第6話 生徒会長は一緒に遊びたいっ!

四連休最終日。

俺は『山下 虎太郎』と駅前に来ていた。


「おい、本当にやんのかよ…俺は見てるだけで良いだろ?」


虎太郎が俺の肩を掴んで涙目になる。


「頼むよぉっ!…お前がいないといくらナンパしても全然相手にされないんだよぉぉおぉ!」


「縋り付くなっ!気色悪いっ!」


そう……せっかくの休日最終日に家でゴロゴロとゲームをしていた時に虎太郎から電話を受けた俺は駅に呼び出されて、ナンパに協力させられるハメになったのだ。


「はぁ…俺は何もしねぇからな?」


「はぁっ!?……お前は良いよなぁっ!?白川様と夫婦って呼ばれて余裕カマしやがってよぉ!!……俺はなぁ…綺麗なお姉様で童貞を卒業したいだけなんだよぉ!!」


「いや、最低かよ…そんなんだから女が寄って来ないんじゃないか?」


虎太郎は見るからに落ち込むようにうなだれた。

俺はたまたま運命的な出会いを白川としただけで、もしかしたら俺も虎太郎みたいに彼女が欲しくてナンパとかするようになるだろうか……


いや、しないな……

俺は同年代の女の子と恋愛がしたい。

間違ってもただコイツのように性欲に従ってナンパとかしたくない。


「そうかもしれないけどさぁ……俺はお前みたいにイケメンでもないし特技も無いんだよ…やっぱ俺って魅力ないのかな…?」


「はぁ?俺のどこがイケメンなんだよ…それにお前の特技はガラス細工だろ?職人みたいで格好良いじゃん」


「その特技をどうアピールすんだよぉ!」


「面倒くさいなコイツ……お前が作ったガラス細工のアクセを何個か持ってきて見せてやれば?」


「なるほど!天才か!?」


元気を取り戻した虎太郎は俺を置き去りにして走り去って行ってしまった。


俺は虎太郎が戻ってくるまで暇になりそうだと思ったから取り敢えずスタバでコーヒーでも飲みに行こうと移動しようとした時。


俺は二人組の金髪のギャルっぽいお姉さんと黒髪のいかにも清楚系なお姉さんに声をかけられた。


「ねぇ…君、今ひとり?暇だったらウチラと遊ばない?」


これって所謂逆ナンってやつか?

