夜は送った。


「今日は、ありがとうな。久我。」

「こ…こちらこそ、ありがとう。」

「風邪、流行っているからな。暖かくして、早目に寝なよ。」

「そっちこそ、気を付けてよね。締め切り、間に合わなくても知らないよ。」

「大丈夫。全部、文は書き終えているから、後は、本にする為に原稿を作成するだけだよ。今回は、絵本だから、絵も描くよ。この紙、プリンターで刷れるといいな。」


二言、三言、話をしてから、速水と分かれて、家へと帰る。





部屋に着くと、部屋の中が夕日に照らされて、綺麗なオレンジ色となっていた。

一夜が床に座り込んで、一息、吐き出した。

すると、一夜の脳に語り掛ける声が聞こえる。


「よくがんばったな。一夜。」

「本当、今日の一夜、かっこよかったぜ。」

「肩に手を置くのは、まだ早かったのはと思います。一夜。」


感想を、兄達は言った。


「海兄、やっぱり、肩に手はやりすぎだったか?」

「まあ、あの場合、抑えられたから、結果的に良かったです。でも、ハラスメントになるといけないから、気を付けて下さい。」

「あっ、今後の課題にするよ。」


すると、空兄は、嫌な顔をした。


「海、そんな事を考えてばかりだと、何もアプローチ出来んではないか。好き合っているなら、別に良かろう?」

「空は、考えなさすぎ。それで、勘違いされた時があるだろ?」

「あれは、あっちが勝手にだな。」


空兄と海兄が言い合いをしていると、陸兄が仲裁して、止めた。


「ん?一夜?」


兄達は、気づいてくれた事に嬉しかった。


「一夜が、俺達を兄と呼んでくれるなら、君付けはどうかって思って、呼び捨てにしようって相談したんだ。」

「文句あるなら、提案した陸に言え。」

「一夜、どうですか?」


一夜は、同じように嬉しくなった。

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