第10話

 『夜空の星たちのコンチェルト』、通称『よるコン』。日本という世界で人気をはくした恋愛シュミレーションゲームである。


 ヒロインの男爵令嬢が家の成り上がりを経て有名貴族学園へ転校することになりその学園で恋をしていくゲームだ。ヒロインパレシャの艶めく藍色の髪を夜空、その恋愛対象を星として比喩しているだけあり映像が美しく大変に人気を博した。


「これってま、さ、にっ! 男爵家成り上がり前ってことよね! なら早く鉄鋼石鉱山探さなくちゃ! そうすれば早く王都学園に行けるじゃん。

えー、でもお父さんになんて言って探してもらえばいいのかなぁ??

前世を思い出したら領地に鉱山があるってことも思い出した? そんなこと言えないよぉ」


 成り上がるべくパレシャが必死に頭を回転させたが慣れないことしたため五分で眠ってしまっていた。


 朝になると宿の中がとても騒がしくなっていて目を覚ます。


「もうなんなのよぉ。ゆっくり寝させてよぉ」


 目を擦りながら廊下に出るとメイドが慌てて駆けつけた。


「パレシャお嬢様。ここはお屋敷ではございません。そのようなお姿で出てはいけませんわ」


 パレシャが自分の姿を確認すると寝間着であった。


「あ、うん、そうだね。着替えてくる」


 お姫様のように育てられたと言っても本当に高位貴族家のお姫様なわけではない。家の使用人は執事が一人とメイドが二人に調理人が一人。普段から自分のことは自分でやっている。


 手際よくワンピースに着替えて藍色の髪をツインテールに結び編み上げブーツを履いて部屋の外へ出た。


 宿の食堂へ向かうも慌ただしさを感じた。


 料理を運んできた宿の女将に聞く。


「ねえ。何があったの? お父さんたちはどこ?」


「よくわかりませんが別のお部屋を応接室代わりに使うとかでテーブルをいくつか運びましたよ。何でも宝物が見つかったとか」


 女将は忙しいようで早口で知っていることをしゃべるとすぐに厨房へ消えた。


「宝物ってなんだろう? 早く食べなくちゃ!」


 パレシャは貴族令嬢らしからぬ勢いで朝食を平らげると騒がしさの中心と思われる部屋に乗り込んだ。


 バンっ!! っと大きな音を立ててドアを開けると、部屋にいる者たちの視線が一斉にパレシャに向けられた。


「おお! パレシャ。目を覚ましたのかい?」


 父親男爵が嬉しそうに笑って気遣い、母親男爵夫人はすぐさま駆けつけてきた。


「パレシャ。昨日ぶつけてしまったところは大丈夫なの? どれ? 見せてごらん。

ああ、まだコブになっているわね。でも傷にはなっていないようだわ。本当によかった」


「パレシャ。父さんたちは少々難しい話をしているのだ。メイドを付かせるからお庭で遊んでいてくれるかい?」


「パレシャもお話を一緒に聞きたいです。宝物のお話なんでしょう?」


 パレシャは仲間外れにされそうになったことに不満を持ち頬を膨らませた。


「パレシャがつまらなくないのなら構わないよ」


 兄小男爵がパレシャを手招きしたのでパレシャは走ってそこへいき飛び跳ねるように隣に座った。

 兄小男爵はコブになっていないところを見定めて頭を撫でながらパレシャを気遣う言葉をかけた。


「お兄ちゃん、もう大丈夫よ。それより宝物を見せて」


 前のめりに聞くと兄小男爵は苦笑いして前を指さした。


「きっとこれのことだろうけどまだ宝物かどうかはわからないのだよ」


 父親男爵が説明したのがソファーテーブルに乗るこぶし大の茶色い石ことだったからパレシャは気が抜けてソファーに背を寄りかからせた。


「なあんだ。宝石か何かかと思っちゃった」


「あはは。だからお庭で遊んでおいでと言っただろう」


「でもこれのどこか宝物かもしれないの?」


「この石は貴女を護衛していた者が貴女が倒れていたところにあったというの。その護衛は民間の職業護衛でいろいろな街を転々としているのですって。それで他の領地でこれと似たような物を見たことがあるそうなのよ」


「似たようなものって?」


「その者が言うには鉄鉱石じゃないかというのだ」


「えーーー!!!!」


 パレシャが勢いよく立ち上がる。


「それなら絶対に鉄鉱石だよ! その人は今どこにいるの?」


 水色の瞳がキラキラと輝いていた。

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