3「接触」
入院中の出来事を、一夜に話をした。
一夜は、頭を抱えた。
「えっ、何か?まとめると、血を提供してくれた三人の両親に会って来いと。」
簡単にまとめた一夜に、朝彦は聞く。
「出来そうか?」
「身体を貸すには別に良いが…………、俺で良いのか?」
一夜は、自分の身体に自信が持てて無かった。
顔立ちは、周りと変わらないし、身長は百五十センチと男子の中では小柄で、体重も軽すぎるし、体力も平均的、学力だけは上位だが上には上がいる。
「三人が、一夜と話をしたいと言っているから、もしも、話しかけられた場合は、答えてやるといい。」
「まあ、ここまで、目立った怪我も病気もして無いからな。三人のおかげでもあると思うから、お礼の為に協力はするけれど、話しかけてくるタイミングは考えて欲しいな。」
一夜は、一言発して、自分の部屋へと入った。
部屋へと行くと、大きな机に置かれている誕生日に貰ったプレゼントを開けられていない状態を、目にした。
様子見で学校を休んでいるが、体調的には元気で問題はないし、精神的にも安定をしている。
今、やれる事は、プレゼントの山を開けるだろうと思い、ていねいに開けていく。
本当にプレゼントをくれる人は、一夜を良く分かっていた。
「ありがたいなぁ。丁度、交換しなきゃって思っていたんだよ。」
プレゼント…インクカートリッジを手にする。
一夜は、毎年一月にプリンターを新しい製品に買い替える。
インク切れになっていたプリンターにインクカートリッジを交換し、試し刷りをすると、紙に載った文字や写真を見て、ウットリしている。
一夜は、小説を書くのが好きで、自分で作成し、印刷し、本にして、年に二回の戦場に向かっているし、自分のホームページを作成して、売ったりしている。
その為に、大量にインクが要る。
この活動をしているのは、周りは知っている為、プレゼントはインクカートリッジがいいのでは?と考えて、毎年、使っているプリンターを一夜に訊き、そうなった。
一夜の書く小説が面白いから、先生も一夜のファンで、新刊を売って貰っている。
「印刷の音、紙が出てくる瞬間のワクワク感、もう堪らない。」
一夜が、この様になったのは、幼稚園の年長組の時。
一夜の通う
大学四年生だ。
保育士の女性は、自分が作っていた本を読み聞かせていた。
その内容がとても面白くて、本の作り方を一夜は聞いた。
一夜は物語と本を作り始めて、最初の読者は両親だった。
両親は、とても楽しくて、褒めてくれた。
それが手伝い、それ以降も沢山の物語と本を作っていった。
「この休みを有効に使おう。」
一夜は、早速、パソコンを起動させる。
ワードを開き、今作っている物語を打ち始めた。
とても楽しくて、つい、時間を忘れてしまうから、一時間タイマーを計った。
以前、中学三年の受験生の時に、朝まで作業をしていて、両親に叱られた。
それ以来、タイマーを計っている。
一時間経ち、タイマーが音を鳴らすと、結構な物語の量になった。
保存をして、席を立ち、外を眺めると、夕日に照らされる。
「夕方か…。こういうのを黄昏時とか、逢魔が時とか言われるけど、幽霊とかも、この時に起きるのかな?」
一夜は、夕ご飯まで、後一時間あるのを確認すると、ベッドに座り、目を瞑った。
意識を自分の呼吸に合わせて、深呼吸をし、自分の血の流れを意識した。
「俺の中にいる、三人。話しがしたい。出てきてくれ。」
すると、一瞬、頭痛が走った。
目を瞑っているにも関わらず、目の前には三人が部屋に立っていると感じた。
よくゲームや漫画で見る霊みたいに、身体が透けている訳でも無く、周りに青白い枠がある訳でも無く、本当にこの部屋に三人がいて、立っている感覚だ。
今、お茶でもどうぞと差し出したら、受け取って飲んでくれて、湯呑にも指紋が付いて、飲み終わった後に付いた唾液を採取し、検査出来る位、その場に三人が、手を伸ばせば触れる程、感じていた。
しかし、目を開けたら、三人は消えてしまうかもと思い、瞑ったままで話しをする。
「俺の名前は、神谷一夜。誕生日は、二月七日。先日、入院して退院したてで、今は、様子見で自宅待機となっている。貴方達三人は、俺を産まれたての頃に助けて頂いたで、間違いは無いだろうか?」
声を出して話しをすると、三人の一人が一度前に出て、一夜の頭に手を乗せる。
すると、一夜はその一人の外観がイメージとして、頭に流れてきた。
背は、百七十センチありそうで、髪が黒色で、後ろで一つに束ねてあり、横に細い眼鏡をかけていた。
髪は、腰まである長さで、サラサラとしていた。
とても優しそうな顔立ちをしている。
「私は、青田陸。土筆高校に通っていた。誕生日は、四月四日。話しかけてくれてありがとう。一夜君。」
続いて、一夜の頭に二人目が触る。
二人目の印象は、身長だけだと青田と同じ位だが、筋肉質で大きく感じる。
髪は短く、洗うにも乾かすにも時間が掛からない。
しかし、顔が怖いのが印象的だ。
「俺は、黄田空だ。同じく土筆高校に通っていた。誕生日は、八月八日。今、顔が怖いって思っただろうが、俺は喧嘩をしていたから、仕方ない。気に入らない者は殴ってきたから、結構、先生も親も苦労したと思うぜ。」
「そ…、そうなのか。」
一夜は、苦手だと感じ、少し顔をこわばらせる。
