5「変化」

「さてと。」


一夜は、自分が倒れた押しボタン式の横断歩道へ来た。

現場検証ではないが、自分の置かれた情報を整理する為である。

一週間も経てば、ここで倒れて、救急車まで来た形跡はないが、一つだけ無いものがあった。


USBメモリー。


制服のポケットに入れて置いたUSBメモリーが、ポケットから無くなり、カバンもプレゼントの袋の中も見たがなかった。

両親にも聞いたが、病院にいた時も、一夜の持ち物になかったと聞く。

だったら、倒れた時に出た可能性があった。


朝も一度見回して見たが、遅刻しないかと思い、確認は出来ない状態だった。

だから、夕方にしたのであるが、見つからなかった。


中身は、そんなに大切なデーターが入っている訳ではなく、ただ単に今書いている物語の設定資料だ。

文字で書いただけのキャラの自己紹介や、人物相関図に、年齢の一覧表位で、他には入っていない。

それに、同じデーターが家のパソコンにもあるから、無くなった所で痛くないが、そのUSBメモリーはとても使い勝手が良かったし、自分が初めてデーターを入れた物だったから、思い出もあった。


「無いな。誰かに拾われたか、それとも、車道に出て車にひかれて壊れたか。」


一夜は、諦めて、家へと帰った。


家へ帰ると、挨拶をしてから、手を洗い、自分の部屋に入った。

制服とコートを脱ぎ、ハンガーに掛けてから、着替えて、椅子に座る。

諦めても、心の底では落ち込んでいた。

そんな時、頭痛がした。


瞬間。


「一夜君、よしよし。」


何故か、頭の中で声が聞こえた。

声は、知っている。


「えっ、青田さん?」


目を閉じてもないし、意識もしてないが、青田と話が出来た。

一夜は、自分の体を見て、目が開いている事を確認すると、驚いていた。


「青田さん、目瞑らなくても話出来ていますよ。」

「本当、どういう原理なのかな?」


一夜は、青田以外にも話が出来るかを、試した。


「黄田さん?話せますか?」

「おう。」

「赤田さん、話せますか?」

「はい。大丈夫です。」

「青田さん、話せますか?」

「話せるよ。」


どうやら、もう、目を瞑らなくても、話せる。

原理は分からないが、時間を見ると、最初に話をした時間が、この夕方だった事もあり、時間が関係していると推測した。


「いつでも話せるって、便利だね。」


一夜は三人に言うと、赤田は一夜の頭をなでて感覚を残した。


「便利だけど、一夜君は良いのですか?僕達が、常に一緒なんですよ?」

「それは今更だと思うよ。生まれた時から一緒ってことは、ずっと血液の中で俺を見ていた。俺が何をしようが、何処にいようが、意識していなかっただけで、三人は俺と一緒にいてくれたって事でしょ?いいよ、個人情報も関係ないよ。それよりも、三人は俺で良いの?俺って、そんなに面白くないでしょ?」


