第5話 ネタバレ注意な異世界転移

 池袋ダンジョン。

 そこは世界の高難度ダンジョンの一つと言われている。アメリカ、コロラドにあるフォートコリンズと、ロシア、レニングラードにあるキロフスキー・ライオンにあるダンジョンと並び、世界三大高難度ダンジョンと呼ばれている。フォートコリンズダンジョンは94層、キロフスキー・ライオンダンジョンは97層まで攻略が進んでいる。

 50層までしか進んでいない池袋ダンジョンは、極めて難しいのか、と問われれば、一度攻略に挑んだ者は微妙な顔をするだろう。二つに比べて難しいのは確かだが、50層まででも旨味があるのだ。希少なドロップアイテムや高価な鉱石が採れてしまうため、本気で完全攻略を目指すものが少なく、情報が多く集まらない。攻略に時間がかかってしまっているのだ。50層まで攻略した『猩々奇譚』は今、別のダンジョン攻略に挑んでしまっている。


 8月2日月曜日13時。この日この時間、異世界から50層目に、男女合わせて20名が召喚された。

 まず口を開くのは紫髪を持つ長身の女性アストロ。


「何、ここ?」

「寒い」

「面子も謎っちゃ謎だし」


 銀髪小柄な女性シキは寒そうに腕を擦りながら、白い息を吐く。

 赤髪の男性コストイラは黒い鞭が巻かれた左腕で頭を掻いた。


 盲目の男性アレンは何が起こったのかよく分かっていないが、シキがいれば大丈夫だろうという安心感から何も口に出さない。


「とりあえずどうする? 留まんの? 移動すんの?」


 腕を擦りながら、紅白髪のエレストが、褐色肌で左腕に包帯を巻いたサヒミサセイの前を通過して通路を除く。そこには30mを超す巨躯の首長恐竜がいた。


「デッカ」

「ンお!? こりゃあ美味そうじゃなっ!!」


 局部が漆黒で凹凸すら分からぬ全裸の白黒女性ポラリスが嬉々としてエレストの前に出て、恐竜に食らいつこうとする。


『クォォオオオオーーーーーーーーーン』

「はへ?」


 恐竜が一鳴きすると、ポラリスを巻き込み、モンスターの周囲が凍り付いた。


「こ、コストイラ、ポラリスが」

「自業自得だろ。放置だ、放置。アイケルスが何かしてやるこたぁねぇよ。セルンが倒すか?」

「え、ポラリスさん、何かあったんですか? よく見えないんですけ、ヘックチ」


 金と赤のオッドアイである長身の女性がコストイラに指示を求めると、赤髪侍は放置を選択。代わりにモッフモフの淡い紫色の髪を持つ女性に討伐を依頼した。小動物系魔法使いは首肯すると、恐竜を焼いていく。アレンはただ状況が分からずくしゃみをした。


「どこか分かーら、な、ないので、は、は、把握しておきたいですね」

「そうね。シキ、上下は行かなくていいわ。この階層だけで十分だから」

「承知」


 無口な巨漢レイドに上着をかけられながら、その妻エンドローゼが言葉を跳ねさせながら口を開く。それに対してアストロは紙とペンをシキに渡し、銀髪碧眼の勇者はすぐにスタートダッシュを切った。その速さに、車椅子の男性アシドが口笛を吹いた。


「う~~ん。何が起きているのかさっぱり。全然把握できないですね」

「それはいつものことでしょ」

「とりあえず歩行に関しては、僕が手を引くよ」


 アレンは眉根を寄せ、深刻そうに唸るが、アストロから呆れた風にツッコまれてしまう。そんな盲目の隣に金髪碧眼の男女不明サーシャが寄り添った。普段であればシキに睨まれてしまうが、今だけの特別だ。本当に今だけだ。


 半透明な緑色の幽霊と薄紫色の髪の長身吸血鬼と狐の面を側頭部に付けた着物纏う神がダンジョンの壁に近づく。そして、思い切り叩き壊した。


「えぇ~~~~!?」

「シュルメ!?」

「レイヴェニア!?」

「ふ、フォン様⁉」

「ほれ、石じゃ」


 唐突な出来事に、紅赤色のドレスを身に着けたチラスレアがはしたなくも叫んでしまう。続けてコストイラが幽霊の、アストロが吸血鬼の、エンドローゼが神の名を呼ぶ。レイヴェニアは採れたばかりの、妖艶な輝きを放つ紅い石をコストイラに放った。

 コストイラは投げられた石を軽々とキャッチしてよく観察する。


「何だ、この石。オレの知っている物か?」

「見せて見せて~」

「ほれ」


 コストイラは青紫色のドレスを着た、チラスレアの妹アルバトエルにせがまれて、腕の位置を下げることで石を見せる。アルバトエルは彼の手首を掴んで自分の方へ寄せ、よく観察する。


「あか~~い」

「そうだな、紅いな」

「少しですが、魔力を帯びているような」


 純粋無邪気な吸血鬼の素直な感想を受け、左頬肉が亡び歯も歯茎も剥き出しとなっている侍はこれまた素直に返す。姉妹の従者であるサナエラも覗き込んで私見を述べた。


「オメェらも見るか?」

「見たい」

「ほい」


 コストイラが親指と人差し指で挟んだ鉱石を見せると、アストロが反応する。そのため、燃える熱血男は豊満な体をした魔法使いに向かって石を放った。

 欠損し、左腕のないアストロは、少し上を飛ぶ鉱石を掴もうと右手を出した。


「アテ」


 しかし、片腕の女性は石を掴むどころか掠ることもできず、空振りした。そして石は彼女の頭を跳ね、エンドローゼの手の中にストン。


「プ、あ、いや、済まん」

「チッ」


 アストロは舌打ち一つかますと、笑った。コストイラに対し、無言で魔法を連発し始めた。


「だぁ~~わぁ~~! 悪かった! 悪いことしちまった、マジで、ごめんて! だから許して!!」

「ディーノイ、そっち掘って」

「はい」

「セルン、手伝って」

「サーシャも来い」


 大騒ぎする者達を置いて、発掘は仲良く岩壁掘りをしていた。そしてフォンに願われた巨漢ディーノイも発掘に参加する。


「わぁ~、皆さん騒がしいですね~。全然見えなくて参加できなくて、僕ちょっと寂しいな~」


 アレンは戦場でもただ一人ポツンと佇んでいた。

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