第11話
「パレシャが倒れた洞窟がクマの巣穴かもしれないから他の者を連れて調査に行ってもらっているんだよ」
兄少男爵がパレシャの手を引いてパレシャを座らせながら説明し父親男爵が付け足す。
「父さんたちは村人から鉄鉱石について聞いていたところだ。森の猟師や樵に代わる代わるに来てもらったが村人たちは特に気にしていなくて気が付かなかったようだ」
「僕たちだって見た目ではわからないのですからここの村人にわかるはずもありませんよ」
『やったあ! 鉱山発見だぁ! これでお金持ちだわ』
「お母さん! 大きな街へ行ってドレス見ようよ! お隣の伯爵様の街ならきっとすごいドレスが買えるよ」
母親男爵夫人が困ったように笑った。
「パレシャ。それは無理だよ」
父親男爵が優しく諭すがパレシャは買い物を反対されたことに不満を隠さず唇を尖らせた。兄小男爵がパレシャの肩を抱き慰めながら父親男爵の話は続く。
「これが本当に鉄鋼石だったとしてまずは鉱夫を雇って採掘しなくてはならない。それを運ぶ手段も考えねば。それからこれの適正価格を調べてその適正価格で購入してくださる方を探さなくてはならない」
気が遠くなりそうな話にパレシャはゲンナリした。
『でも王都学園に転入できるくらいまでにはお金持ちになれるはずだわ。そうじゃなくちゃ話が始まらないもの』
気を取り直したパレシャは立ち上がる。
「わかったわ。じゃあ、ドレスが買えるようになったら教えてね」
「わかったよ。そうなるよう、頑張るよ」
「うん! お父さん! お兄ちゃん! 応援しているね」
パレシャは手を振って部屋から出ていった。
『まさか私が転んだおかげで金持ちになるなんてねっ。やっぱり私は王都学園へ行く運命なんだわ。
楽しみだなぁ。三人のうち誰を本命にしようかなぁ』
うっきうっきで階段を上がり 自分の充てがわれている部屋に戻るとノートを取り出して『夜空の星たちのコンチェルト』通称『よるコン』の設定を思い出してみることにしてそれをノートに綴っていった。
数日後屋敷に戻ると宣言通り父親男爵と兄小男爵はとても忙しそうでなかなか顔を合わせることも少なくなったが王都学園での物語が始まることが楽しみでしょうがないパレシャは『早く金持ちになってほしい』としか思っていなかった。
そして数ヵ月後、近隣領にある南部学園へと入学した。初めて会う同い年の貴族子女も多くパレシャは学園生活を大変に満喫していたがそれはあくまでも生活面であり学業面ではここでも最下位クラスであった。
長期休暇で実家に戻ってきたパレシャの成績を見て母親男爵夫人は首を傾げた。
「幼い頃は本当の才女だと思っていたけどパレシャちゃんは普通の子だったのね。もちろんそれでもパレシャちゃんは可愛いけど将来のことは考え直さなければならないわね」
パレシャを可愛がりすぎる家族はパレシャが優秀なら領地経営を任せて婿取りでもいいと考えていた。兄小男爵もそれなら自分は商売人になってもいいとまで言っていた。だが今のパレシャでは婿取りなどしたら優秀な婿に全てを奪われてしまう恐れがあるし無能な婿なら領地を潰されてしまう恐れがある。
「お婿さんの選定が難しくなるわね」
「え?! 私は婿なんて取らないよ。公爵夫人か侯爵夫人になるんだから」
「まあ! 学園でそのようなお話があるの? パレシャちゃんは可愛らしいから誰に見初められても不思議じゃないわ」
南部学園にも王都学園ほどでなくとも優秀クラスは存在しておりそこには公爵子女も侯爵子女もいる。
「違うわよ。私は王都学園に行って私の王子様を見つけるのよ」
「王都学園に行くにはお勉強が必要よ」
父親と兄の頑張りのお陰で男爵家はかなり裕福になってきており母親も金銭の問題で王都学園には通えないとは言わなくなっていた。
『前世の記憶があるんだからこの世界の勉強は簡単なのよ。私がその気になってやればすぐにでもできちゃうのよ』
自分で『私はやればできる子だ』と宣う者がそれをやった試しはないのだが、どうやら前世は女子高生だったパレシャにはそのような考えは浮かびもしない。
「大丈夫よ。どうにでもなるわ。お母さんも私が才女だったって知っているでしょう?」
「ええ。そうね。パレシャちゃんなら大丈夫よ」
母親はパレシャが本当に王都学園へ行くつもりであるとは考えておらず幼い子供の夢を応援するように笑顔で答えた。
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