三人は、目を合わせて、ニヤリとする。


「一夜君、楽しいから。小学一年生の時、絵本作ろうとして、漢字を辞書で調べたけど、漢字が上手く書けなくて、泣きながら練習したり。」

「がんばって腕ふって走っても、速水だっけ?追い付けずに、いらだったり。」

「製本途中にカッターナイフで、指を切って、急いで隠したり。」

「」「」「」と、一夜の失敗や、苛立ち、初めての出来事とか、色々と見て来た話していた。

一夜は、記憶にない内容を知った。


「本当は、速水さんの事好きなのに、隠すのかわいいよね。」


青田は言うと、一夜は顔が真っ赤になった。

一夜は速水が、本当は好きだが、自信が持てずに、何時まで経っても親友でいるのは、理由があった。


「俺、小さいし。」


そう、一夜は、自分の身長が低いのを気にしていた。

速水は、一夜よりも身長が高い。

一夜が速水の身長を超えるまでは、親友関係でいたいと思ったが、高校生になっても、この身長では望みは持てない。

半ば速水を諦めていたが、当の速水が積極的で、素直に一途に好きだと言ってくるから、諦められない。


「自分の気持ちに素直なのが一番ですよ。一夜君。」

「そうそう、俺達は、三人とも幼馴染が好きで、二十歳になってから告白しようと思っていたんだぞ。もう諦めているけどな。」

「言えなくなる前に、気持ちを伝えるのも、大切だよ。」


三人の言葉は、痛いほど伝わってきた。

事故がなければ、今頃はどうなっていたか。


「二十歳になったら……、うん。俺も、速水には二十歳になったら、告白する。」

「いや、一夜君は、早目がいい。」


青田は、一夜に助言する。


「それは、どういう?」

「今日、一夜君の周りが変わったのは、気づいたと思う。」

「確かに、寒気を感じた。」

「一夜君も推理したと思うけど、俺達が覚醒したからだと思う。俺達が持っているオーラって言うのかが、一夜君の身体によみがえった。」


続けて、赤田は話す。


「一夜君。君が、周りから意識され、男女関係なく、人気になります。そうなれば、速水さんからすれば、どう映ると思いますか?」


一夜は、一瞬、背筋が凍った。


「それは危険だ。」


速水は、一夜がとても好きだ。

それは、ずっと変わらない。

だが、それは周りが一夜に興味が無かったから、言い続けられた言葉だ。

それが壊れた時、速水は一夜に対して、いや、周りも含めて、狂暴と化すだろう。


いい例が、ビルの自動販売機での出来事がある。


速水は、一夜を取られると思った瞬間に、力づくで抑えようとする。

そこは、自分の事の様に、黄田は知っていた。


「つまり、一夜が早めに速水を自分の中にいれないと、地獄を見るって事だ。」


黄田は、人事ではない。


「あの時は、本当に黄田は大変だったからな。」

「僕達が、傍にいて、守れたから、地獄までは無かったわけです。でも、一夜君が置かれている立場は、大変だと思います。」



三人が思い出している内容が、一夜の脳裏に流れて来た。



幼馴染の女の子が、黄田の喧嘩に巻き込まれ、怪我をした。

怪我は、かすり傷に過ぎず、舐めて置けば大丈夫な程度だ。

だが、好きな子の身体に傷があり、血が出ていたから、黄田は冷静さを保てなくなっていた。

その時、青田と赤田が現れ、黄田を止めて、幼馴染の女の子も手当をして、黄田の暴走が収まった。



黄田を速水に置き換えた一夜は、自分の気持ちを整理し始めた。


「平和に過ごす為には、俺がしっかりしないと。」


一夜は、自分の両手を胸に置き、心臓の音を手に確認した。

いつもよりも早い心臓を、手で訊くと、素直に速水の姿を思い浮かべて、愛おしくなる。


「分かった。がんばってみる。って言っても、その現場には一緒にいるんだから、報告もないけどな。」

「まあ、こればかりは、仕方ない。本当は、告白なんて、二人きりが良いと思うが、俺達が付いている。」

「応援しています。」

「速水も人気あるからな。がんばれ。」


三人は、応援してくれた。

一夜は、ふと思った。


「呼び方変えよう。」


一夜は、その一言を発して、続ける。


陸兄りくにい空兄そらにい海兄かいにい。苗字で呼ぶから、受け取り方が違和感だった。そう、三人とも、俺の兄貴。そういう認識でいい?」


三人は、一人っ子だったから、兄と呼ばれ、くすぐったかった。

でも一夜が、それで満足するならと思い、受け入れた。

この説明文も、なるべく、それで行こうと思う。


それから、夕ご飯の用意が出来たのを、夕海が知らせに来てくれて、夕飯を食べた後、風呂に入り、歯磨きをして、課題を済ませて、物語の続きを書く。

そして、ベッドに入ると、スマートフォン点滅しているのを知った。

この点滅は、メールが来ている証拠だ。

スマートフォンを操作すると、速水からのメールだった。


『今日、友達と行った店に、良い材質の紙があったよ。きっと、一夜、気に入ると思うから、近い内に案内がてら、一緒に行こう。』とあった。

一夜の個人的な趣味でも、理解してくれる速水が愛おしくなり、メッセージをなでる。


そして、一夜もメッセージを伝える。

『早速行きたい。案内よろしく。』まで入力して、少し考える。

追加で『いつもありがとう。感謝している。久我、また明日。』と加えた。

そして、送信し、ベッドに横になると、眠りに落ちた。

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