2「入院」

次に目を覚まして、見た景色は病院の天井だった。


目を動かすと、そこには、心配な顔をして見ている両親だ。

両親の話からすると、横断歩道で急に倒れて意識を失い、救急車で運ばれ、今日が入院二日目。

丸一日、意識なく眠っていたのかと、受け入れた。

それから、色々と検査をして、入院三日で家に帰れた。


学校へは、次の月曜日から行くとして、今日は木曜日。

この四日間は、様子を見て自宅待機をしている。

母は、心配で仕事を休んでくれている。

父もいつもより早く帰って来てくれて、いつもより会話をしてくれている。

何故か、とても、誕生日前よりも、大切にされている。


「父さん、母さん、俺、もう何とも無いよ?」


すると、父は、母と目を合わせて、合図を送り、二人ともこっちを向いた。



「心して聞きなさい。神谷一夜かみやいちや。」



フルネームで、父から呼ばれ、少し身体を硬直させ、背筋を伸ばした。

父から伝えられた言葉は、信じられない内容だった。



一夜は、生まれた時に血液交換をしている。

父と母の血が合わなくて、生まれてきた時に危険な状態であった。

その時に、高校生三人の血液を輸血された。

そこまでは大丈夫だった。

しかし、今回、意識を失った事により、入院中に事件は起こった。




入院一日目の夕方。



夕日に照らされて、病室はオレンジ色へと染まっていた。

両親は、一夜の寝顔を見ていると、一夜の目がゆっくりと開いた。

目を開いた時、両親は一夜の名前を発したが、その後の言葉は想像している言葉ではなかった。


「はじめまして、私、青田陸あおたりくです。この神谷一夜に、血液を与えた一人です。」


その言葉から始まった。

神谷一夜の両親、父、朝彦あさひこと、母、夕海ゆうみは、青田の話しを訊いた。





青田陸には、幼馴染が三人居た。

その内の一人が女子で、目の手術で四日間入院となっていた。

輸血をする日は、残りの幼馴染二人といて、丁度、その女子の見舞いに来ていた。

目には眼帯がされていたが、非常に元気で、受け答えも出来ていた。

明日退院だから、その間休んでいた学校の授業でのノートとプリントを届けに来ていた。


献血の時間になったから、見舞いを済ませた。

幼馴染の二人も献血に選ばれており、参加していた。

献血が終わり、全ての工程を済ませた後、帰って良いと許可が得た。

三人とも両親に終わった報告をスマートフォンのメール機能で済ませ、帰りにコンビニに寄って、ジュースを買い、無事に献血の任務を完了した乾杯をしようと話しをして、病院から出た。


病院沿いにある歩道を歩いている時だ。


献血をした後は、身体に倦怠感が残っていた。

しかし、そこは若さでカバー出来ていると思っていたが、判断が遅れた。


この日、歩道を乗り越えてきたのは、スマートフォンを片手に、ドリンクフォルダーには酒が蓋を開けてある、シートベルトをしていない運転をした者が操る車だった。

酔っぱらっていて、歩道に乗り上げても、ブレーキをしなく進もうとしている。

その車の下敷きになっていたのは、赤田陸他、二名の男子で、即死していた。


この事件は、新聞やニュースに取り上げられ、ネットでも騒ぎになっていた。

十六年前の出来事でも、この事故は忘れなく語られ、交通事故のニュースの度に参考として出されていた。

それ位、有名だが、三人が行った献血については、語られておらず、神谷一夜への血の提供は情報にはなかった。

情報としてなかったには、個人情報が含まれるからであった。




「その事故は、今でも覚えているよ。あの時、私はその病院にいたからね。」


朝彦は、一夜が輸血をする日で、仕事を休みにして見に来ていた。

この輸血が、無事行われるかどうか心配であった。

夕海も出産したばかりで、入院をしていたから、知っていた。


「あの時は、病院の付近で交通事故が起きた位しか知らなかったわ。」


その時、一夜の顔が少し変化をした。

変化をさせた後、目つきが鋭かった。


「はじめまして、俺は黄田…黄田空きだそらという。一夜…君に、血を上げた一人だ。」


その後、また、顔つきが変わった。

次の顔は、真面目な顔で、目や口をキリとさせていた。


「初めまして、僕は赤田海あかだかいです。一夜君に血を提供した一人です。この度は一夜君の十六歳の誕生日、おめでとうございます。僕達が今回、一夜君を通じて意識を持ち、現れたのは本当に奇跡です。」


赤田は、丁寧に挨拶をすると、目を瞑った。

もう一度、目を開けると、最初に見た雰囲気の顔へと変化した。


「…と、この一夜君の身体には、三人の意識があります。血を通して意識を持って出て来るのは奇跡としかありません。ですので、この機会にと、三人で話をした結果、自分の両親に会いたいとなりました。」


その説明を聞いた神谷夫妻は、三人の願いを受け取った。


「分かった。探して報告しよう。しかし、私達が出来るのは、それだけだ。」

「それに、一つ、問題がありますわ。」


神谷夫妻は、協力の姿勢をした。

赤田は、分かっている。


「神谷一夜の姿で、息子だと理解して貰えるか。」

「そう。それは、こちらでは何も出来ない。君達を、私達は知らないからね。だから、それは、君達で考えて欲しい。」

「分かっています。協力して頂けるだけで、感謝しています。」

「こちらも、感謝しています。君達がいたから、一夜は元気に、十六歳の誕生日を迎えられた。ただ、疑問があるのは、誕生日に意識を失い、今、入院をしている現状だ。」


それは、三人も思っていた。


三人が事故死したのは、十六歳。

十六歳が鍵となり、三人は血を辿り、意識が宿ったのではないかと思っていた。

それは、神谷夫妻も思っていた。


「それと、退院した後に、一夜君と話しをしたいと思います。」

「そうだね。でも、まずは私達から、一夜には、話してみようと思う。」

「では、その後に、しようかと思います。」


と会話をし、一夜へと変わり、ベッドへ身体を預け、眠りについた。

この事は、医者には報告はしなかった。

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