第3話 放課後の寄り道ってドキドキするよね?

学園のアイドル『白川芽衣』の恋愛騒動から時は経ち、放課後になり、放課後のチャイムと同時に白川は俺の背中に抱きついてきた。


「海斗っ!…放課後だよ!……これはもう放課後デートに行くしかないよねっ!」


「だから、いきなり抱きつくなって…たっく」


白川が後ろから思い切り抱きつくことにより

胸の柔らかさがダイレクトに背中に伝わっているのだ…

それに凄く良い匂いが…… 

くっそ…なんでコイツこんな無防備なんだよ?

いくら俺を振り向かせるためとはいえ、こんなことが続くと男として色々耐えきれなくなってしまうだろう。

とりあえず、動揺を悟られないようにしなくては…


「んで?…白川はどこ行きたいんだ?」


「んー…海斗と一緒にいられるならどこでも?」


「それが一番困るんだが…まぁ、もともと今日は予定あったし少し付き合えよ」


真面目な顔のフリをした白川が敬礼して胸を張った。


「いえっさー」


…可愛いかよっ………


俺達は帰える準備をして学生鞄を手に教室を出ようとしたら、1人の男が声をかけてきた。


「まちたまえっ…橘君っ! すこーし…話を聞かせてもらおうか…?」


面倒くさいやつに捕まってしまった…

先月転校してきたばかりの俺と"とある"趣味で仲良くなった『山下 虎太郎』である。


「白川様…橘君をお借りしても?」


考える素振りをした白川が頷いた。


「これから海斗と放課後デートなので早く済ませてくださいね?」


「デートっ……だとぉ?……おいっ、こちらに来やがれです」


山下に腕を引っ張られ少し白川から距離を取り肩を組まされた。


「おいっ…どいうことだよっ!…なんでお前が学園のアイドル様とデートなんか行く関係になったんだよっ!?」


「……言わなきゃダメか?」


「言わないと…"アレ"のことを白川様に言うぞ?」


くっ……流石に"アレ"はマズイ…


でもここで言うと話が長くなりそうだから、俺はこの場から抜け出すことにした。


俺は山下の拘束を振りほどいて白川の手を引いて教室を出た。 


「ちょっ…おいっ橘っ!……逃げるな〜っ!!」


「悪ぃっ!! また今度話すからっ!!」


いきなり手を掴まれた白川が驚いた様子だった。


「…カイ君っ?……」


「今日は放課後デートなんだろ? せっかくなら誰にも邪魔されたくないよな?」


俺の言葉が嬉しいのか凄く可愛い笑顔を俺に向けてくれた。


「…うんっ!」


俺達は手を繋いだまま、校門を出た。


少し歩き、下り坂にさしかかったところで、白川が不思議な鼻歌を口ずさんだ。


「〜♪〜~♫〜~」


どっかで聞いたことがあるような気がするのだが、よく思い出せない。

気になった俺は白川に聞いてみることにした。


「なぁ、それなんて曲?」


「~♫〜…えっ? んー…わかんないっ!……あっ、カイ君っ! あれ見てっ!」


白川が指を指す先に三毛猫が寝ているのが見えた。


「はわぁっ……可愛いぃ……ねぇ、カイ君っ! 撫でても良いのかなっ!?」


凄く撫でに行きたいのか、白川の目がキラキラしながら手の動きが既に撫でに行く準備が出来ていた。


その様子がとても可愛いと感じて俺はつい笑ってしまう。


「ははっ…そうだな、一緒に行こうか」


「うんっ! えへへっ…猫さんだぁ〜」


白川は寝ている猫の頭に触れた瞬間、猫は起きた様子を見せたが、抵抗をしないところ見ると人馴れしているみたいだな。


撫でられてゴロゴロと気持ちよさそうな声を出している猫を見た白川が嬉しそうに顎のところも撫でいた。


「猫にゃーん……気持いいねー…にゃーん…にゃー」


いや……可愛いかよっ!!