だけど正直マルチとかなんじゃ?って疑う気持ちの方が大きい。


「もしかして大学生?背高いね~…結構良いかも…」


黒髪のお姉さんが腕を絡めてくる。


「あぁっ!アミずるいっ…ウチもするっ!」


ギャルのお姉さんはもう片方の腕を絡めてくる。


何この状況……

普通ならお姉さん達に声をかけられたら男は喜ぶのだろうが、俺は正直困るだけで嬉しくもない。

普段から白川といるおかげか女性慣れをしているのかも知れない。

それに比べたら失礼かもしれないけど、この2人のお姉さんと白川の可愛さを比較したら雲泥の差である。


取り敢えず俺は2人の拘束を解き距離を取る。


「すいません…友達と約束があるんで他の人当たってもらえます?」


それでもなお、ギャルのお姉さんは腕を絡めようとしてくる。


「へぇー…クール系なんだぁ、ちょータイプかもぉ~…お友達も一緒で良いからカマってよぉ」


流石にこれ以上は気持ち悪いと感じて強い言葉を使おうとした瞬間。


「…海斗?…なんで…なんでお前だけモテるんだよぉ!!この裏切りものぉぉぉぉおおおぉぉおっ!!!!」


丁度戻って来た虎太郎が泣き叫びながら何処かへ走り去ってしまった。


「いやっ助けろよぉぉっ!!!」


「お友達帰っちゃったね?……ねぇ…一緒に遊ぼ?御礼に二人で頑張って君に気持ちいい事してあげるからぁ」


黒髪のお姉さんが甘えた声を出しながら俺の胸に体を預けてくる。


ここまでされたら気色悪すぎる。

強引にでも引き離そうと俺はお姉さんの肩に手をかけると凛とした声が後ろから聞こえた。


「君達っ!何をしているっ!!」


「はぁ?…アンタ誰よ?」


「私は生徒会長だっ!その人が困ってるように見えたのでなっ!…声をかけさせて貰った!」


生徒会長って言葉と聞き覚えのある声がしたのでうしろを振り返ってみる。


そこには仁王立ちで腕を組み、濡羽色の綺麗な髪をポニーテールにした凄い美人が現れた。

そう、園咲高校生徒会会長の『大倉 薫』がそこに居た。


「生徒会長だからなに?…てか別に困ってないよね?ウチらこれから一緒に遊ぶ予定なんだけど?」


_______いえっ!めっちゃ困ってますっ!


「勘違いしているようだから言っておこう…その人は未成年だぞ?手を出してみろ…君は即刻牢屋行き決定だ」


その言葉で動きが固まったギャルのお姉さんが俺を見てくる。


「一応…高校二年ッス…」


「マジかぁ……さっきの聞かなかったことにしてっ」


ギャルのお姉さんは絡めた腕を解き、黒髪のお姉さんを連れて逃げていった。


「君も災難だったな!橘 海斗君」


「ありがとうございます先輩…というか良く俺の名前知ってましたね?」


「君は意外と有名だぞ?転入して1ヶ月で学校のアイドルを射止めた男だと噂になっていた」


えぇ…まぁそういう噂もでるよなぁ

実際…あながち嘘でもない。

白川は俺に好意を示してくれて、俺も彼女に少なからず思いを寄せ始めている。


「そうでしたか…助かりました…良かったら何か御礼させてください!」


「構わないぞっ!生徒の危機を守るのも生徒会長としての役目だからな!」


先輩は誇らしそうに笑っていた。

どうやら生徒会長という役目に誇りをもっているのだろう。


だけど、そんな先輩に対してずっと疑問を抱いていた俺は我慢出来ずに聞いてしまう。



「あのー…先輩?なんで制服着てるんですか?」


「む…?今日から登校日なのだから制服を着て当然じゃないか…そういえば君は何故制服を着ていないんだ?」


先輩の様子を見るにとぼけている様子もなさそうだ。

俺はスマホ開いて日付を確認してみる。

間違いない…今日は普通に祝日だ。

当然学校も休みである。


俺はこの事実を先輩に伝えなければならない。

この人が何も知らずに学校に行ってそこで初めてこの事実を知った時にきっと…俺は責められるだろう。


「先輩…言いにくいんですけど、今日は祝日ですよ」


一瞬時が止まったように先輩は動かなくなった。


「すまん橘君……今、なんと言った?」


「今日は祝日なので学校休みですよ」


突然先輩は顔を赤く染めて蹲ってしまった。


「うぅっ……恥ずか死ぬぅ」


普段の勇ましい姿から一変して、こころなしか先輩が小さくなっているような気がした。


「先輩…?まぁ間違いは誰にでもありますよ…それに今知れたんだから逆にラッキーじゃないですか?」


「そうかぁ…?」


先輩は目尻に涙を溜めて上目遣いで見つめてくる。


この人なんか可愛いな……


俺は先輩に向かって手を差し出す。


先輩は俺の手を取り立ち上がった。


「ありがとう橘君。でも困ったな…予定が無くなってしまった」


「何処か遊びにでも行けば良いんじゃないですか?折角ですし」


先輩は困ったように腕を組み首を傾げる。


「私はあまり遊んだ事が無いんだ。せいぜい祖父に付き合わされた将棋ぐらいのもので…」


「そうなんですね……それだったら一緒に遊びます?」


「良いのか?…その格好からすると誰かと待ち合わせしてたのではないか…?」


「大丈夫ですよ!待ち合わせの相手は何処かに行ってしまったので…」


「そ、そうかっ…ではお供させて貰おう!」


先輩は嬉しそうに微笑んで俺の手を握りしめてきた。


「あのっ…先輩?手がー……」


「あっ……すまん橘君…つい嬉しくてなっ……嫌だったか?」


先輩が不安そうに見つめてくる。

…可愛い


先輩は美人だから余計にギャップで弱々しい姿が一段と可愛く見えてしまう。


「全然嫌じゃないですよ?俺も先輩と遊べて嬉しいです」


「っ……そ、そうか」


先輩は急に目線をそらし、髪を耳にかける。

良く見てみると頬が赤くなっているように見えた。

もしかして熱でもあるのだろうか?

