第48話 教会にて
バザー当日の朝、早めに教会に行くと子供達が突進してきた。子供達のブースは僕達のすぐ近くで、水場の傍にあった。ブースを水場の傍にした方がいいと言ったのは僕だった。綿あめは手がベタベタになるからね。
それぞれ開店の準備を始めていると、教会の門の前に人が集まってきたのが見えた。もうすぐ開始時間だ。僕はみんなと最後の確認をしてお客さんが来るのを待つ。最初は僕達よりも綿あめの方に人が押し寄せていたけど、いつの間にか逆転していた。
シュガー達も頑張って売るのを手伝ってくれている。シュガーはお客さんに商品を渡してくれる。ルークとキャロットは周辺警備。ティアとミミは受け取ったお金を整理してくれている。
なんでこんなに混んでいるんだと思っていたら。お客さんの言葉でその理由が判明した。精霊がお菓子を売っていると噂になっているらしかった。
ここは教会である。精霊は女神様の眷属だ。即ち信仰対象である。そりゃ売れるわ。年初めに精霊からお菓子を買うなんて縁起がいいだろう。シュガーは可愛い声でありがとうございますと言いながら、お客さんに風魔法で商品を渡す係だ。オフィーリアがこの配置にしたのはこのためだったらしい。単に可愛いからだと思ってたよ。まあ、シュガーが嫌がってないから良いんだけど。
そんなこんなで売れに売れたマドレーヌは、なんと午前中で完売してしまった。売上が凄いことになってる気がする。教会の人達が僕らを労ってお茶を入れてくれた。
午後からは綿あめ屋を少し手伝った。こっちはこっちで精霊の召喚者考案のお菓子と話題になっているようで、お客さんはいつまでも減らなかった。砂糖さえあれば作れるため、完売までは遠かった。こちらの売上も凄いことになるだろう。
みんなクタクタになりながら綿あめを作っている。やっとザラメが無くなった頃にはバザーの終わり際だった。完売すると、みんな手を叩いて喜んでいた。みんなまさか完売するとは思っていなかったらしく、ザラメが入っていた樽を見てこんなに砂糖を使ったのかと呆然としていた。大樽に詰まってたもんな、僕もビックリだよ。
ちょっとお高めの値段で売っていたから、売上が物凄いことになっていたらしく年長の子達の手が震えていた。突然大金を手にすると素直に喜べないよね、わかる。みんな将来に向けて有意義に使って欲しい。
ファミリア達も手伝いで疲れたようで、孤児院の隅っこでみんな丸くなっている。ティアの上で珍しくシュガーまで寝ていた。
後でご褒美のおやつをあげなくちゃな。
孤児院のみんなと一緒にお茶飲みながら休んでいると、マイク君がやって来た。マイク君は保護制度を受けたらしく、魔法師団の制服を着ていた。子供達はみんなマイク君に完売したと嬉しそうに報告する。どうやらマイク君は魔法師団に入団したことで子供達のヒーローになっているらしかった。孤児で高給取りな魔法師団に入れるのは大出世だもんな。国に縛られるというデメリットはあるけど、保護制度は有難い制度だ。孤児でファミリア召喚する子なんてほとんど居ないから、余計に際立つな。魔法師団で貴族からのイジメとか無ければいいけど。
マイク君はみんなと一通り話をすると僕の所にやってきた。
「レインさん、ありがとうございます。お陰で魔法師団に入団できました!」
マイク君はほぼ直角に頭を下げた。その件に関しては僕が何かした訳では無いから顔を上げて欲しい。ほかの子供達は空気を読んで僕達の傍から離れた。ジーナも姿を現して僕のそばに来る。でっかい蝶も慣れると可愛いな。
「無事入団できてよかったよ、イジメとかない?大丈夫?」
僕は一応聞いてみた。
「大丈夫です。僕の隊は保護制度組で構成されているので、遠目にイヤミを言われるくらいですよ。上司はみんな孤児だろうが偏見がないみたいなので、働きやすいです」
それなら良かった。僕が考えているより、平民を見下さないちゃんとしている貴族は多いのかもしれないな。
「あ、そうだレインさん、もうお父様から聞きましたか?例の犯人達のアジトの話」
「いや、何も聞いてないけど」
マイク君は少し声を潜めて言った。
「デミアンが居た痕跡があったらしいです。誰かと交わした手紙があったんですって。呪い探知の魔法具が開発されたから他に移ってもらうって内容だったみたいです。レインさんも魔法具の開発者ですから、犯人に恨みを買っている可能性がありますし注意しておいた方がいいですよ」
魔法具が完成するまですぐ近くにデミアンはいたんだな。敵は案外今も近くに居るのかもしれない。もう巻き込まれたくないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。