正義を行う者たち
その光景は地球人類にとって最悪の光景だったろう。
「助けて-!」
「どうしてっ! どうして!? スーパーグレイトマン!」
「嘘だ-! スーパーグレイトマンは正義の味方のはずだよ!」
これまで大怪獣から地球を守ってきたはずの歴代スーパーグレイトマンが、地球人を襲っているのだ。大人も子どもも関係ない。容赦など無い。
「嫌だ-! スーパーグレイトマンが悪者のはずなんてないんだー!」
「うわーん!」
子どもが泣いている。
先週まで私が守らなくてはいけない対象だった子どもが泣いている。
私に笑顔で手を振ってくれていた子どもたちが泣いている。
「さあ、君も地球人類殲滅に加わりたまえ」
私と共に上空からその光景を見ていたエルンストが、超然とした態度で私もあの中へと加わるように促す。
「これまで派遣されてきたスーパーグレイトマンが一堂に会したのだ。この星の人類全てを殲滅するには時間が掛かるが、難しい仕事ではないだろう」
「……」
「どうした?」
「……私は」
「ん?」
「……私には、出来ません」
「どういうことだ」
説明しても理解はしてもらうことは出来ない。口に出す前からわかっていた。
「私は、この星の、地球の人類を守りたいのです」
「君は何を言っている」
想像したとおりの返答だった。
「罪を犯していない者を、罪を犯す可能性があるというだけで罰するのは正義でしょうか」
「……」
「私にはそうは思えません」
「地球人類に絆されたか。それが、宇宙全体の正義を守るためならば、私たちはそれを成し遂げねばならない」
足元に見える地上から、光が上がった。
あれは……。
「やはり、来たか」
エルンストが呟いた。
一方的な状況に変化が訪れた。
人造スーパーグレイトマンだ。それが、スーパーグレイトマンたちに応戦している。
「が、これは想定済みだ。何っ!」
エルンストが驚きの声を上げる。
「すでに量産していたのか……」
地上には数体の人造スーパーグレイトマンが出現していた。
そして、スーパーグレイトマン達に立ち向かっていく。あれは、防衛隊の隊員が言っていた研究中の自立思考モードで動いているのだろうか。彼らはもういないはずなのだから。
数体の人造スーパーグレイトマンが集まり、先々代のスーパーグレイトマンミルトの元へと向かう。
何体で来ようとも、人造スーパーグレイトマンの出力は弱いはずだ。まとめてやられてしまう。そう、私もエルンストも思っていた。
しかし、結果は違った。
「……なん、だと」
ミルトを囲むようにした人造スーパーグレイトマンたちは、同時に光線を放った。
そして、
「あのミルトが、地球人類の作ったものなどにやられた……だと? 恐ろしい……。これが悪意を持って宇宙に進出でもしたら」
目の前の光景を信じられないといったように苦々しく、エルンストが言った。そして、私を見た。
「これでも、君は地球人類を守ると言うのか。本当にこれが守るべき対象だと言うのか。今滅ぼしておかねば、取り返しが付かないことになるぞ。今ならまだ間に合う」
エルンストは地上へと身体を向ける。
「あれは自己防衛です。危機に見舞われれば仕方のないことです」
そう言いながらも、私も少しだけ寒気を覚えていた。ここまで地球人類の科学技術が進んでいることに驚いていた。
だが、
「それでも、私は信じたい」
一緒に戦ってきた仲間たちを。
仲間たちと共に過ごした日々を。
少なくとも、私の知っているこの星の人類は決して悪人では無かった。
むしろ、愛すべき人々では無かったか。
ならば、守るべきものは。
私は、地上へと向かおうとするエルンストの前に立ちはだかる。
「……そうか」
なんの感情も持たない声で、エルンストが言った。
「君がそのつもりなら仕方がない。地球人類の味方をしようとするのなら……、君は、我々の敵だ」
私は何も答えなかった。代わりに応戦の構えをとる。
「残念だ」
エルンストが構える。
私とて地球に派遣されたスーパーグレイトマンの一人だ。少しは応戦してみせる。
こちら側に付くのは私だけだ。だから、出来ることはこの星の人類の為にほんの少しの時間を稼ぐことくらいだけだとわかっている。
それでも、私は、私の正義を守りたい。
同時に光線を放つ。それは拮抗した。
が、次の瞬間。
私は無数の光に貫かれた。
それが何かはすぐにわかった。地上にいた他のスーパーグレイトマンたちが私に向かって光線を放っていた。エルンストがテレパシーで、私を一斉攻撃するよう伝えていたようだ。
私は力を失って地上へと落ちていった。
もう、私に力が無いとわかったスーパーグレイトマンたちは、もうエネルギーを割く価値など無いと言わんばかりに元に任務へと戻っていく。
人造スーパーグレイトマンも次々とやられていく。油断さえしていなければ、同時に光線を放つ隙を与えなければ、それは一方的な戦いだった。
私にこの星の人類は守れなかった。
映像のように頭の中を流れていくのは、この星で一緒に過ごした仲間たちの記憶だ。これが、この星の人類が言う走馬燈というものだろうか。
最後に会った仲間たちの顔は、みんな泣いていた。最後まで共に戦いたいと言っていた。
だが、私は彼らと彼らの親しい人達をそうはさせなかった。私がこの星に来るときに乗っていた宇宙船を地球人サイズに調整し、彼らを乗せ、逃がしたのだ。スーパーグレイト星人サイズのままなら大勢を乗せることは出来るが、それでは彼ら自身で操作をすることが出来なくなってしまう。それでは意味が無い。だから、本当に少数しか逃がせなかった。すぐに戻ってこられないように最初は自動運転にして、操作を受け付けないようにすることも忘れなかった。
私には、それしか出来なかった。それが自己満足でしか無いとしても、せめて彼らだけでも守りたかったのだ。
彼らには、大切な人を守ることも防衛隊の役目だと説得した。地球は出来る限り私が守るから、と。
一緒に行けないと言った私に、あの女性隊員は泣いてすがった。それでも無理矢理行かせた。私が残らなければ、彼らが逃げる間の少しの時間稼ぎすら出来なくなってしまう。だから、私は残った。
彼らが無事でいてくれるといい。
エルンストや、歴代のスーパーグレイトマンの先輩たち、彼らにそう思える地球人はいなかったのだろうか。
管理対象である地球人にこんな感情を抱いてしまった私がおかしいのだろうか。
私は間違っているだろうか。
彼らを逃がしたことで、災いの芽を宇宙に撒いてしまったのだろうか。
私は、おかしいのかもしれない。
だけど、私は思うのだ。
私を仲間だと言ってくれた防衛隊の隊員たちが無事でいてくれたらいい。そして、あの泣いていた女性隊員が、また笑ってくれればいい。私の前でいつもしていたように。
それだけで、私のしたことは報われる。そんな気がするのだ。
それならば。
私は身体の中に残った力を振り絞り、立ち上がる。
まだ、諦めるわけにはいかない。
最後まで、最期の時が来るまで、私は戦う。この身が朽ちても構わない。
後悔など無い。
それが、私の正義だ。
ただ一つだけ。
防衛隊の仲間たちと、一度酒を酌み交わしてみたかった。本当はずっとそうしたかった。
今となっては、もう秘密など無い。毎週の作戦が終わった後に彼らがいつもしていたように、陽気に笑って飲み明かしたい。
この戦いが終わったら……。
そんな願いを胸に、私は大地を蹴った。
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