第2話

 月曜日になり、昼休みに寺橋くんを呼び出した。この前、ストーカーしていたことを問うためだった。さすがに社内なら妙な真似はできないでしょ。


「金曜日の飲み会の後、何で家に来たの?」

「え?」寺橋くんは右上を見ながら言った。「俺、普通にタクシーで家まで帰ったよ」

「嘘。インターフォンの履歴にもちゃんと残ってるんだから」

「ああ……」


 寺橋くんは何かを察したように目線を私に合わせた。


「それ、俺の生霊だと思う」

「イキリョウ?」


 なかなか知っている言葉に変換されなくて、私の脳内にすんなり入ってくることはなかった。


「彼女と別れたり、好きな人に振られてその人に未練があると、俺、生霊になって相手の家に行っちゃうらしいんだ」

「いやいや変な言い訳しないでよ。怖いよ」


 私はどういう表情が正解なのかわからず、口元を努力して持ち上げた。腕の所在が落ち着かなくて固く組んだ。


「生霊が出ちゃって勝手な行動するのは俺、止めようがないんだ。だから、申し訳ないけど、俺の生霊とは関わらないようにしてほしい。たぶん危険だから」


 寺橋くんは職場に戻っていった。どことなく背中が丸まっているような気がした。


 ベッドに潜って蓮と終わるタイミングのわからないキスを続けていると、インターフォンが鳴った。鼓動が大きくなっているのを蓮に知られたくなくて、すぐに唇を離してベッドから抜け出し、画面を見ると、また寺橋くんだった。


 感情のない表情でずっと私を見ている。すぐに画面を消したけど、鼓動は全然小さくならない。警察に言うべきなのかな。でも警察に行くと逆上して本当に殺されるかもしれない。


「また? やっぱりこの人知ってる人?」


 私は首を振って、彼氏の腕を掴んでベッドに潜り込んだ。力が強かったのか「いてて」と彼氏が言った。

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