第4話
何層にも目の下を塗ったけど、クマを隠すことはできなかった。今日、会社でも寺橋くんを責めてやろうと思ったけど、彼の姿はない。
「えっとですね、皆さんに報告がありまして……」
朝礼のとき、課長が神妙に話を切り出した。
「寺橋くんがですね。昨日の夜に他界されたということです。寺橋くんは真摯に仕事に取り組んでいたがために残念でなりません。葬儀はご家族だけで執り行われるそうなので、せめてこの朝礼の時間で黙祷だけ、寺橋くんに捧げたいと思います」
寺橋くんが死んだ? 朝から課長がデリカシーのない冗談を言うわけがない。目を瞑り、頭を下げながら反芻した。あれは本当に生霊だったのか。生霊として出続ける限り、寺橋くんの体力が奪われ続けて亡くなってしまったのだろうか。
でも正直、悲しみは一切なく、安堵感に包まれていた。寺橋くんが亡くなったことでもう生霊として出てこなくなることは確実だ。
『たぶん、もうあの不気味な人、現れないと思う。だからもう一度やり直したい』
蓮にLINEを送ってみたけど、何の反応もなく家まで帰ってきた。やっぱりもうだめなのかな。蓮の荷物がなくなった部屋はずいぶん広く感じる。蓮に会いたい。シングルベッドなのに広く感じた。ひんやりとして冷たい。あらゆるものが蓮と別れたことを実感させようとしているようだった。
目を瞑って眠ろうとするが一向に眠気が来ない。視界の左端に何か立っている気配がある。体が動かない。影が私を覗き込んで来る。寺橋くんだった。
「これでずっと一緒にいられる」
寺橋くんの手が伸びてきたのを最後に私は記憶がなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます