4「親友」
月曜日になり、学校へと行ける。
普段、毎日行っている朝を迎えて、家を出ると、親友が待っていた。
いつもは、学校で会うのだが、今回は入院して一週間も休んでいたから、心配で家まで迎えに来ていた。
「おはよう、一夜。」
「おはよう、久我。」
一夜に挨拶した親友は、
誕生日は、十一月八日。
親戚を知らなく、両親は中学一年生の時に亡くなって、天涯孤独となった。
両親が、きっちり生命保険に入ってくれていて、今、過ごしているアパートも速水が十八歳になるまでは、家賃を前払いしていた。
先生は知っていたが、どうしても大人の許可が必要な書類もある。
それについては、速水と仲が良い神谷夫妻が、代わりを務めた。
速水両親は、生きている時に、何かあれば神谷夫妻に速水を任せる書類を届けており、神谷夫妻も了解をしていた。
時々、速水は一夜の家へと訪れていたから、本当に家族ぐるみの付き合いである。
速水は、一夜と違って背は、百六十センチで、一夜よりも十センチ高い。
筋肉質でもなければ、高身長って訳でもない。
一般的に特徴がない、高校生だが、足だけは速い。
小学生の頃は、運動会でも前に人がいれば、軽く追い越していける脚力を持っていた。
でも、中学では、走るのを辞めてしまった。
部活も、一夜と一緒の文芸部へと入っていた。
一夜は、勿体ないと思っていたが、速水が走る事を望まないなら、仕方ない。
「体調どう?」
登校している道に、何が入っているかは分からないが、十階建てのビルがある。
ビルの隣は、倉庫で、いつもシャッターは閉まっている。
ビルと倉庫の間には、自動販売機が一台置いてあった。
自動販売機の品は、一本五十円と安く、見つけた時には、目を輝かせた。
品揃えも良く、コーンスープやお汁粉の他に、つゆの素や、飴が缶に入って売っていた。
中でも何が出て来るのか分からないお楽しみボタンも一つあり、以前やった時には、めんつゆが出て来た。
せめてその場で飲める飲み物が出てこないかと思ったが、本当にランダムで入っているらしく、次に速水がボタンを押すと、炭酸飲料が出て来た。
実は、この自動販売機は、ビルと倉庫に努めている社員が、買い物に行く余裕が無い時に、利用にと社員価格で安く購入が出来るように設置されたのだが、二人はこの自動販売機が好きになっていた。
二人が利用しているのは、社員達は知っていたが、別に文句はなかった。
逆に、利用してくれると、新しい品が入るから、都合が良かった。
二人は、いつも、この路地で話しをするのが、楽しみになった。
今日も、自動販売機の路地にいて、一夜の体調を訊いて来た。
「見た通り、大丈夫だよ。入院だなんて、大げさなんだよ。」
「でも、頭打ったかもしれないし、意識無いって聞いた時は、本当に心配した。一度、病院に顔を出しに行ったけど、一夜の両親がいたし、こういう場合は、家族が優先。まだ、入院しているかなって思って、連絡は控えたよ。家に帰ったと情報もなかったから、どうしたら良いか。」
「ごめんって、久我に連絡は、本当に忘れていたんだよ。昨日、思い出して連絡したんだ。今日は、家まで来てくれてありがとうな。」
「何かあったの?」
一夜は、一瞬、青田達三人が頭を過ぎった。
一般的に血を採取するであろう腕を掴み、覆った。
何故か、青田達三人の存在を知られてはいけないと思い、覆い隠した。
速水は、覆った手を取り、秘密を暴くように奪った手を、自分の手でビルの壁に押し付ける。
速水の力は強く、一夜の手が硬直していた。
「久我、痛いって…手、放せ。」
手と聞いた瞬間、速水は冷静さを取り戻し、一夜から手を離した。
「ごめん、一夜にとっては、大切な手だから。大丈夫?動く?」
「大丈夫だけど、久我って俺に何かあると、直ぐにこうだからな。」
「仕方ないでしょ?一夜のこと、好きなんだから。」
「はいはい、それは分かっていますって。でも、久我こそ大丈夫か?ビルの壁に指、すっただろ?」
一夜は、自分の手をグーパーして大丈夫と、速水に見せた後、速水の手を取って見る。
少し赤くなっている程度で、皮膚は何ともなかった。
安心した一夜は、速水の顔を真っ直ぐに見る。
「全く、こっちこそ心配だよ。久我は、女の子なんだから、自分の体、俺よりも大切にしなよ。」
「だ……だったら……。少しは………。」
気にして欲しかったけど、一夜には、そんな余裕はないのは知っていた。
一夜は、何か言いたげな速水を見て、肩から息を一つ吐いた。
「仕方ないな。」
速水の手を握り、そのまま学校へと向かう。
速水は、手から感じられる温かさが、とても嬉しかったから、機嫌を良くした。
学校へ着くと、誕生日から一週間休んだから、クラスメイトは心配をしていた。
元気だと話すと、安心してくれていた。
こんなにも優しいクラスメイトがいて、一夜は心から感謝した。
学校の授業も楽しく、もしも、生まれたばかりの時に命を落としていたら、こんな光景はなかったんだろうなって思うと、三人に感謝しかない。
ふと、血管が良く見える手の甲を見ると、ありがたくなり、とても愛おしく感じた。
瞬間、教室の空気がザワリと変わった。
変化を気づかない一夜は、そのまま手を見続ける。
「ちょっと、一夜。」
速水が、慌てて声を掛ける。
何事かと一夜は思い、周りを見ると、背筋がヒヤリとし、自分の身の危険が感じられた。
周りの目が野獣の視線で、引き付けられる感情を込めた顔をしていた。
一夜は、自分自身は自信がなく、顔も一般的男子よりは劣っていると思っていたが、何か今日は様子が違って見えたと、速水は言った。
青田、黄田、赤田は、容姿が良かった。
男の一夜から見ても、かっこいい。
その血が覚醒っていったらいいのか分からないが、目覚めてしまったから、一夜の身体も違ってきたのだろうか?
放課後になって、下校する時間になった。
速水は、女の友達と帰るから、一緒に帰らない。
一夜が好きな速水だが、友達の関係も大切にしているから、とても関心する。
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