正義を継ぐ者
故郷を離れて
「地球はもう無くなっているんだろうか……」
仲間の一人が呟いた。
それは誰もが口にしたくて、言えなかったことだった。
ただでさえ重苦しかった空気が、更に重さを増す。
地球を離れて宇宙を漂いだしてから、どれ程の時が流れただろう。
私たちは疲れ切っていた。私たちが乗せられた宇宙船の操縦は強制的にオートになっているらしく、自ら操縦することは不可能だった。どうやら、住める星を自動的に探し、そこへと向かう操作がなされているらしい。
「けど……、もうどうしようもないよな」
わかっていた。戻っても俺たちに出来ることは何も無いのだと。
戻ったところで、俺たちの住んでいた星・地球はすでに存在しないのだということは。
俺たち地球防衛隊のメンバーは彼らスーパーグレイトマンたちを信頼しきっていた。彼らは正義のために俺たち地球人の為に戦ってくれていると、そう思っていた。しかし彼らは地球人類に対して牙を剥いた。
「あのスーパーグレイトマンが、まさかあんなことをするなんて」
仲間の言うとおり今頃、地球はスーパーグレイトマンたちに滅ぼし尽くされていることだろう。
地球を脱出出来たのは、この宇宙船に乗ることが出来た地球防衛隊の我々とその家族だけだ。
何故我々だけが助かったのか。それは、今年スーパーグレイト星からやってきていたスーパーグレイトマンの一人、スーパグレイトマンエンデのお陰だ。彼は、俺たち隊員の一人だった。
「でも、びっくりしたよな。アイツがスーパーグレイトマンだったなんて」
「うん。私も」
彼はその正体を隠していて、俺たちはもちろん何も知らなかった。だが、地球防衛隊の上層部は彼の正体を知っていたらしい。
「でも、エンデより前のスーパーグレイトマンの時から疑ってはいたなんて。私たちには全くそんな話伝えられてなかったのに。ひどい話よね」
「いつも接してる俺たちが知ったらバレるとでも思ってたんだろ、きっと。敵を欺くならまず味方からってやつ。まさかあんなものが開発されていたとはびっくりしたしな」
あんなもの。
言わずともわかる、人造スーパーグレイトマンのことだ。
彼らに正体を知ったことを告げず、知らないフリを決め込んでいたのは人造スーパーグレイトマンを造る為だったらしい。我々一般隊員は知らなかったことだが、秘密裏に彼らの力の秘密を解析していたのだと、人造スーパーグレイトマンが完成してから伝えられた。
最初はそれが不思議だった。
対等の立場で一緒に戦えるようになれるのならばそれは喜ばしいことで、秘密にする意味などないのではないかと。
が、それは間違いだった。
地球人が、彼らと同じ力を持とうとしていることをスーパーグレイトマンは喜ばなかった。むしろ……、
「でも、そのせいであんな、あんなひどいことに……」
仲間の一人が泣き出す。
俺だって泣きたくなる。いや、人知れず何度泣いたことか。
地球人の技術が彼らの管理出来る範囲を超えようとしていることを知ったスーパーグレイトマンたちは、地球を滅ぼすという決断をした。彼らが地球を守ってくれているのは地球人への善意などではなかった。
それを知らせて、エンデは俺たちを逃がしてくれた。
スーパーグレイトマンが地球に怪獣を送り込んでいると知ったのも、彼から聞いた。
彼は、私たちを逃がすとき地球を滅ぼそうとしているスーパーグレイトマンに一人で立ち向かうと言った。俺たちは、彼に一緒に行こうと誘った。彼は首を縦に振らなかった。ただ、俺たちを送り出した。
彼があの後どうなったのか、俺たちは知らない。
ただわかるのは彼だけが、俺たち地球人を守ろうとしてくれたということだけだ。
彼の態度と言葉は嘘には見えなかった。彼だけはきっと本当に俺たち地球人のことを……。
『ビービービー』
物思いに耽っていた俺を現実に引き戻すように、耳障りな警報音が突如鳴り響く。
「ど、どうなってるんだ!?」
「な!? どういうことだ?」
仲間たちも突然のことに慌てた様子だ。
「何が起きたんだ?」
「おかしいのです。何かに引っ張られています!」
「何?」
慌ててモニターを見る。
これまで順調に航行していた宇宙船が、確かにおかしな動きをしていた。
引っ張っている先には何も見えない。
何も見えない、というよりも何も無かった。
星の輝きすら、無い。暗黒空間だ。
「まさか……、ブラックホール!?」
「そんな、どうしたら」
「操作を全然受け付けません!」
必死に操作をしようとしても、俺たちには何も出来ない。
「クソッ! どうすればいいんだ!」
悪態を吐いている間にも、宇宙船は暗黒空間へと引っ張られていく。
そして……、俺たちはその空間へと取り込まれていった。
時間が経っているのか、止まっているのかわからなかった。
一瞬だった気もするし、とてもとても長い時間だったような気もした。
それは奇跡だったのか。
「私たち、無事、なの……?」
その空間を抜けた。
生きていた。
モニターには、暗黒空間に入る前と同じ宇宙が映っていた。
が、ただ一つ違ったのは、
「あれ、見ろよ。地球だ! 無事だったんだ!」
仲間の一人がモニターの端に映った惑星を指さす。
そこには確かに青い星の姿があった。
わっと、歓声が上がる。
「いや、違う」
一人、気付いてしまった俺は呟いた。
「地球じゃない。地球のはずがない」
歓喜に沸いていた船内が一瞬で静まり返った。
「見てみろよ。大陸の形が違う。それに、地球よりずっと大きい」
「……本当だ。そうだよな。地球が無事なわけ、なかった、よな……」
一転して、船内が悲痛な空気に包まれる
それを破ったのは、機械音声だった。
『コノ惑星デハ人類ノ生存ガ可能デス。移住ニ最適ダト判断シマス』
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