4
日焼け止めやタオル、浮き輪やシートなど色々な物を買うために、僕はレンタカーに乗ってショッピングモールまで来た。夏休みシーズンだからか、結構沢山の人がいる。
とりあえず一番小さい日焼け止めから買っていこうと思い、エスカレーターに乗って3階の化粧品売り場へと行った。
しかしそこまではよかったものの、僕は売り場で困ってしまうことになってしまった。日焼け止めが多すぎて、どんなのを買えばいいのかさっぱりわからないのだ。僕はてっきり日焼け止めなんてクリームみたいなものだけだと思っていたが、スプレーやらジェルやらいろいろある。僕みたいなインドア派には全然わからないものだった。
分からなかったからとりあえず僕のは『海水浴 日焼け止め』でググって一番上に出てきたやつを買うことにしたが、問題は友梨佳のぶんだ。一応女性用でも調べて、出てきたやつを手に取ってはみたが、本当にこれでいいのかがわからない。彼女に聞くという選択肢もあっただろうが、それはなんか、気まずくて、できなかった。
だから僕は二つ日焼け止めを持ったまま困り果て、そのまま女性用コーナーにいることもできずにうろうろしている。どうしよう、もうこれでいいかな。
「あれ?蓮じゃん」
ふいに、後ろから、低い声が聞こえた。聞き覚えのあるその声は、間違いなく僕を呼んでいた。
――僕には友達がいない。それは本当の事だし、友梨佳以外に気軽に話せる人はいない。
だけど、大学とかに知り合いはいる。それは主に友梨佳の友人たちだけど、一応いるのだ。プライベートで遊んだりはほとんどないけれど。
僕は後ろに振り返って、声をかけてきたその知り合いの方を見る。
「ああ、
彼に会うのは、大体2週間ぶりだった。
「よーっす、久しぶり」
高林は友達と会った時みたいな態度で、僕に近寄ってくる。別にそのまま行ってくれてもいいのに。
「ん?それ何?日焼け止め?」
「あ、うん」
「まじか、どっか行くの?海?」
「いや、ちょっと旅行に」
「へぇー、やっぱこの時期って皆旅行とかするんだな、
「高林は、どこか行かないの?」
「ん?あー、俺は特に予定ないし、地元の友達と遊んでる」
そんな風に僕らはとりとめのない会話をしていた、僕から話題を振ることはなくて、高林が会話を始める形だった。
単位の話やら、旅行の話やら、5分くらい喋ってたかもしれない。その間、色々な雑談を交わした、けれど。
高林は絶対に、あの事について触れようとはしなかった。彼は必ず、波風立てないような何でもない話題を選ぶのだった。僕にはそう思えた。
そんな彼の態度が、なぜか妙に心に引っかかって、そして。
僕を、苛立たせた。
「ごめん、もう行くよ」
そう捨て台詞を言うと、彼は何ともないように。
「おう、お疲れー」
と、手を振ってきた。
それから両手に二本日焼け止めを持ったまま、僕は手を振り返すこともなく高林と別れて、早歩きでレジへと向かう。結局、彼は最後まで、あの事には触れてこなかったし、何の素振りも見せなかった。
それから僕は日焼け止めを買ったのち、必要になりそうな雑貨を購入、そしてそのままプール用品が売られているエリアへ移動すると、タオルやゴーグル、浮き輪を買った。
浮き輪とかは海の家かどこかで借りれるのかもしれないが、今の時期絶対に混んでいて、時間が取られるのも嫌なので買う事にした。友梨佳だって、暑い中待つのは嫌だろう。
そして一応レジャーシートも買うと、目的を果たした僕は家に帰る。さすがにいっぺんに色々買いすぎたせいで、結構大荷物になってしまった。こんなに買い物をしたのはいつぶりだろうか、と考えながら、僕は駐車場へと向かう。
「ただいま」
「おかえり、ありがとね」
家のドアを開けると、クーラーで冷やされた空気が、火照った僕の体を冷やしてくれる。僕はほっと一息ついて座り、買ってきたものを床に置くと、疲れが一気に吹き出てきた。長い時間外にいたからだろうか。
あ、そうだ、結局日焼け止めを適当に買ってきたんだった。