少し心配である。


「先輩…?少し顔が赤いですよ?もしかして熱とか…」


「なっ……大丈夫だっ!……これは何でもないっ!」


「でも…」


「だから大丈夫だっ!特に問題ないっ!…………君はとんだ女たらしだなっ…」


最後に何か言ったようだが聞き取れなかった。

でもこれ以上追求しようとすると、きっと先輩も怒るだろう…


「なら良いんですけど…それより、先輩は行きたい所はありますか?」


「それなら______________」


俺達は先輩が行ってみたいと言うところ向かった。




カキンと物が金属にぶつかる音が響く中、俺は先輩の背中を見守っていた。


「ふっ!」


先輩が振ったバットがボールを捉える。

すると特徴的なBGMが流れて機械音で『ホームラン!!』


そう、俺達は近くのROUND1のバッティングコーナーに来ていた。

先輩曰く、昔からのあこがれの場所のようだ。


「ナイスホームラン!」


丁度打ち終わった先輩が扉から出てたので自販機で買っておいたアクエリを渡す。


「ありがとう…ふぅ…思ったよりも楽しいなっ!橘君はやらないのか?」


「俺は先輩の格好良い姿を見れただけで満足です」


「ははっ、何だそれは」


可笑しそうに先輩は笑ってバットを俺に差し出す。


「せっかくなら勝負をしよう!…橘君が私よりも多くホームランを出せたなら、学食を一回だけ奢ろう!」


「んー…もう一声っ」


「むむっ…なら、3回だ!!これ以上は駄目だぞ!?」


「交渉成立ですねっ…あっ、そうだ…俺が負けた場合は何かあります?」


先輩は人差し指を唇に当ててウインクをした。

その所作はとても妖艶で、俺は軽く息をのんだ。


「ふふっ…それは負けた後のお楽しみだ」


俺は会長からバットを受け取るとバッターボックスの中に入る。


球の時速は会長と同じ100キロに設定した。

ちなみに、会長のホームランの記録は、1ゲーム、20本中9本

をホームランボードに当てている。

今日が初めてとは思えないヒット率だ。


正直言うと俺は野球をやったことはないので、そもそも球に当たるかも不安の要素だろう。


「頑張れっ!橘君っ!」


だけど、勝負なのに素直に俺の応援をしてくれる先輩が可愛くて、俺は強張った体が和らぐのを感じた。


そしてスタートボタンを押してバットを構えて前を見据える。

機械の作動音とともにボールが飛んでくるの見えた。


「ふんっ!」


ボールは俺のバットに掠らず後ろの壁に当たる。


アレ…?

難しくね…?


というか…良くあの小さいホームランボードに当てることが出来たなぁ…

先輩の身体能力と反射神経に俺は驚嘆した。


それから俺はバットを振り続けた。

三回連続でボールが当たらず、四回目からバットにボールが当たるようになった。

それでも中々前にうまく飛ばない。


「橘君っ、体の向きが少し前を向きすぎている!バットももう少し短く持った方が良いぞ!」


先輩にアドバイスされてしまった。

少し情けないが、言われた通りにバットを振ってみる。


すると_______

カキーンと小気味良い音が聞こえてバットがボールを捉えた。

ボールは真っ直ぐホームランボードに向かって飛んでいく。


ボールがホームランボードに当たって特徴的なBGMと機械音で『ホームラン!』が耳に入った。


「やったっ……やったなっ!ホームランだぞっ!橘君!」


ホームランボードに当てた俺よりも先輩の方が凄く喜んでいるように見える。

嬉しそうに飛び跳ねる先輩を見ると学生服だからかスカートがふわりふわりと揺らめく。


____先輩っ!?

太ももが……その先も見えそうなんですけど!?

落ち着け…先輩の誘惑に負けるな。


深呼吸をする。

せっかくの勝負だ、どうせなら勝ちたい。

落ち着いた俺は再度バットを構えて前を見据える。


_______これなら少し良い所が見せられそうだ。

この一回で俺はコツを掴んだ。


次も当てるっ!