やべぇ、白川が可愛すぎて困る。

なんだよ…にゃーんって…猫耳とかつけてにゃーんって言われた日にはきっと可愛すぎて、悶え死ぬ自信がある。


「えへっ…カイ君も撫でてみてっ! この子すごい大人しいよ!」


俺は昔から何故か動物に好かれない体質だ。

子供の頃に近所の野良猫に触ろうとしたら、威嚇されてすごい勢いで俺から逃げていったことがある。

当時、野良だから人間が怖いのかなって思ってたけど、同じくらいの歳の女の子には好きなように撫でられているのを見て物凄く落ち込んだものだ。


だから、俺がこの猫に触れた瞬間、白川の幸せの時間を奪ってしまうのではないかと考えてしまう。


猫を見て中々触れようとしない俺に白川が笑いながら、猫を抱き上げる。

それでもなお、猫は無抵抗に白川の腕の中に収まっていた。


………なんだろ……猫が羨ましいな…


「大丈夫だよ…カイ君。 この子は"逃げないよ"…ねー?」


そこまでされて、触らない選択肢はなかった。


俺は恐る恐る猫の頭を撫でてみた。

手のひらから伝わる猫特有の毛の感触と温かさ。

俺に撫でられている様子の猫はちっとも嫌そうな顔をしていなかった。


「良かったね~カイ君っ!」


「あぁ…猫って良いな……毛がふわふわで気持いいし可愛い」


こうして逃げない猫がいるなんて思わなかった。

これもきっと白川のおかげだろう。


「ありがとうな…白川のおかけで猫にさわれた…」


「むふーん…カイ君そんなに猫ちゃんが好きなら猫カフェとか行けば良いのに〜」


「行こうと思ったけど…男一人で行くのはなんか気が引けるんだよ」


実際、何度かは猫カフェに行こうと思っていたのだが、いざ、行こうとしたときに、猫達に嫌われる怖さで一度も行けてないチキンっぷりである。


「じゃあ今度一緒に行こうよ!」


「そうだな…白川が一緒なら嬉しい」


「あっ…ぅ…そういとこだよ?……カイ君…」


「…ん?……何がだ?」


俺はさっぱり白川の言いたいことが分からなかったが、どうにも嬉しそうにしているから悪いことではないのだろう。


「もうっ……内緒だよっ!」


頬を赤く染めた白川が俺の手を引いて立ち上がり猫に別れを告げた。





猫の可愛さを堪能した俺達は商店街の入口まで来ていた。


「へぇ、あんま変わってないんだな?」


俺が海外に引っ越してから10年は経っているのだから、お店の看板などは所々錆が見受けられて、時の流れを実感できた。

それでもなお、変わらないと思ったのは、昔見たことのある光景がそのままに残っていたのだからついそう呟いても仕方がないだろう。


「ふふんっ…中のお店なんかは結構変わってるんだよ!」


「へぇ…そうなのか、少し見ていこうぜ」


気になった俺は商店街に足を踏み入れた。

眺めてみると、確かに見たことがないお店が多く見受けられた。


_________『いらっしゃい、いらっしゃいっ~揚げたてのコロッケはいかがー?』


_________『たい焼きも焼き立てだよー!』



商店街は俺が思っていたよりも賑わっており、駄菓子屋の前には子供たちがガチャポンで盛り上がっていた。

俺も昔にそうやって遊んだと思うと懐かしい気持ちになってくる。


そうしてゆっくりと商店街の中を歩いていくと、占いの館の看板が目に入った。

そこには【2人の相性を占います】と書いてあった。

少し怪しい雰囲気を感じるが白川がやりたそうな目を向けていた。


「白川、占ってみるか?」


「…いいの?」


「せっかくデート何だし、記念に俺達の仲を見てもらおうぜ」


白川ははにかみながら頷いた。

俺は白川の手を引いて占いの館に入った。


中は暗くて不思議とカラフルな色のランタンにより机の周りは照らされて神秘的な様相であった。


「おや、いっらしゃい…今日は何の占いをご希望で?」


部屋の中央の机のうしろでお婆さんが水晶玉を触りながら座っていた。


「こんにちはー、看板にあった相性を知りたくて…」


「そうかい…カップルには知りたい内容だね…さっ、こちらへいっらっしゃい…」



俺達は椅子に座り、生年月日と血液型を紙に書いてお婆さんに渡した。


「これから占うのは、あんた達の相性と今後の出来事のヒントだよ…例え悪い結果が出たとしても、重く捉えずに警告と思ってもらえれば良いからね」


お婆さんは何やら不思議な言葉とともに、水晶玉に触れて見を瞑った。


その様子は本当に魔法使いが何かの儀式をしているようにも見えた。

俺達は声を出さずに息を呑んでお婆さんを見守る。


不思議な呪文らしきものが終わったのかお婆さんは目を開けて、息を吐いた。


「見えたわよ…二人の仲は良いとも悪いとも出ているわね…とても不思議な因果だわ…これからの出来事によっては未来が変わりそうね」


心配そうに白川は自分の手を握りしめていた。


「お婆さん…どうしたら幸せな未来になれますか?」


「そうねぇ…悪い未来の助言にはこう出ているわ…お嬢ちゃんの信頼している知人が悪意を持ってあんた達に試練を与えると…その試練に失敗したら、あんた達の道は混じり合うこと無く、未来へと進み始めるわ…この試練を乗り越えるための"ヒント"はお兄さんがお嬢ちゃんの"愛"を信じることだよ…そうすればきっと、2人の線は固く結ばれるわ」


