第2話 長期遠征って上手くいっている時が一番楽しい
ダンジョン。
それは地球に突如として現れた未知。約65,000年前に描かれた壁画にその存在が示唆されていた大昔の遺跡。約2,000年前にピラミッド近くで発見されたものが、世界最初のダンジョン探索紀行として残されている。
発見されたダンジョンは普通の洞窟と何ら変わりなく、初めて発見したラディキエルは雨宿りのために寄っただけだったらしい。入った途端空気が変わったと記している。奥がどこまで続いているのか今でも分かっていない。
現在は世界全土に存在しているが、その5%しか最奥部に到達できていない。
内部は特殊な磁場やら力場やらが観測を拒んでいるらしい。
神谷友也は深呼吸をしてダンジョンの中に入っていく。ユーヤが入るのはピラミッド近くではなく、自宅近くのダンジョンだ。ここも最奥部まで到達されたことがないダンジョンの一つ。僕も最奥部に辿り着きたいと思っている。
とはいえ、ユーヤの武器は何の変哲もない棍棒。耐久力はもう底着きそうだ。
このダンジョンはどこまで続いているのか分からないが、池袋のダンジョンは50層目までが攻略済みだ。ユーヤ達は14層までしか攻略できていない。
今日は15層に挑戦する。
「よし、行くぞ!」
パーティ『砕岩の槌』のリーダー
ユーヤは棍棒を持っているが、戦闘職ではない。非戦闘員。いわゆる荷物持ちだ。主に鉱石や素材といった戦利品を回収し、無事換金所まで運び届けることが役目。
まだそこまで膨れ上がっていないリュックのショルダーハーネスを握って歩く。
「ユーヤ! 情報は印刷してきたか?」
「はい!」
ユーヤは15層目に出現するモンスターの情報を印刷した紙を、郷田に渡す。ダンジョン内の特殊な磁場に対応した特別性の端末は高級のため、中学生の彼等には手が出せない。
燐光を灯し、光源の要らぬ階段を下りていく。8月2日月曜日8:30。涼しく歩きやすかった。
「15層目からは中級中位のモンスターが出現する。俺達は安全な施設で戦ったことあるだけだからな。油断するなよ」
「よし」
『砕岩の槌』のリーダー郷田が大きな鎚を肩に担ぎながら、警戒を口にする。副リーダーの
15層目はいわゆる洞窟であった。燐光があるとはいえ、足元は暗いままだ。
「トーチを灯しますか?」
「制限時間があるだろ? まだ使わないでおこう」
ユーヤは一見ただの木の棒を取り出すが、郷田に否定され、リュックに戻した。
初めての15層を歩き始めて3分後、モンスターと接敵する。
筋肉の盛り上がりの激しい人型のモンスターだ。情報を印刷した紙を見る。
モンスターの名前はエンダー・グ・ジョエル。中級中位であり、二つ名が<怪力マッチョ>。まんまである。
身長が180㎝であり、ちょっと上背のある人間に思えてしまう。それが3人。
郷田が大きな鎚を両手に構えて、腰を屈めた。
エンダー・グ・ジョエルがボクシングのファイティングポーズを取りながら走ってきた。郷田が全力で鎚を振るう。
エンダー・グ・ジョエルの上腕に槌がぶつかる。ベキャッと上腕が折れ曲がった。しかし、それでは止まらなかった。
鎚を手放さなかったことで、郷田の体が浮く。エンダー・グ・ジョエルが2体、彼の体を狙う。
茂呂が大きなハンマーを振るい、モンスターを横から叩いた。郷田は壁に足裏を付けてモンスターを押し返す。
高原は水の魔法を発射して、モンスターを押し流した。
エンダー・グ・ジョエルが顔に着いた水滴を拭うように、掌で顔面を覆った。その上から槌で叩き潰す。
『砕岩の槌』はユーヤを除き上級探索者の集まりだ。エンダー・グ・ジョエルの頭を潰せるほどのパワーを持ち合わせている。
「よし」
郷田と茂呂によって3体のモンスターを倒せた。
「順調だな」
「そうだな」
「あ、あんまり調子にならない方がいいんじゃ」
「うるせぇ! 行くぞ!」
ユーヤの歯止めを怒号で抑え込む。郷田は自信満々に歩き出した。
『砕岩の槌』は増長していた。これまでのダンジョン探索で苦戦したことがない。小心者のユーヤと違い、調子に乗りやすい郷田、茂呂、高原がこのチームを背負っている。
チームは止まらなかった。15層目の探索は順調に進んでしまい、中級中位のモンスターにもいい試合運びが出来てしまった。
郷田達の鼻はぐんぐんと伸びてしまった。
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