「あのさ友梨佳、日焼け止めってこれでいい?」
僕は買い物袋の中から友梨佳用の日焼け止めを取り出して、ほいっと渡す。
「ん、これでいいよ、ありがとね」
と、お礼を言ったあと、友梨佳は続けて。
「それとさ、水着って向こうで買うんだよね?」
「ああ、うん、一応その予定」
「りょーかい、あ、そうだ後でゲームしようよ」
「ん、いいよ」
そして、僕らはしばらくのんびりとスマホを眺めていたり、一緒にゲームをしたりして過ごしていると夜になり、ご飯を食べて、またしばらく遊んで、寝た。
次の日、朝に荷造りを終わらせると、僕はまた昨日みたく友梨佳と一緒にゲームをしたり、買ってきた浮き輪やらで遊んだり、まったりと過ごした。
何もとりたてて言うことのない、なんでもない日々だったけれど、僕はそれでよかった。それで、十分満足していた。
友梨佳がいるこの日常、それだけで、僕の心は確かに満たされていたから。
それから夜になって、いつもよりかなり早く食事や風呂などを済ませ、僕たちは布団に入る。
「明日とうとう旅行かぁ...旅行なんて久しぶりじゃない?あれ以来でしょ、伝説の卒業旅行」
暗闇の中で、彼女の声が聞こえた。それは聞いているだけで高揚感の伝わるような弾んだ声で、彼女の興奮が伝わってくるようだった。
「たしかに、それ以来だったっけ」
「そうだよそうだよ、いやぁ、あれはなかなかのものだったね、うん」
「まぁ、僕的には結構楽しかったけどね」
「うん、いや、楽しかったよ?楽しかったけどさ」
「やっぱそれ以上にきつかったよ」
真っ暗だと、なんだか思っていることがすらすらと口から出てくるような感じがする。彼女もそうなのだろうか。
「それにしても、旅行なんてほんとに久しぶりだなぁ、あ、皆にお土産も買わないと」
友梨佳は、何気なくそう言い放った。
きっと、彼女に悪気なんてものは一切なかった。それに彼女は旅行に行けば友人に必ずお土産を買う。そういう性格だってことも、知っていた。そもそも僕とは違って、それが彼女にとっての当たり前なのだから。
それでも。
ぎくり、と心臓が大きく脈を打った。忘れかけていた不安や後ろめたさが、僕の心を埋め尽くしていき、それは明確な言葉となって僕を蝕んでいく。
――僕は結局、逃げているだけなんじゃないか?現実を受け入れられず、ただ逃げて。
いや、考えるのはよそう。
とりあえず、今は明日のために眠ろう。そうすれば、きっとなんとかなるはずだ。
僕はそう結論を出して、ゆっくりと目を閉じた。
ピリリリ、とアラームの音で目が覚めた。寝ぼけた目でスマホを見ると、時間は朝の4時だった。僕は隣でもぞもぞと布団に潜って動いている友梨佳から布団をひっぺがし、一緒に身支度をする。
「ふわぁ...眠い...あと5分だけ...」
と、目を擦りながらも準備を進めていた。
そりゃ、僕もあと5分だって眠りたい。けれど新幹線は待ってくれないから、しょうがない。
「駄目だよ、僕だって眠いし...」
眠さに耐えながらお互い身支度を終え、スマホを見ると、もうすぐ予約していたタクシーが来る頃だった。
「もう来るよ」
「はーい、もうこれでこの家とはおさらばかぁ...」
「いや...ちゃんと帰ってくるよ」
「それもそっかぁ」
もうこれで、おさらば。
そんな言葉が少し胸に引っかかったまま、僕らはマンションの前に止まっていたタクシーに乗って、この県で一番大きな駅へと向かう。ちなみにさっきからずっと眠そうにしていた彼女は発車してすぐに寝た。この間わずか1分である。どっちかというと気絶に近い。
それからしばらくタクシーに揺られていると、駅へと着いたので彼女を起こし、タクシーから降りる。ここに来るのもなかなか久しぶりだ。
「新幹線乗り場...あ、先に発券しないと」
「蓮、売り場ここにあるよ」
と言って彼女が指さしていたのは、普通の電車の切符売り場だった。違う、そうじゃない。
「友梨佳、それ新幹線の切符売り場ちゃう、電車の方の売り場や」
「えっ...」
