第12話
順調に鉄鉱石採掘がすすみユノラド男爵家も随分と潤った。
『そろそろ『よるコン』の設定の季節なはずだわ』
パレシャは気合を入れて王都学園転校を家族に談判した。しかし家族にけんもほろろに扱われ、それでも諦めきれず猫なで声やら泣き落としやらでどうにか懐柔を図ったパレシャであったが、マナーもできない勉強もできない娘が心配で心配で王都に出せない家族の考えは間違いではないと思う。それに対して最後には癇癪をおこし家出宣言してようやく許可を貰えると喜び勇んで王都へ引っ越した。
学園の寮に入り制服を着て生徒指導室に向かい知らされたのは驚きの処遇だった。
『私がEクラスってどうゆうことよ! 『よるコン』ではCクラスだったはずよ!』
渡された書類の『Eクラス』という文字を睨みつけてからグシャッと握りしめた。担任だという男性教師は大きなわざとらしいため息を吐いた後これまたわざとらしい笑顔を作った。
『また己を知らぬ転校生か。Eクラスであることに納得がいかないのだろうな…。他校でならDクラスである者はみなこうなる』
男性教師はパレシャに関する書類をパラリと捲って目を通し驚愕で止まった。
『おいおいおい。南部学園でEクラスの中でも底辺じゃないか。こんなのよく転校を許したな。
ああ…他校と平均点を近づけるとか言ってたなぁ。
問題さえ起こさなければいいって生徒なのだろう』
男性教師の手元には遠の昔にパレシャに関する書類があったはずだが生徒一人一人に気を配るつもりがないため今日の今日まで目を通していなかった。
「とにかく明日から遅刻だけはしないように。Eクラスは出席に関してだけは非常に厳しいからね」
わざとらしい笑顔でわざとらしく優しい口調である。
「どうして?」
『おいおい。年上の教師に対して敬語も使えないのかよ』
Eクラスの生徒に慣れている男性教師はにこやかな顔は崩さない。
「社会のルールと集団のマナーなどを身につけるためだよ。決められた時間を守るというのはとても大切なルールの一つだからね」
「ふーん。でも休みたくなったらどうするの?」
「それでも学園へは来て、まず保健師に具合を見てもらい保健師の管理の元で休養はできるよ」
「げっ! 監獄みたい」
『Eクラスの生徒だけだよ、とは言わないがな』
男性教師は笑みを深めた。Eクラスは過保護な親を持つ者や低劣な行動をする子だと親から見られている者が多数である。
『パレシャ・ユノラドは…親の過保護生徒か。これは問題行動もこれからはありそうな生徒だな』
男性教師はパタンと資料を閉じる。
「では今日から君はわが校の生徒です。校風に恥じない行動をお願いしますね」
「はぁい」
パレシャはとっとと立ち去りその後ろ姿がいなくなると男性教師はどうしたものかと資料の背で自分の頭をポンポンと叩いた。
翌日パレシャは早速行動を開始した。
『私はなぜかCクラスになれなかったけど、会いたい人たちはCクラスにいるはずよ』
パレシャはランチを終えた後に二年Cクラスの後ろ扉から教室内をくまなく見ていく。
「あっれ?? おかしいなぁ。誰もいないわけないんだけどなぁ。アリサと友達になって攻略対象者の婚約者たちを蹴落とさなきゃならないのにぃ。
やばっ! もう時間だ。授業も遅刻はするなって言われてるんだった」
急いでEクラスに戻ろうと勢いよく半回転した。
ドッシーン!!!
「うわっ!」
「きゃあ!」
誰かにぶつかり二人は互いに尻もちをついた。
「いたたた」
衝撃で目を瞑っていたパレシャは男子生徒と思われる声の方を向いて目を開けた。
「かっこいい…」
「はあ??」
ミディアムな長さのビロードのような深い緑の髪は具合よくナチュラルでキリリと整った細い眉の下の黄色味の強い金色の瞳は怒っているのか少し釣り上げているが美形容姿は健在である。
『絶対絶対、ズバニールだよねっ!』
パレシャは手を胸の前に組んで羨望の眼差しをズバニールに向けるのでズバニールは尚更眉を寄せる。
「なんだ、おまえは?」
「わ、わたし、転校してきたばかりなんですけど、クラスの子にこのクラスにすっごいかっこいい人がいるって聞いて会ってみたくてっ!
それってきっと貴方のことですよね?」
ズバニールはキョトンとしたがパレシャが言っている意味を理解するとニヤリと笑いスマートに立ち上がりパンパンとズボンの汚れを叩いた。そして髪をかきあげる。
「まあ。おそらくそれは俺以外にはいないだろうな」
座ったままのパレシャはまるで神に祈るかのような瞳をズバニールに向けたままだ。
カーン……カーン……
「やっば、予鈴だ! 授業に遅刻しちゃう!」
この後鐘が三回鳴ったら教師が入室してくることは午前中の授業で学んだ。
身軽に立ち上がるとスカートを翻して走り出した。
「おいっ! また来てもいいぞ」
「はぁい!!」
振り向きもせずに手を振る後ろ姿を見ていると夜空色のツインテールが喜んで跳ねているようでズバニールは自然に笑顔になっていた。
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