第6話 最弱農家のプライド

「松前 慶広はこの村からだいぶ南に行ったところに城を構えている。なに心配するな。ソラはもう御庭番に目を付けられる存在になってるかもしれない。もしかしたら兵隊にスカウトの話がくるかもしれない。つまり丁重にもてなされるだろうってことさ。気負わず進め」


「う、うん……」


 でもボクには自信が無かった。

 ボクはこの村から出た事が無い。


 一人でやっていけるだろうか?


 その日、小屋に帰る事無く、ボクとオジサンは村を後にした。


 この村の人間達にはいい思い出が無い。

 ガキにはうんこを何度も食わされそうになったし、大人には丹精込めて作った野菜を、ボクが最弱だからという理由で安く買いたたかれた。


 それでも……、それでもボクはやっぱり、そんな人間達にも死んでほしく無い。


 ボクは優しすぎるのだろうか?



「……それじゃあソラ、ここでお別れだ。お互い元気でな」


 ボクとオジサンの別れはあっという間にやって来た。

 村の入り口まで一緒だったのは何となく覚えている。

 

 でも村を守るアイヌの兵隊、16歳のワッカがボクを見て、

「15歳にもなってオジサンに子守りしてもらわねえと外にも出れねえのかお前は、情けな」

 と言ったところで意識が上の空だったのが一気に現実に呼び戻された。


 そうだよ、ボクはやっぱり一人で旅をするなんて無理が……。


「ソラをなめるなよ」


「あ? なんだオッサン?」


「ソラは今のお前よりも何倍も強いって言ってんだ」


 やめてよオジサン……どうしてそんな煽るような事言うのさ?


「は! おもしれぇ、 じゃあ全財産賭けて勝負してやろうじゃねえの!」

「言ったな、約束は絶対だぜ、あとお前はソラに屈服することになる。予言してやろう」


「やめてよ!」


「なんだよ、結局逃げんのかよ、なっさけねぇ……お前の育てる野菜と同じでお前自身も大したことねえんだな。知ってるか? お前の育てた野菜、食ったら弱くなるって評判だったからクマの餌とかにされてたんだぜ」


「え……」


 なんだそれ、そんな話聞いたこと無いぞ、野菜を食ったから弱くなる? そんなバカな話聞いたことも無い。

 つまりボクの野菜は、安く買いたたかれただけじゃなくて、皆の食卓にも並んでなかったというのか?


 農家としてのプライドが傷つけられた……。


「とっとと消えな、最弱農家、とっとと村から出てって死んでくれや、お前みたいのが村にいると敵から攻めやすいって思われてオレ達村の兵隊の仕事が大変なんだわ」


 ボクは震えた……。

 初めての感情だった。

 ここまでこけにされたのは人生で初めてだ。

 そして気が付いたら、ワッカを思いっ切り殴っていた。

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