友梨佳は少しフリーズしたのち、下をペロッと出して、もはや死語となり、話す人間など、もはや二次元の中にしかいないであろう、ある言葉を口にする。
「てへぺろ」
「誤魔化すな」
そう突っ込むと、彼女は何を言うでもなくけらけら笑い、僕も笑う。
それからちょっと歩くと切符売り場を見つけたので、2人ぶんの切符を発券して、そのまま改札内に入った。そして時計を見てみると、まだ出発までには時間があったので、朝食を買おうという話になったので、僕らは喋りながら構内をうろついて適当な店を探す。
「何食べよっかなぁ、蓮は何にするの?」
別になんでもいいかな、とは思うけれど、『ご飯どうする?』と聞かれて『なんでもいい』と答えるのは大罪だとどこかで見たので、『なんでもいい』とは答えない。
「僕は...まぁ別にコンビニでいいかな」
「えぇ?いやいやせっかくなんだから駅弁買おうよ、旅行なんだから」
「んー、じゃあそうしようかな」
彼女に説得され、結局駅弁を買う事にした。ふらふらとキャリーケースを引きながら歩いていると、手ごろな弁当屋があったので、そこで買うことにした。
「何にしよっかなぁ、ここはシンプルにのり弁か...いやしかしどうするべきか...」
彼女が頭を悩ませている中、僕はショーケースに並んだ弁当をサラッと見て、もう何にするかを決めたので、ぼんやり彼女を待っている。
そのまま待っていたら、弁当を見ていた彼女はくるっと僕の方を向いて、話しかけてきた。
「よし、私はやっぱりすき焼き弁当にするよ、蓮は決めた?」
「朝なのにいっぱい食べるね。のり弁にするよ、あとお茶」
友梨佳は手でグッドをすると、「すいませーん」と店員さんに注文をしてくれた。
「のり弁1つと、すき焼き弁当一つと、あとお茶2つください」
「かしこまりました」
店員さんはレジを打ち、そして『2380円です』と言った。僕は彼女と店員さんの間に割って入り、『カードで』と言って、会計を済ませた。
「ありがとうございます」
店員さんは手馴れた手つきで注文された品を用意する。かなり早い動きで、弁当が出てくるのには5分もかからなかった。
「おまたせしました、すき焼き弁当と、のり弁と、お茶2つです」
にこりと営業スマイルを張り付けたまま、店員さんは友梨佳に商品を手渡してきた。友梨佳は商品を手に取ると、なぜか少しふらついたような気がした。いや、気のせいか。
「ありがとうございます」
友梨佳はお礼を言って、それに呼応し僕も軽く会釈をすると、揃って店を出た。また時計を見ると、結構いい感じの時間だったから、ゆっくりとホームへと向かった。
ホームに着くと、もう新幹線が着いていて、あまり混み合わない早いうちに乗っておいた。指定された席に着くと、彼女は早速弁当を開けていた。
「もう食べるの?」
「お腹減ってるんだよ、あと今食べないと寝ちゃいそうだし」
まぁ、確かに。
僕は少し納得をして、彼女と同じように弁当を開け、食べ始める。そこそこ高かったこともあってか、馬鹿舌な僕でもわかる程度には美味しいと感じた。友梨佳も美味しいと思っているのか、ぱくぱくと食べている。一方僕は、半分を食べたあたりでお腹が満たされてきたけど、残すのもあれなのでお茶で流し込む。
「ご馳走様でした」
「ごちそうさま」
二人そろって弁当を食べ終わり、後片付けを始める。
頑張って食べていたからか、彼女と大体同じペースで食べ終わることができたけれど、そのせいでお腹が苦しい。もう少しゆっくり食べればよかった。
「ふわぁ...寝よ...」
お腹いっぱいな僕を横目に、彼女はのんびりと寝る準備をしていたと思ったら、少し目を離した隙にもう目を閉じていた。
彼女が眠っていて、僕だけ起きているというのも退屈だし、僕も寝ることにした。一応寝過ごさないように、到着の10分前に起きれるようアラームをかけておいて(さすがにバイブレーション設定にしてある)目を閉じる。暗闇の中で、新幹線が走る音だけが鳴り響いていた。
――――――――――
