ダンジョンが僕についてくる
カタパルトチャンプルー飛来群
1章.ダンジョン攻略の6か月
第1話 事務作業や研究職に就いてみたが、今の状況としては結局暇
私はダンジョン。神でもある。
私は巨大なモニターが複数ある部屋で、それらすべてを見渡せる椅子に座っている。
ダンジョンである私の仕事は三つある。
一つは新規ダンジョンの作成。今は既存のダンジョンのみで十分と判断して、新しいものを作ろうとしていない。もうすでにこの世界には大小合わせて千のダンジョンがあるのだ。
二つ目は既存のダンジョンの維持管理だ。千あるダンジョンをすべて管理運用していくために、私が五体一組でダンジョンを監視している。しかも担当制ではなく、数日ごとに担当するダンジョンが変わっていく。だんだん目がショボショボしてくる。
三つ目は研究。ダンジョンで取り込んだものを解析し、自分達のものとしてダンジョン内で再現する。その上で使いこなしたり、宝箱に入れたり、モンスターに武装させたりもする。今私の目の前にあるモニターやダンジョン内に設置しているカメラも、研究の成果だ。昔は一つ一つにダンジョンに足を運んで確認していたが、楽になったものだ。
「神の私よ」
「どうかしたの、虎の私」
金髪少女の後ろに白っぽい虎が寄ってきた。体高が二mあり、椅子に座る少女のことを見下ろす形となっている。
「明日から地上へ出るのだろう? 確か」
「そうだね。二、三か月くらい探索者として戻るよ。それがどうかしたの?」
金髪少女は私達の中で唯一、人間の外面をしている。そのため、ダンジョンの中に入ってこない外の情勢を仕入れることが少女の役目だ。
「外へ行くのであれば有用な機械、武器、後はそうだな、スイーツを持ち帰ってきてくれ。もう数年経ったのだ。新しいものが出ているだろう」
「それは当然だよ。下調べだって、ほら」
金髪少女が取り出したものは、
「前回シアトルに行ったときに、次の目的地として買っておいたものだ。今回はシアトルに一回出てからここに向かう」
「ダンジョンワープを使うか?」
「いや、確か飛行機とかいう移動方法があるというのも調べているわ。雑誌に載っていたの」
「それならよかった。ところで、これの発音はとーきょーでいいのか?」
黄毛虎が金髪少女にぐっと頭を近づけてきた。虎の目がユラユラと動いて表紙の文字を読み取っていく。
「とーきょーってのは栄えているのか?」
「私達の本拠地である池袋があるのがこのとーきょーさ」
「ならば栄えているな」
「最後にとーきょーへ行ったのがまだ江戸と呼ばれていたな」
「500年以上前だったな」
「行ったことないからよく分からないけど、道具屋とかスイーツショップとかたくさんあるみたいだよ。かっぱ橋に新宿、池袋、原宿他にも」
「それ二、三か月で行けるか?」
虎の私が何を考えているのか読みにくい表情を作る。とはいえ、同じ私同士の会話なので、総体にアクセスすればこんな会話せずともチャットのような形でやり取りできるのだが、そこはロマンがないだろう。
「出来るだけ行くよ」
「そうか」
答えを聞くと、虎が体を離して、神に尻を向けた。
「そういえば、まだ大当たりは出ていないぞ」
「そりゃそうだ。出ていたらもっと大騒ぎだよ。脳内チャットがうるさいくらい鳴り響くことになるだろ」
満足したように鼻を鳴らした黄毛虎がゆったりと去っていった。
大当たりとは、ダンジョン内で行われているルーレットの話だ。ダンジョンは生まれてから1億年以上が経っている。真面目に働いてきたが、娯楽に限界が来たのだ。面白みがないのだ、ダンジョンの仕事は。毎日同じことの繰り返し。このままでは生き物ではないくせに、認知症になってしまいそうだ。
そこで生んだのがルーレットである。ダンジョンに入ってきた者達に対してルーレットを回し、大ハズレ、ハズレ、普通、当たり、大当たりの4種からどれかが出てくる。
大ハズレの場合は90%の確率で死ぬくらいのイレギュラーを発生させる。出る確率は10%。
ハズレの場合はアイテムがあまり出なくなったり、目当てのモンスターに出会えなかったりする。出る確率は15%。
普通の場合は何もしない。無視。出る確率は60%。
当たりの場合はアイテムの出現率が13%upし、目当てのモンスターと出会えるようになる。出る確率は15%。
大当たりの場合はダンジョンが相手の一生涯すべてサポートする。出る確率は小数点以下に0が何十個と続く。
これの大当たりが出ないかハラハラしながら早1億年。そろそろ大当たりが出てきてもおかしくないのではないか?
私は伸びを一つして地上へ行く準備を始めた。
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