「先輩っ!……この勝負俺が勝ちます!」


「頑張れっ橘君!!」


十回やってホームランは一回のみ。

ゲームはあと十回だ。

先輩に勝つには残り一回しか失敗が許されない。


そして機械音と共にボールが放たれた。


俺は迫りくるボールを狙ってバットを振るった。


「はあぁっっ!!!」


************************


俺の決死のスイングから時が経ち、ゲームが終わっていた。


結果はというと_______


やはり連続でホームランを出すことは難しく1ゲーム、20本中俺が当てたホームランボードの回数は5回。


普通に俺の負けである。



そんな俺だが、バッターボックスから出て四つん這いになっていた。

その様子を見て、先輩は俺の背中を苦笑いしながら擦る。


「あははっ…まさか最後のフルスイングで腰をやってしまうとはっ……ふふっ、情けない声を出す橘君が面白くてっ…あははっ」



俺は良いところを見せようとした結果。

恥ずかしい負傷をしてしまい先輩との勝負は幕を閉じた。



しばらくして動けるようになった俺は立ち上がる。


「先輩…なんか、すんません」


「気にしないでくれ…それより橘君、この勝負は私の勝ちだぞ?」


そうだった…俺が負けたら先輩に何かされるんだった…


「…先輩、お手柔らかにお願いします」


「ふふっ…では橘君っ!……私のことは名前で呼んでくれ!」


「え…?そんな事で良いんですか?」


「あぁっ!こうして一緒に遊んだら友達なのだろう?…私のことはカオるんでもカオちゃんでも好きに呼んでくれ!…薫と呼び捨てでも良いのだぞっ…?」


どこか期待しているように瞳をキラキラさせた先輩が見つめてくる。


普段クールな美人として学校でも人気な生徒会長。

誰もが羨む完璧なスタイル。

特に豊満な胸に男達は抗えずに視線を送ってしまう。

そんな美人な先輩が子供みたいな笑顔を俺だけに見せてくれる。


普通なら気があるのではないかと勘違いしていまうだろう。


だけど、先輩と一緒に遊んだ短い時間。

先輩がただ楽しそうにバットを振る姿を見れば、そんなことは決して無いと言いきれる。


「流石に呼び捨てはっ……薫先輩でいいですか?」


「むぅ…まだ距離を感じるぞ?せめて、あだ名で_______」


「本当に勘弁してください……流石に俺も恥ずかしいッス」


「わかった、それなら変わりに敬語をやめてくれないか?」


先輩に対してそれも難しいところだけど、他の代替え案も無いから抵抗しても無駄だろう。


「分かりましたよ______」


「敬語!」


「わかったよ……これでいいか?薫先輩」


「うむっ!それで良い!ふふっ……これが友達というモノなんだな」


薫先輩は嬉しそうに目を細めて微笑んだ。


俺はその笑顔に目を奪われて見惚れてしまっていた。

この人はなんて綺麗な顔で微笑むんだろう…

正直白川がいなかったら、俺はこの人に恋をしていたかも知れない。

それほどまでに薫先輩は魅力的だった。


「橘君…?」


「すみません…少し考え事をしていました」


「敬語っ!…それで、何を考えていたんだ?」


見惚れていたなんて正直に言えない…

何か誤魔化せることはないだろうか?


「そうだな…俺だけ薫先輩って名前呼びなのに、薫先輩は俺の事橘って呼ぶんだなって…」


薫先輩は少し考え込むようにして腕を組んだ。


「それもそうだな!それじゃあ海斗君っ!これでいいか?」


何のためらいも無いんだな…?

少し意地悪のつもりで言ったんだけど嬉しそうにしている薫先輩を見ると何も言えなくなってしまった。


「少しお腹すかないか?」


バッティングでとてもいい運動をしたからか、空腹でお腹が鳴ってしまっていた。


「確かに言われてみればお腹が空いているな…」


「それだったらご飯食べに行こうか」


俺達は一度ROUND1から出て向かった先は、駅の近くにあるファミレスに向かった。


中へ入り、席に案内してもらう。

薫先輩はなにやら物珍しそうにメニューを開いていた。


「海斗君……頼みがあるのだが…」


薫先輩はなにか言いづらそうに視線をメニューに向けていた。


「頼みって?」


「そのっ……海斗君っ!…私と恋人になってくれ!」


…………………………ん???


今なんて言った?

恋人になってくれって言ったよな!?