そうか…

少し抽象的ではあるが中々に説得力のある話である。

不幸な未来にしないためには俺が、白川の愛を疑わずに信じれば良いと言っていた。

……確かに、俺が白川にちゃんと向き合ってないところはある。

こんなにも好意を見せているにも関わらず俺が白川と恋人にならないのは、白川が何故俺の事を好きなのか分からないからである。

だからこのお婆さんの占いは遠からず合っていると言えよう。


「それと……お兄さんに女難の相がでているわよ……あんたには5人の女の影が見える……そう…これは、運命同士が惹かれ合った結果、お兄さんの線に交わったのだわ…うん……お兄さんは、今後残りの4人の女の子にはすぐに出会うでしょうね……頑張ってちょうだい…」


えっ? 俺がなんかやっちゃうの?

とういうかあと4人ってなにっ!?


先程までに弱々しい態度を見せていた白川が全く笑わずに俺の手を掴んできた。


「カイ君……浮気はダメだよ?……カイ君がとっても素敵なことは分かってるけど……私だけを見れば良いのに…未来のカイ君はお盛んなんだね…?」


「なんで浮気したことになってんだよっ!? っていうか正気に戻れ!白川っ!……俺は浮気しねぇっ!」


「カイ君……そうだよねっ!……カイ君が浮気するわけないもんねっ!……そうだよ……きっとこれもカイ君が素敵過ぎて、他の女の子が勝手にカイ君にちょっかい掛けてきてるからだよね……ふふっ……大丈夫だよっ?私がカイ君を守るね!」


いや…大丈夫じゃねぇっ!!!

どうしたの?いつもの天真爛漫な瞳からハイライトが抜けてめっちゃ怖いんだけど……

というか、俺は白川と付き合ってないんだから浮気もクソもないんだけどな…?


「お兄さん……まぁ、がんば……」


お婆さんっ!!!!!

さっきまでのミステリアスな雰囲気どうしたの!?

てか、言い方若いなぁ!?


