第2話 急激な変化は周囲に混乱を及ぼす…よな?

めーちゃん…もとい、白川芽衣との運命的な再開をした日から2日後の月曜日。

俺は通学路を進みながら、ため息をついていた。


てっきり、あの日の夜の次の日かその次の日には絶対会いに来ると思っていた白川芽衣は会いに来ず、俺は"寂しい"休日を過ごしていた。


いや、寂しいって…俺は何を期待していたんだが…


__________あの日の夜の邂逅はきっと夢だったのだろう


そう思えて仕方がない…


とりあえず今は何も考えたくなかった俺はイヤホンを取り出して音楽を聴いて気を紛らす事にした。


________はぁ…俺ってカッコ悪っ…



歩いてから少し時間が経ち、校門前まで差し掛かった所で誰かに後ろから抱きつかれた。


「…ぃくん!……おは……う!」


音楽を聞いてきたから良く聞き取れなかったけど、俺にこんな事するのは1人しかいない…

俺は、イヤホンを取って後ろを振り向いた。


「おう…おはよう……てか危ねぇからいきなり後ろから抱きつくなっ」


「むふーんっ…カイ君本当は嬉しいくせに〜私と2日も会えなくて寂しいって暗い顔してたよ?」


ぐっ…鋭いな…

確かに寂しいと感じてしまっていた。

でも、なんか悔しいから肯定してやんねぇ…


「はいはい…それより早く学校行こうぜ」

俺は白川の拘束から抜け出し、早足で校門に向かう。


「あぁっ! もうっ…待ってよぉ!!」


白川は俺の左腕に抱きつき笑顔を浮かべた。

「じゃあ、これなら良い?…良い…よねっ?」


そこは自信無さげかよっ!!

そんなの、嫌なわけねえだろ…

むしろ…白川の良い匂いと胸の感触で俺はどうにかなりそうだ。


「好きにしろっ……」

俺は最後まで照れること無く言えなかった。

頬は軽く赤く染まり、そっぽを向いてしまったからだ。


「カイ君っ……えへへっ……うんっ…好きにするっ」


本当に"可愛い"んだよなぁっっ!!!!!!

そんな可愛い無防備な顔を向けんなよ…マジで我慢できなくなる…

何か理性とかどうでも良くなって、ただ白川とキスしたい気持ちになってくる。


俺は性欲に溺れたくなくて、あの告白を断ったというのに…

どうしよう…めっちゃ白川とエッチしてぇ…

落ち着け…とりあえずここで発情したら社会的に死ぬっ!


「カイ君? どうかしたの?」

白川が俺の顔を覗き込む。


「あー…っと……白川…学校の中ではその"カイ君"って呼び方は止めないか?…多分大騒ぎになる」


「えぇ〜…うーん、なら海斗?」


「や、普通に橘でいいから…」


「じゃあ……私のことは芽衣って呼んだら橘君にしてあげる」


「はい、海斗でお願いします!」


俺は綺麗なお辞儀して白川に頭を下げた。


「もうっ…いつかちゃんと名前で呼んでよね…?」


俺達は"腕を組んだまま"学校の教室まで一緒に歩いた。


俺が教室の扉を開けて、白川が先に入ってクラスメイトに挨拶をする。


「美琴ちゃん…おはようっ!」


クラスのギャル系美少女の天部美琴が手上げて挨拶を返した。

「おはよ……う?……って芽衣っ!アンタ何してんのよっ!」


「え?…何が?」


「何がも何もっ!…どうして男の人と…うっ…腕を組んでるかって聞いてるのっ!」


「あぁ……実は…この人は…私の旦那様なのっ!」

白川は頬に手を当てて心底嬉しそうに微笑んだ


「は、はぁっ!? アンタいつの間に結婚したのよ!」

天部美琴の驚愕は他のクラスメイトの心と一致した。


「違います」

その中で1人話を聞いてもらえずにただ否定する男がいる。

そう、俺である。


「アンタたちっ!へ…変なことはしてないでしょうねっ! 夜に男女が2人っきりとか」


「うん…あの日の夜は忘れられないね?」


「…っ……え?…もう芽衣は女になったの…?」

天部美琴は膝から崩れ落ちる。


「うん…っ……私はカイ君の女ですっ…」


「おい…違うからなっ!…何もしてないからなっ!」


耳を傾けて話を聞いていた他のクラスメイトは各々だが強烈に動揺していた。


_____うそだぁぁぁぁあっっっ!!! 俺のアイドルがぁっ!!


_____いやぁぁぁぁあぁぁあぁぁっっ!!知りたくない知りたくないっ!!


_____これは夢なのです…僕の芽衣たんは誰にも汚されない…きっとこれは夢なのです…


_____ 白川さん…僕の橘君を奪うなんて…僕たちの愛の悲劇はまるでロミオとジュリエットっ…


_____おいおいぃ……キレちまったよぉっ……てめぇをロー人形にしてやろうかぁっ!!!



最後!!