「あの…それってどういう…?」


「恥ずかしいのだが…この" カップル"限定イチゴたっぷりのふわふわパンケーキを食べてみたくて…海斗君に恋人のフリをして欲しいんだ!」


「あー……そういうことね」


「ぅむ…駄目か?」


「いいよ、それ頼もうか」


ベルを押して店員さんを呼んで注文をする。


「はい!かしこまりました!カップル限定いちごたっぷりのふわふわパンケーキですねっ!このメニューは恋人の証として、彼女さんから彼氏さんにキスをして証明をしてもらいます!」


「んなっ…キスだとっ…」


先輩は心底驚いたように口を開いていた。


「薫先輩…無理しなくても」


「海斗君っ!」


何かを決意した薫先輩が右手で俺の頬に触れる。

そしてゆっくりと顔を近づけ、もう片方の頬に口づけをした。


「そのっ…これでどうだろうかっ?」


「はいっ!大丈夫です!ただいまご用意いたしますね!」


薫先輩は頬を赤く染めて、ぎゅっと手を握り込んでいた。


「そのっ…いきなりキスをして済まない…海斗くんの気持ちも考えずにしてしまった」


「そんな事を気にしてたんだ…俺は美人な先輩にキスされて嬉しかったけどな?」


「へっ?……君は本当に女たらしなんだな…」


薫先輩はボソッと呟いたからか、うまく言葉が聞こえなかった。


「なにか言いましたか?」


「はぁ…なんでもない」


しばらくしてパンケーキが届き、カップル用と言われたナイフとフォークが置かれた。

でも一セットしかない。


「俺の分は無いんですか?」


「こちらはカップル用のパンケーキですので、お互いがあーんして食べられるようにする配慮となっております!」


そう告げて店員さんは次の注文を取りに行った。



先輩はパンケーキをナイフで切って何故か俺の口の前に差し出した。


「ん?どうした?」


「あーんしないといけないのだろ?…だから口を開けてくれ」


薫先輩から差し出されたパンケーキを口に咥える。


「どうだ?」


「美味いよ」


「そうかっ!…ふふっ、あーんも悪く無いな!」


先輩は楽しそうにまたパンケーキをナイフで切って俺に差し出してくる。


「ほら海斗くん、あーん」


俺もそれを何も言わずに咥える。


そんな俺たちの様子を他のお客さんが見ていたらしく



______みてっ!あの子達かわいくない?初々しいよねぇ


_____彼女さん凄く嬉しそうね…よっぽど彼氏君が好きみたい



_____俺たちもあのメニュー頼まないか?


______え?うん!


俺と薫先輩によって一時的だが、全体を巻き込んで砂糖菓子のような甘い空間が広がったという。



「美味しかったなっ!」


薫先輩が満足そうにお腹を撫でた。


「そうだな…」


俺達は特に目的なく駅の周辺を散策してみる。

一緒に並んで歩いていたら、薫先輩が突然立ち止まる。

目線を追ってみると、そこにはゲームセンターのUFOキャッチャーがあり、どうやら景品に興味があるらしい。


「折角だし、見に行こうか」


俺は薫先輩の手を引いてUFOキャッチャーの前まで来る。


景品はとても可愛らしいデフォルされたウサギのぬいぐるみがあり、薫先輩はガラスに張り付いて目を輝かせていた。


「な、なぁ海斗君っ!これはどうやって遊んぶんだ!?」


「あぁ、まずはここに百円を入れても、このニつのボタンでアームを操作して景品を持ち上げて、そこの穴に落ちたらゲットって感じかな」


薫先輩は財布から百円玉をとりだし、機械に入れる。


「ふふふっ、必ずこの子達をゲットしてみせるぞ!」


まぁ、先輩ならすぐにコツを掴んで景品を取れるだろう。


そう思っていたんだけど……


「先輩……流石に店員さんも言ってるように、位置を調整してもらおうぜ?」


「だがっ…だがっ…私の力で取らなければぁ……」


「そう言っていくら使ったんだよ…?」


「三千円です…」


薫先輩は小さく縮こまって、後悔しながらも止められないんだろうな…

まさかここまで負けず嫌いとは思わなかった。


「仕方がねぇな…俺がやってみる」


「うぅ…海斗君…無理しなくてもいいんだぞっ?」


申し訳無さそうにしている薫先輩を見ると、このぬいぐるみを取ってやりたくなる。


「無理はしてねーよ…俺が薫先輩に取ってやりたいんだ」


俺は百円玉を機械に入れて、ぬいぐるみの位置を確認する。

薫先輩が操作したあとだからか、少々取りにくい所にある。

これは一回じゃとれないな…


まずは出口に近づけるために、重心が重い頭部を掴んで、引っ張るように移動させる。


「あぁっ……やはり無理なんだろうか…?」


不安そうに先輩が後ろから覗き込む。

大丈夫だ……

運が良かったのか頭部が出口に少しだけ乗っかり、後は足を持ち上げて落とすだけ。


百円玉を投入する。


慎重にボタン操作して、足を持ち上げる。

後は自由落下に任せるだけだ。


そして_______ぬいぐるみが落ちた。


「うっし!」


俺はガッツポーズをしてぬいぐるみを取り出して薫先輩に手渡す。


「良いのか?…これは海斗君が取った物なのに」


「言っただろ?薫先輩に取ってあげたいって」


すると先輩は受け取ったぬいぐるみを抱きしめて微笑んだ。


「あ、ありがとう海斗君っ……凄く嬉しいぃ…」


本当に嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめている薫先輩を見ていると、ぬいぐるみを取れたことを心底良かったと思う。



「お、おう…時間も時間だし…そろそろ帰るか?」


「あぁ、もうそんな時間なのか…」


「途中まで送るぞ?」


「ふふっ……ありがとうっ!海斗君は優しいんだな」


時間はもうそろそろ夕方の17時だ。

まだ暗くはないが明日から学校と考えるとこの辺りで帰ったほうが良いだろう。


俺達はゲームセンターから出て帰り道を歩く。

先輩の家は駅から少し離れた神社の近くにあるらしい。


「今日は初めてのことがたくさんあって凄く楽しかったな…」


「楽しめたようで良かったよ」


「そのっ……海斗君も楽しめたか…?」


そんな心配そうな顔しなくても凄く楽しかったに決まってるだろう。

1日中一緒にいても飽きる時間なんて無かった。

むしろ色んな薫先輩の顔が見れて良かったとすら思う。


「そんな顔すんなよっ?楽しかったに決まってんだろ?」


「そ、そうか…なら良いんだ」


隣で歩く先輩を見つめる。

夕日のせいだろうか?

