第3話
悪い夢を見た。ただその記憶は飛び起きた瞬間脳からこぼれ落ちびっしょりと汗で濡れた背中だけがその夢が悪夢であったことを称えている。
「起きた?」
上から声がかかる。暗い顔をした灰髪の少女。
記憶をたどっていくと彼女の名前がアシュリスであることそして彼女との数日間の旅の記憶が浮かんだ。
深い森の中を彼女に置いていかれないように歩く。
その間に俺は様々な質問をしそれに彼女が答えてくれた。
『この世界は?』
という質問に対して
『世界は世界だよ』
と質問の意図がわからないようだった。
『あの化け物は?』
という質問に対しては
『街の外で発生する生き物だよ。君の言葉なら魔獣、怪獣、モンスターとも呼ばれているね』
それらの回答に対して強烈な違和感を持ちながらもそういうものだとなんとか呑み込んでいった。
そうだ、街を目指していた。
そしてたどり着いてもいたはずだ街の名前はエルノタ。
遠くから見る高い城壁その外側に広がる穀倉地帯で育てられている無数のムギが風に吹かれている風景がはっきりと浮かぶ。
しかしそこからの記憶は曖昧なものとなっていた。
「……教会の水晶玉にどっちの腕で触れた?」
アシュリスの真剣な声音が響くキョウカイ、スイショウダマその言葉の意味を探るため記憶の糸をたぐり寄せる街に入ったあと教会に向かった。
教会と呼ばれる建物から出てきた人は俺の黒髪を見て嬉々として俺だけを教会へ招き入れる。
その瞬間から体に違和感を感じた。それはモンスターに刺された傷を体が思い出すようなそんな違和感。
そして言われるがまま水晶玉だ。人の頭よりも少し小さなそれに手を触れる。
「左です」
べっとりと前髪が肌に張り付き気持ちが悪い存在しないはずの背中の傷を無性に掻きむしりたかった。
「そっか」
アシュリスがそれだけ言って流れるような動作で腰にあったナイフを抜くあまりにも自然だったのでその行動の異常性に一瞬気づくのが遅れた。
そのまま押し倒される初めて自分がベッドに寝かされていたことを認識した。
「……なにを」
驚きはあったが怖さはなかった。もともと俺は死にたがりだ。
ベッドのふかふかとした感触を確認する。硬い土の上よりいいだろう。
アシュリスを見る。服は例に漏れず黒このタイプの服はワンピースというだったっけ。
鎧だとわからなかったけど結構胸あるな。今なら揉んでも許されるだろうか。天秤はほぼ水平を保っていた。
ただ少し理性の側に触れたのは自分がそんな人間じゃないという意識のおかげだった。
「……確認する」
俺の右手の平にナイフをあてがいながら言う。
そのまますーっと腕が切り裂かれていく彼女のナイフの扱いがうまいのか痛みはほとんどない。
ナイフが腕の半分にまで差し掛かったところでようやく自分の身体の異変に気付いた。
「……傷が」
傷の線が先のほうから消えている。
よく見ると一度溢れ出しそうになった血が傷口から奥へ潜り込んでいき何事もなかったかのように傷口が塞がっていった。
(異常だ)
だが、その異常をひどく冷静に見つめている自分がいた。
むしろ妙な納得感さえをあった。
モンスターに襲われたときたしかに傷はあったのだ。
ナイフはそのまま腕の付け根、乳首の下側を通りある一点で止まった身体のほぼ中心点心臓の位置だ。
ナイフによって裂かれ血が流れるそれがこの異常の終わりの位置を示していた。
「不死」
その言葉を聞いた瞬間禁忌的だなと今しがた自分の身体に起こったことなのにどこか他人事のように感じた。
「……この力のことは他の人に話しちゃいけない。」
「……話たらどうなるんですか?」
「死ぬ。そしてもっと酷い目に遭う」
彼女は苦々しく言う。その情報の断片さえ死に至ると判断したのかこれ以上教えてくれる気はないようだった。
半身が不死であることそれが俺の力だった。沈黙が流れる。その間に俺の中では
『あっぶね勢いで胸揉まなくてよかった〜』
『死んだあとにひどい目に遭うとはどういうことだろう?』
という水と油のような二つの思考が高速で回転していた。
だとしたら僕が生きていく理由は
「僕をここで働かせてください」
椅子から立ち上がり頭を下げる。首筋に刺すような感覚がある。もう一度まっすぐにそれを発する眼へと視線を合わせる。切れ長で金色がランランと煌めいている。それからは感情が読み取れない。そしてその眼の中に映る自分自身の姿
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