「いてっ!?」
「あ、起きた」
額に来た謎の痛みで目が覚めた。霞んだ目で周りを見てみると、彼女が笑いながらこっちを見ていた。
「...何してるの?」
そう問いかけると、彼女はへへっと笑って。
「いやぁ、どこまでのいたずらなら起きないのかなって、そしたら案外起きなかったから楽しくなっちゃった」
「てことは他にも何かしたってこと?」
「したよ」
「...具体的には?」
「つついてみたり、耳引っ張ったり、あとは
彼女は表情を変えず、自然にそう言い放った。
「そんな同人誌的展開が行われていたの!?」
「周りの視線が痛かったけどなんとかやり切ったよ」
「そこは頑張る所じゃない!」
なんてことだ、まさか僕の彼女がこんないやらしい人間だったなんて。確かにそんな感じはあったけども。
「ま、さすがに冗談だけどね」
「そりゃそうでしょ」
彼女はあっけらかんと、今までの言動が冗談だと言い放った。まぁ、本当にそんなことをしていたら今頃彼女は神妙にお縄についている所だろう。
「それに私は、やるとしたらもっと徹底的にやる」
「どういう風に徹底するの!?」
「そりゃあもう...ねぇ?」
今日からは不用意に彼女の隣で寝られないかもしれない、僕らの貞操がめちゃくちゃになってしまう。
「そうだ、あとどれくらいで着くの?」
彼女に問われ、僕はスマホを見ると、アラームの鳴る4分前だった。ということは、あと14分ぐらいか。
「14分後」
アラームを切っておいて、そう答える。彼女は「もうすぐかぁ」なんて言っていた。
それから僕たちが降りる駅に止まったので新幹線から出て、とりあえず地上を目指す。その過程でフォトスポットで写真を撮ったり、お土産屋さんで名産の明太子を試食したりしていた。楽しかったことには違いないが、僕は少しだけ複雑な気持ちを覚えた。
そして僕らは駅から出ると、まず水着を買うために近くのしまむらへ向かった。そこは駅と隣接していたため、喋りながらゆっくり歩いても3分くらいで着いた。中に入るとすぐに水着コーナーは見つかった。
「水着だー!何着ようかなー、蓮は何にするの?」
彼女はそう言いながら目を輝かせてくるくると辺りを見渡している。僕は別に水着のこだわりとかは、派手すぎなくてサイズが合えばなんでもいいので、その事を伝えたら彼女は。
「じゃあまずは蓮の水着選びに行く?あんまり時間かからなさそうだし」
「いいんだけど、別行動してそれぞれ選んだりしないの?」
と言うと、彼女はにかっと笑って。
「せっかくなら一緒に選びたいじゃん」
それもそうかな、と僕は思った。確かにまぁ、一人で黙々と選ぶよりかはそっちのがいいかもしれない。
「おーけー、じゃああっちに行こっか」
僕らは男性用水着コーナーへ向かい、そしてどんなのがいいか、と見繕う。そこはスポーツ用のピッチリしたものや、誰が履くんだ、と思えるような派手すぎるピンクの水着まで、色んな種類のものがそろっていた。
「あ、これとかいいんじゃない?」
そう言って友梨佳が僕に差し出してきたのは、よりにもよってさっき見た派手すぎる水着だった。なんでやねん。
「なんでこんなにもある中からこれを選んだのか聞かせて欲しいものだよ」
「これを着て泳いでる蓮が見たいなぁって」
彼女はけらけら笑っている。ので、僕もつられて笑いながら。
「絶対嫌だ」
友梨佳が提案してきた水着を丁重にお断りすると、彼女はしぶしぶといった感じでそれを元の場所に戻し、また別の水着を探し始める。僕もその辺を散策していると、いい感じに地味でサイズもちょうどいいものが見つかったので、これを買う事にした。彼女は最後まで僕に水着を勧めてきたが、競泳水着だったり丈がほぼパンツみたいなやつだったり全部僕の趣味に合わないものだったので、断っておいた。いちおうなんでそんなものを勧めてきたのか聞いてみると、『性癖』の一言だけが返ってきた。あまりに堂々としていたもので、さすが僕の彼女だ、と逆に関心してしまった。