微かに頬と耳が赤いような気がする。


「薫先輩…?少し顔が赤くなってないか?…熱とか?」


「んなっ……赤くなんてっ…」


そう言って急に薫先輩は走り出した。

眼の前はもうすぐで階段だから危ないと思って俺は声をかける。


「走ったら危ないぞ!」


「えっ?きゃああぁっ…」


薫先輩は足を踏み外したのか体制が横を向いていた。

このままでは大ケガするだろう。


「先輩っ!!」


俺は全力で走って先輩の手を掴む。

だけど支えることが出来ずに俺も落ちる。


薫先輩だけでも助けようと俺は全力で彼女を抱きしめる。

階段の高さは五メートル。

背中を打ち付けても最悪死なないだろう。


「んぐっ!!」


落ちたと思った瞬間に強い衝撃が背中に伝わる。


腕の中の先輩を確認する。

怪我は無さそうだけど心配で俺は先輩に声をかける。


「薫先輩っ…怪我はないか?」


俺の上から起き上がった先輩は


「私は大丈夫だっ……だけど、海斗君がっ!!すまないっ…私のせいでっ……っ…」


突然頬に水滴が流れる。


見上げると先輩は涙を溢れさせて、悲しそうに泣いていた。


「ごめん…ごめんなさいっ……ごめっ……ん…っ…」


あぁ…無事で良かった…

それだけで体を張って良かったと思う。

俺は彼女の涙を指で掬う。


「ははっ…泣くなよぉ…それに謝らなくていい…」


「だがっ……っ…私がっ…」


俺は彼女の頭をできる限り優しく撫でる。


「それ以上は言うな…俺は謝罪よりも御礼が聞きたいな?」


俺は薫先輩に笑ってほしくて惚けるように言ってみる。


「んっ!…ありがとうッ…海斗君っ……ありがとうっ!」


「どういたしましてっ…」


少し見つめ合って薫先輩は笑い出す。


「ははっ…ありがとう海斗君! 君のおかけで私は無事だぞ!」


少しぎこちないけど、普段通りの先輩を演じてくれるらしい。


しばらくして俺達は立ち上がった。

この階段の下が丁度先輩の家の近くらしい。


「海斗君…本当に一人で大丈夫か?せめて家で手当をさせて欲しいんだが…」


「大丈夫っ!痛みは一瞬だったし…ほっといたら治るだろう」


「駄目だぞ!絶対腫れてる…だから、明日は必ず病院に行くんだ!…約束だからな?」


先程まで出来事が嘘のように強気になる先輩を見てつい笑みが溢れてしまう。


「笑い事ではないぞ!……全く君と言うヤツは…」


「ははっ…悪かったよ…分かった、明日病院に行ってから学校行くよ」


「約束したからな!」


「はいはい…これ以上遅くなったら家族の人が心配するんじゃないか?」


「…そうだが…分かった…今日はしっかりと休むんだぞ?」


「あいよ」


「そのっ…本当にありがとう…またな?海斗君」


そう言って先輩は帰り道に向かって歩き出した。


俺は先輩の背中が見えなくなるまで見送る。



……痛えな

こりゃあ打撲したかもしれないな…

でも痛がってる姿を先輩に見せたくなくて俺は痩せ我慢をしていた。


それでも、薫先輩を助けられたと考えればこの痛みはきっと勲章モノだ。


ただ、明日朝にいなかったら絶対白川に心配されるだろうな…


そう思いながら俺はアパートに向かって歩き出した。



______________________________________________________________


大倉 薫side


「ただいま帰りましたー!」


「あら、薫ちゃん、遅かったわね~どこで遊んできたの?」