お前は違うだろ!!

てか途中変なやついなかったか??


いやなんだよ…これ……


「ふふっ…みんな私達を祝福してくれてるね?」


どこをどう見たらそう見えるんだよ…

これは祝福じゃねぇ…どうみても地獄絵図だろ…


そんなことは構わずに白川が自分の席についた。

おい、FREEDOMかよ…

俺、我慢できなくて種割れしちゃうよ?


すると先生が教室のドアを開けて入ってきた。

「みんなおはよー! 今からホームルームの時間って…え?……何この状況?」


俺と白川が巻き起こした影響はとても大きく、ホームルームの開始の時間を過ぎてもなおクラスメイトは血の抜けたような顔で各々絶望していた。



先生は茫然自失したクラスメイトは一旦無視して、普通にしてる俺と白川に話を聞き始めた。


「とりあえず…何があったのよ…?」


「せんせー!! 私がカイ君は旦那様ですって言ってからこうなりました!」


「なに…君たちいつの間に結婚したのよ…? 私だってまだなのにっ!!…っ…」


「違います…」

どうせ話は聞いてもらえないだろうけど一応否定してみる。

というか先生独り身なんだ…


「確かに…白川さんに恋人?…旦那さんができたらこうなるわよね…」


「…違います」


「それで?…どっちからプロポーズしたのっ…?やっぱり橘君からっ!?キャ~青春ねっ!……まぁ、私に青春って呼べる恋なんてしたことないんだけどね……」


や…先生情緒不安定かよっ!


「えへへぇ…告白は私からです!それに先生すっごく綺麗だからきっとカイ君みたいな素敵な旦那様が現れますよ!」


「そうよね…っ…ありがとうっ!白川さん!先生頑張るわ!」


何だろう…この外堀からどんどん埋められて逃げられなくなってる状況は…

正直白川と付き合えるのは凄く嬉しい!

嬉しいんだけど…所々醸し出される地雷臭といか病み系?

そんな雰囲気をたまに感じる…

可愛いからいいんだけどさ…


それに先生も流されて、俺が白川と公認で結婚してるって思ってるし…

なんなら、白川に恋愛について諭されているし…


そうして、波乱のホームルームの時間は過ぎ去った。

未だに、茫然自失の状態から戻らない生徒が多くいるため、1時間目は自習となった。


なお、白川に男ができたという噂はこの教室を越えて広がり、全学年の白川ファンが阿鼻叫喚する事件に発達しているのだが…


そんなことは、つゆ知らずに白川は俺の膝の上で甘えている。


「おいっ…あんま動くなっ!……」


「…えっ?どうしたの?…っ…か、カイ君っ……なにか硬いモノがっ…」

白川は何かを察して縮こまり、頬を赤く染めた。


「お前のせいだろうがっ!」


「…っ……えっと…そういうことだよね?……カイ君なら良いよ…?」


「いやっ…しねぇよっ??流石に教室はニッチ過ぎるわ!!」


「むぅ……っ…じゃあこれならっ?」

白川はいきなり振り向き、俺の首にキスをした。


「へへっ…カイ君の匂いだ…」

_____たっく…結局俺も男なんだと実感する。

こんなにも俺に好意をよせて甘えてくれる女の子を誰が遠ざけられよう…

白川…俺を惚れさせるって言ってたけど…

そもそも…その勝負は成り立たないぞ?


だって俺はどうしょうもないくらいにお前を可愛いと感じてしまう。

これが恋愛感情だと言うのなら…俺はきっと…お前に恋をし始めている。


だから今は、少しくらいこの愛しい女の子を抱きしめても良いよな?


「あっ……っ…カイっ…くん?…えへへっ……急にどうしたの?」


「すまん……我慢できなくなった……」


「…っ……そっか……なら…しょうがないよね…?」


俺達は一時の幸せを謳歌した。




そんな幸せの裏側で、鋭い視線で俺達を見つめる影が1つ。


_________なんだよアイツっ…芽衣は俺のヒロインだぞっ?

モブのくせにふざけやがって…!


その悪意が少しずつだが、確実に生まれようとしていた…




「カイ君っ……好きだよ」


「……わかってるよ」


__________願わくば二人の愛が実ることを祈って

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