...さすがに性癖は冗談だよね?むしろあれが性癖だったら、別に否定はしないけれど、どこでそんな癖がついたのかが気になる。
「んじゃ、次は私のだね、蓮も選んでいいよ」
「よしきた、さっきのお返しを存分に味わわせてやろう」
「やってみな、私は全て受け止めてみせよう」
それから次は友梨佳の水着を買いに行くために女性用の水着コーナーへと向かったはいいものの、当然といえば当然なのだが、そこには全くと言っていいほど男がおらず、明らかに僕一人だけが浮いている状態だった。気のせいかもだけど、心なしか周りからの視線が痛い。これでもし変な発言でもしようものなら、きっと僕は周りから変態と思われることだろう。まぁ僕がそんなミスを犯すはずもないが。
「じゃー蓮、どんなのが良いと思う?私はやっぱり王道のビキニか...あ、それともスク水がいい?蓮好きだもんね」
彼女が明るい、周りにも普通に聞こえる声でそう言った瞬間、周りの人たちの視線が一気に僕らに集まるのを感じた。こうなることは危惧していたけれど、まさかフラグを立ててからわずか2行でこんなことが起こるのは予想外だった。
「ん?あっ...」
友梨佳は僕らに向けられている視線に気づいたのか、しょぼんとしながら『ごめん』と言った。まぁ、別にいいんだけど。
「別にいいよ、それよりも何にする?」
そう言うと、友梨佳はぱあっと、明るい表情をとりもどし。
「んー、蓮が好きなの選んできていいよ、私もいい感じのやつ選んでくるし」
「そう?じゃあさっきのお返しを存分にさせてもらおう」
「よし、来な」
僕は友梨佳と一緒に、何かいい感じのものは無いかとその辺をきょろきょろと見渡す、そして3つほどよさげな水着を見つけた(一つはスポーツ用みたいなぴちぴちのやつ、もう一つはワンピース、そしてフリル系のやつだった)。それらを持って彼女に話しかける。
「いい感じの奴見つけてきたよ」
「お、どれどれ見せてみな」
僕は彼女に持ってきた水着を渡すと鏡の前で一つづつ自分の体の前にやり、「ほーう」とか「ふへー」とか言っている。
その様子を見ていると、彼女は僕の方を向いて、言う。
「いい趣味してますなぁ」
「でしょ、さっきのお返しもこめて、丹精込めて選んだからね」
「ふーむ、何にしようかなぁ...」
彼女は自分で選んだものも含めて、何にしようかしばらくうんうん唸って、やがて。
「これにするよ」
と、僕の目の前にそれを差し出してくる。
「お、ほんとにいいの?」
友梨佳が選んでくれたのは、僕が見つけたフリルの水着だった。
「いやぁ、結構こういうの好きなんだよね、あと」
「あと?」
「露出もそこそこあるから、蓮を悩殺できる」
「そんな不純な動機で選んだの!?」
「水着とは古代中国で生まれ、男を悩殺するために発展してきたのである。民明書房刊『水着の起源とその発展』より」
「絶対嘘だ!あの出版社誇大妄想の大ボラ吹きって言われてるし!」
それはそうとして、確かに友梨佳があの水着を着ている姿は...正直見たい。何ならお金も払える。
僕らはそんな風にあれこれ喋りながら買わなかったやつを戻し、レジへ行って水着を買った。その途中、水着を着た友梨佳を想像してちょっとやましい気持ちになったのは内緒だ。
それから荷物を預けにホテルへと向かう。外でタクシーを拾って、運転手に今日泊まるホテルの名前を告げて、送ってもらった。
ホテルに着くと、友梨佳は堂々とフロントの人に荷物を預けに来た旨を話し始め、少しのやりとりののち、無事に荷物は預けられ僕らの手元には最低限の装備だけが残った。彼女は一回『ありがとうございます』と頭を下げると、後ろに立ってた僕の方を向いて。
「じゃあ行こっか、海」
と言って、僕の手を掴んで、外へと導いてきたので、僕は慌てて進み、友梨佳の隣に立ち、ホテルの外へ出た。
不安も、罪悪感も、いつの間にかすっかりいなくなっていた。
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