お母様が台所から割烹着の姿で玄関まできた。

やはりお母様も今日が祝日だと知っていたな!?

知ってればあんな恥ずかしい思いをしないで済んだのに……


でも……その羞恥心を上回るくらいに、今日は凄く楽しかった。


海斗君とバッティングコーナーで遊んだり、少し申し訳なかったがカップル専用のパンケーキを一緒に食べたたり…

ふふっ…恋人のフリした時は恥ずかしかったけど、楽しかったな…



そして……私は海斗君に貰ったうさぎのぬいぐるみを抱きしめる。

これは私にとって宝物で海斗君との大切な思い出だ。


だから私は今日の出来事が嬉しくてお母様に海斗君と遊んだ事を話した。


「そう……薫ちゃん、言いにくいのだけど…それはきっとデートよ?」


デート?

それは恋人同士がするものではないのか?

私と海斗君は友達で……


「もしかしてただ遊びに行ったと思ってるの?そんな乙女な顔をして男の子の話をする薫ちゃんを初めて見たわよ?」


「違うのですか?」


「違うわよぉ…どうしてこの子はこんなに鈍感なのかしら…良い?薫ちゃん、男の子と二人きりで遊びに行ったらそれはデートなのよ?」


「そうなのですか!?」


これは驚愕の事実だ…


つまり、私は海斗君とデートをしたわけで…

デートは恋人同士がすることで……


もし海斗君が恋人だったらと想像してみる。

不思議と素で接することができる気がするし、悪くないかもしれない…


あの優しい海斗君の声も、向けてくれた笑顔も…

私が階段から落ちた時に身を挺して抱きとめてくれた男らしさも…

優しく頭を撫でてくれた彼の手の感触も。



その事を思い出していたら何故か頬が熱くなってきた気がする…

それに何だか胸がポカポカして……

なんだろう?この気持ちは…


「ふふふ…薫ちゃん…あなたもしかして?」


「お母様…?」


「ごめんなさいっ…なんでもないのよ…これは薫ちゃんが自分で気づかないとイケないことよ」


「は、はい…」


私はお母様の言っていることが理解出来なかったが、それでも気にしていなかった。


______________何故なら…


私はスマホを取り出す。

連絡先はいつも家族と生徒会のメンバーだけしか入ってなかったのに…

今は登録した海斗君の連絡先が一際特別に見えて笑みが溢れてしまう。


_______彼女が恋を自覚するまでもう少し…


「ふふっ…助けてくれた御礼にお弁当を作ったら喜んでくれるだろうか…?」


大倉 薫は白川 芽衣の存在を忘れるほどに浮かれていた。

このお弁当がきっかけで、学校を巻き込んだ修羅場をもたらすとは知らずに……

彼女はただ、明日のお弁当のおかずを考える事に夢中になっていた。


______________________________________________________________


この作品を読んでくれた皆様!!


本当に…ありがとうございます!!


皆様のおかげで、フォロワーは600を超えてPVも10000を超えました!


こんなにたくさんの人に読んでもらえて幸せです!


皆様に頂いた、レビューや応援やコメントなど凄く嬉しくて涙が出そうです…


そんなこの作品ですが………


なな、なんとー!!


ラブコメ週間ランキング25位!!

総合週間ランキングは168位!!


感無量です…


是非とも今後もよろしくお願いします!!

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