すると、後一人が、一夜の頭に手を乗せた。
背格好は、青田と同じ位だが、眼鏡はしてなく、髪も短髪だ。
だが、身体は黄田よりは細いが、筋肉はありそう。
青田と黄田の間だと、一夜は感じた。
「空、一夜君が怖がっています。そんなに喧嘩になる様な言葉遣いをしないで下さい。ごめんなさい。一夜君。空、こんな怖い顔と言動をしているけど、優しい子なのです。喧嘩にも理由があって、困っている人を助ける為に、暴力しただけなのです。言葉で話し合いをすればいいのだけれど、手が先に出てしまうのです。」
「あー、雨の日に捨てられた動物を拾って、内緒で世話したり?」
「そんな感じです。」
話しをしていると、黄田は頬を赤らめているのを感じた。
黄田の気持ちを、頭から受け取る感覚が教えてくれている。
「黙れとか言わない辺り、黄田さんの人柄は分かりました。」
一夜は、黄田を改めて感じる。
「あっ、忘れていました。僕は、赤田海。同じく土筆高校に通っていました。誕生日は、十二月十二日。家は、道場をしていますが、今も残っているか。僕が跡取りでしたから、僕が亡くなってからは、誰が継いでいるかも分からないですし、もう道場を辞めてしまったかもしれません。」
「道場…空手?」
「はい。」
一通り、自己紹介が終わると、一夜は一言。
「協力はしますが、俺で何とかなるかな?」
一夜は、自分の姿を頭に映し出す。
不安なのだ。
この小柄な体は、この三人とは合わない。
もしも、両親の目の前に立っても、自分の息子だと分かるだろうか。
「それは、一夜君が考える事ではないよ。俺達が自分で考えて、一夜君に提案する。一夜君は、体を貸してくれれば、それで良いよ。」
青田は、一夜の気持ちを第一に考えて、優しく包んだ。
「確かに、一夜君の背格好を考えると、僕達とは程遠いかもしれないけれど、でも、気持ちだと思うし、分かって貰える材料は、それぞれが考えれば良い。それよりも不安なのは、空の家だよ。」
「あー、そうかもな。」
一夜も黄田へと意識を映すと、この親だもんなぁと思いながら、想像した。
想像としては、キッチリしているか、黄田の様に喧嘩腰なのかの二つだ。
「一夜君、空の両親は空と似ているよ。」
「防犯チョッキとか、腹に雑誌とか仕込んで、出向けば良いですか?」
「あはは…、一夜君、面白い考えするね。」
青田は一夜と話すと、赤田も入って来た。
「でも、一夜君の身体だと、防弾チョッキと雑誌は重たいですから、肩に負担かかりますよ。一夜君、物語を書く為に、そういうの駄目でしょ?」
「あー、そうですね。黄田さんのご両親にお会いする時には、仕方ないので、その後のケアとして、接骨院と整形外科の予約を入れて置きますよ。」
「それが良いかもしれませんね。」
青田と赤田と一夜が、黄田の事を話している間、黄田は、一夜に申し訳ない顔をしていた。
この十六年間、三人は一夜を血液の意識から見ていたから、一夜の事は誰よりも知っていた。
「でも、黄田さん。十六年経っていますので、ご両親は落ち着いているかもしれませんよ。」
「そうだと願いたい。」
話しをしていると、三人と話す前にセットしたアラームが鳴り、一夜は目を開けた。
瞬間、三人の姿は消え、感覚もなかった。
アラームを止めると、夕海が夕食の支度が出来たと、扉を開けずに知らせてくれた。
一夜は、答え、部屋を出る前に頭を触る。
三人が触れた所に手を置くと、とても照れ臭くなった。
急に、兄が三人出来た感覚になった。
夕食の時、三人と話した内容を両親に報告する。
両親は様子を訊いてきて、一夜は質問に答える。
「もし、また、話をする時は、知らせて。身体に異変があると心配するわ。」
夕海は、一夜の身体を心配した。
出来ればすると、一夜は返事した。
今日は、寝る前にもう一度、物語を書いてしまいたかった。
風呂も入り、歯磨きもし、明日の服の用意をして、椅子に座った。
今書いている物語は、絵本で、全年齢読めるファンタジーである。
言葉遣いを、幼稚園に通っている人にも読めるひらがなだけにするべきか、小学生までに習う漢字を使って作成するべきか、色々と直ししながら、作業を進めた。
その時、子供用と大人用に分けてみてはどうかと、考えた。
子供用は、描写も柔らかくして、ひらがなが多めに、大人用は、少しだけ深くして、漢字を使う。
早速、小学一年から中学三年までの漢字ドリルを、棚から出した。
一夜は、小学一年生から中学三年生までの教科書やドリルを取っておいてある。
物語を書いていると、それらの教材もネタの一つとして大切だ。
それに、道徳は一番必要で、人間の感情を表現するには、とても重宝している。
一覧を開き、スキャナーで取り込む。
画像として、データー化し、A4サイズの紙に印刷をした。
印刷した写真を、いつでも取り出して確認する為に、パソコン本体の上に置く。
今では、インターネットを使えば、一覧を印刷できるように提供しているサイトがあるのだが、買ったばかりのプリンターを使いたかった欲望に負けて、面倒臭い作業をした。
プリンターは、スキャナーの機能もあるから、そのテストも兼ねていた。
物語を上書き保存して、今日は眠りについた。
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