第49話 招待状

 早く解決して欲しいとだけ思っていた僕が浅はかだったのか、後日しっかり巻き込まれることになった。まさかのデミアン本人から招待状が届いたのだ。

 招待の場所は王城のそばにある王家所有の森だった。僕は慌てて父さんに連絡する。同じものがライアンさんの元にも届いていたようで、騎士団と魔法師団は今大騒ぎらしい。僕はパーティーメンバーも一緒に王家所有の森へ向かった。

 

 着いて早々、呪い感知の魔法具がビンビン反応している。

「ちょっと、これヤバいわよ。今までの呪いとは格が違う」

 シュガーが嫌そうに首を振っている。

 沢山の騎士団員と魔法士団員がいる中、僕らは父さんとライアンさんを探した。

 程なくして見つけると、向こうもこちらに気づいたようで手招きされた。

「デミアンは精霊の契約者に用があるようだ。騎士と共にデミアンのところに行ってくれるか?」

 僕はシュガーを見る、シュガーが頷くので僕も頷いた。シュガーが格が違うと言った呪いをそのままにしておく訳にはいかない、シュガーの力も必要だろう。

 ライアンさんは僕に巻き込んでしまってすまないと頭を下げた。アリーも申し訳なさそうにしている。

「私は弱い精霊だから戦闘ではシュガーに勝てないわ。これだけの呪いを相手にするのは難しいの。協力してくれると嬉しいわ」

 アリーは精霊の中ではとても弱い部類らしい。それでも普通のファミリアに比べたら強いだろうが、強すぎる呪いの相手は厳しいようだ。

 

 僕達は騎士達と共に慎重に森に入った。

「空気が違うな。嫌な感じがする」

 アイヴァンが顔を顰めている。森は不思議なほど静かだった。

 呪いの最も濃い場所を目指して歩いていると、やがて開けた場所に着いた。

 

 そこには確実に百匹超えているだろう大量の魔物とデミアンがいた。これだけの数を使役するのにどれほどの生贄が必要だったのか、考えるだけで嫌な気分になる。

 

「ああ、来たかライアン!そしてもう一人の精霊の契約者。余計な者たちも居るようだが、一人で来られなかったのか?精霊の契約者も大した事ないな」

 デミアンがまるで舞台役者のように声を張り上げて言った。

「どうだライアン素晴らしいだろう。これが私の研究の成果だ。精霊など足元にも及ばない、彼らは私の素晴らしい『ファミリア』達だ!」

 何がファミリアだ、呪いで傀儡にした上に凶暴化させておいて白々しい。

「こんなことはもう辞めてくれ、兄さん」


「何が兄さんだ!私からすべてを奪っておいて、妻と娘まで殺したくせに!」

 妻と娘を殺した?なんの事だろう。ライアンさんも不思議そうにしている。

「私は誰も殺してなんていない。そんな命令をした覚えもない。一体なんの話だ?」

「うるさい、あいつらはお前の差し金だろう。ひとりが家の紋章を持っていた!私たちはただ平穏な暮らしをしていただけなのに!」

 全く話が見えない。デミアンは家を出た後は平穏に暮らしていたのか?それを誰かが殺した?

 

「全く話が分からない、兄さんの家族が誰かに殺されたのか?」

「しらばっくれるな!襲撃してきたヤツらが言っていた。お前の邪魔になりそうな不穏分子はすべて処理すると。私はお前から何かを奪う気などなかったのに!」

 多方一族の誰かが勝手に動いたのだろう。そして血筋の正当性が高い彼の娘を殺した。彼自身も本当は殺されるはずだったのでは無いか。

「私は必死に逃げたさ、いつかお前に復讐するために!とうとうその時が来たのだ!」

 デミアンは持っていた杖を振り下ろした。すると周囲で大人しくしていた魔物たちがこちらに向かってくる。こんな数さすがに捌ききれないぞ。騎士達も怯んでいる。

 

 その時だった。シュガーが僕の肩から降りると、ぐんぐん大きくなった。僕の背丈程の大きさになると、魔物達を突風で吹き飛ばす。

 魔物達は僕らに近づけなくなった。シュガーが張った風のシールドの裏から、僕達は魔物を攻撃した。こうなったらなるべく数を減らすしかない。

「僕は兄さんを追う!」

 ライアンさんとアリーが逃げたデミアンを追いかけた。

 僕達と騎士達は魔物が彼らの方に行かないようにヘイトを集めると、次々殲滅していく。

 ようやく全ての魔物を片付けた時、かなりの時間が経っていた。

 早くライアンさんを追わなければ。

 

 僕達がライアンさんの元に着いた時、決着はもうついていた。

 アリーの水の輪でデミアンが拘束されている。デミアンは気を失っているようだった。横には死んだドラゴンの幼体の姿があった。デミアンの切り札だったのかもしれない。

 僕達はライアンさんに声をかけることが出来なかった。彼は泣いていたのだ。

 しかし、彼は僕たちを見ると涙を拭ってお礼を言ってきた。

「おかげで兄さんを捕まえられたよ、協力感謝する」

 僕らは彼の涙を見なかったことにした。

 ライアンさんはデミアンの家族を殺した者を見つけ出すつもりのようだ。ライアンさんもデミアンも、周りさえ騒がなければいい兄弟でいられたのでは無いだろうか、そんな気がする。

 

 僕達は拘束したデミアンを連れて森を出た。

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