第二幕 相棒 一条 光

第8話 高貴なるお方

 ボクは市場で行った旅支度で手に入れた地図を広げていた。


 しばし地図とにらめっこすること数分。


 ……ダメだ、分かんない、地図の読み方なんて習ってないよ。ボクはあの田舎でずっと農家をやるつもりだったんだ。


 作った野菜は誰にも食べられてないっていう衝撃の事実をついさっき知ったけど……。

 ボクは農家ですらなかったんだ。


 いや、いつまでも沈んだ気分でいちゃダメだ。この道をがむしゃらに進むしかない。


 それにしてもボクが王様か、なれるのかな? なんか急激にステータスは上昇したみたいだけど。


 みんなのステータスって見る事出来ないのかな?

 いや、鑑定士がボクのステータスは1だって言ってたんだ。

 鑑定士っていう職業があるなら、ボクだって何かを頑張れば人のステータスを覗き見することくらい出来るのかもしれない。


 そんな希望を胸に抱いて、顔を上げたところだった。


 高貴なるお方、どっからどう見ても身分が田舎出身じゃない人が、道端の大木に座ってよりかかって寝ている。


 男……だよな。服装からして、女の高貴な人は着物何着も重ね着するっていうし……。


 話しかけた方がいいのかな?

 ああでもこういう時話しかけてコソ泥とか追剥おいはぎとかと勘違いされて敵対視されたら嫌だけどそれを放っておけないのがボクなわけで……、


 心理的葛藤の末、結局話しかけた。


「あ、あの!」


 最初は少し距離を保ったまま話しかける。あくまで警戒されないように。


「あの! おきて下さい! 襲われますよ!」


 大声で叫ぶが一向に起きる気配が無い。

 

 嫌な予感と変な汗が背中を伝う……。

 もしかして死んでるんじゃ……。


 さすがにそれはないだろうと思いながらも、近づき、肩に触れた。


 次の瞬間!


 ボクは地面に組み敷かれていた。


 その組み敷かれる感覚は慣れたものだった。

 近所のクソガキに散々組み敷かれたことがあるからだ。

 そして、ああ、犬のうんこでも食わされるのだろうか? なんて思っていたら、頭が冷静になった。

 

 ちょっと待てよ、ついさっきボクはあのワッカを一撃でぶっ飛ばせるくらいに強くなったはずなんだ。それなのに何故今もまだ組み敷かれてる?


 そうかわかった! 答えはシンプルだ。この人、めちゃくちゃ強いぞ?


「油断したな! 我は一条いちじょうの末裔。ちょうど腹が減っておったのでな。食い物を寄こせ!」


 地面に顔を押し付けられて、いつものトラウマスイッチが入るかと思いきやそんなことは無かった。


 あれ、組み敷かれてるけど力そんなに強くない?


 反撃開始タイムが始まろうとしていた。

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