俺は…お婆さんに御礼を言いつつ、ヤンデレ気味な白川を連れて占いの館から出た。




「………ごめんなさい……なんか、変なテンションになってたかも…?」


俺は白川を連れて近くの広場のベンチに一緒に座った。


「いや、それはいいけど……俺は浮気してないからな?」


「だから、ごめんってばぁ〜……なんかカイ君を取られると思って…つい……」


ついって……そんな心配しなくても、1ヶ月たっても知り合いの女の子が白川以外にいないのに…どうやって出会うというのだろう。

それこそ、白川の時のような"運命"的な出会いでないと俺は多分気付かないだろう。


「あっ!……用事!……カイ君、今日なにか用事あったんでしょ?……時間大丈夫なの…?」


今更思い出したのか、白川が慌てた様子でベンチから立ち上がった。


苦笑いしながら俺も立ち上がる。


「時間は大丈夫だ、それより正気に戻ったんなら行こうぜ」


俺は白川の手を取り歩き出す。

向かう先は、商店街を出てすぐのアクセサリーショップである。


「えっ?ここがカイ君の来たかった場所なの?……なんか意外だね」


「まぁ外で待っててくれ、すぐ済ます」


「う、うん…」


不思議そうな白川を置いて俺は店の中に入った。


実はオーダーメイドで頼んでいたものがある。

白川が来なかった日曜日の内に俺がここへ来て、自分でデザイして作ったものだ。

それが完成したとのことで俺は今日"アレ"を受け取りに来たのだ。


俺は出来たものを箱に入れて綺麗な袋に"アレ"を入れて店員さんに御礼を言ってお店を出た。


お店から出る間際に店員さんが声をかけてきた。


「外の彼女さん…喜んでくれると良いですねっ」


彼女じゃないのだが……でも喜んで欲しいのは本当の気持だから、いちいち彼女の部分を否定するのも野暮だろう。


「ありがとうございますっ……虎太郎にも御礼を言っておいてください…」


「ふふっ、ウチのバカ弟に伝えときますっ」


今度こそ俺は店を出た。


外で待っていた白川が退屈そうに夜空を眺めていた。

夕日と夜空が混じり合う瞬間はとても美しいと思うのだが、俺は空を眺めている白川の方が何倍も綺麗だった思った。


俺は空を眺めている白川に声をかけた。


「悪い…待たせたな」


「あっ…カイ君っ!……えへへっ…見て…空がとっても綺麗だよ!」


「そうだな…綺麗、だな……白川っ……これ」


俺は"アレ"が入った綺麗な紙袋を白川に差し出した。


「えっ?……どうしたの…?これ」


「…プレゼント」


「あれ?今日なにか特別な日だっけ?」


こういうサプライズをするのは思ったよりも恥ずかしいと感じる。

でも、俺はこれをどうしても白川に渡したかった。


「"約束"したじゃねえか……10年前…一緒に」


「…ぁっ……あ、開けて良いっ!?」


「……あぁ」


白川が袋から箱を取り出して蓋を取ると、そこには綺麗なガラス細工の四葉のクローバーの細工がある綺麗なブレスレットだった。


それを見た、白川の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちる。


「えっ!……なんで急にっ?……すまん!俺、なんかしたかっ!?」


「…っ…ちぃがうのっ……かいぐぅんがっ……だっでぇ……これっ」


白川の言葉に俺は冷静になれた。

だから、俺は白川の零れ落ちた涙を指すくって、彼女を抱きしめる。


「約束したろ…?俺達がもう会えなくなるって知った時に、一緒に探した幸せの四葉のクローバー……あの時は見つからなかったからさ……遅くなってごめんな?」


「…っん!……っ…うれじぃ……ありがとっ……カイくん」


こんなに喜んで貰えるならお願いして作らせてもらって良かった。

俺は白川が泣き止むまで彼女の後ろ髪を優しく撫で続けた。



しばらくして落ち着いたのか…白川が俺から離れて、ブレスレットを身につける。


「…っ…ど、どうかなっ?…へへっ、似合うっ?」


「白川…めっちゃ可愛いよ」


「へっ?……ふ、ふんっ……もう騙されないもんねー…どうせブレスレッドが可愛いってオチなんだ…」


不貞腐れてる白川が可愛くて俺は彼女の頭を撫でてしまう。


「俺は白川自身が可愛いって言ったつもりだけど?」


「ぁぅ………うぅ…今日のカイ君…積極さんだよぉ……」

白川が頬を赤く染めて俺から距離を取る。


可愛いのは本当なのに…

俺はもう少し照れた白川の顔が見たくて、彼女の顔を覗き込む。


「あれ?…嘘だと思ってる?……俺は白川のことが事めっちゃ可愛いって思うぞ」


「もっ…もうっ!いいからぁっ~…うぅ…ありがとうっ!!」


「ははっ…なんだよそれっ……めっちゃ可愛いじゃん」


「カイ君の意地悪ぅううぅぅぅっっ!!!」


耐えきれなくなったのか…白川が走って逃げようする。


だけど足が遅いのかすぐに俺は追いついて白川の手を掴む。


「悪かったって…もう暗いし家まで送ってくぞ…?」


「ん……ありがと…ねぇ……カイ君って…私のこと好き…?」


真面目に考えるなら、きっと俺は白川が好きなんだと思う。

だから俺は彼女の質問に嘘偽り無く答えた。


「俺は白川の事が好きなんだと思う……しっかりと好きって言えるまで…もう少し待ってて欲しい…」 


「そっか……そっか…へへっ…うん、わかった…カイ君の事待ってる…」


そう白川が言って俺の手を握る力が強くなった気がした。


「ごめんな…待たせてばかりで…」


「大丈夫っ…だってカイ君の事を10年も待ってたんだよ?…待つのは得意なんだっ……」


「ありがとう……………"芽衣"」


「あっ……今名前っ……ねぇっ…もう一回っ!…さっき何て言ったの?」


俺は途端に恥ずかしくなり、そっぽを向いてしまった。


「あぁーうるせぇ、うるせー……もう良いから行くぞっ」


「もうっ!……なんでよぉっ!!!」


俺達は言い合いしながら一緒に帰り道を楽しんだ。

そう、"手を繋いだまま"で………






「カイ君っ……」


白川が俺の手を引いて顔を白川の位置まで下げる。


「ん?なんだー?……へっ?」


気がつくと俺は白川に唇に近い頬にキスをされた。


「ふふっ……言わないカイ君が悪いもんねっ〜」





まったく……とんだサプライズである……

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