第47話 マドレーヌ
拠点に帰ると、すでにみんな揃っていた。来るのが早すぎて笑ってしまった。
「今回は一体どんな美味しいものを作るんだ?」
ルシアが期待した目で僕を見る。今日のレシピは女神様から貰ったものだと言うと、みんな目の色を変えて喜んだ。
みんなで厨房に行ってマドレーヌ作りを開始する。
レシピは意外と簡単で直ぐに焼きの工程に入ることが出来た。
「この型、また特注したの?貝殻みたいで可愛いね」
ウィレミナが型を見て笑う。一日で作ってもらったと言ったら、オフィーリアにいくら使ったんだと怒られた。お金に関してオフィーリアは厳しい。でも職人さんの努力には報酬を弾むべきだと思う。
型をオーブンに入れて十五分ほど焼き上げるといい香りがしてきた。
僕らはお茶を入れて焼きたてを食べることにする。
みんな美味しそうに頬張っていた。僕は口に入れた瞬間泣きたくなった。この味だ。僕はこの味が恋しかったんだ。僕は夢中で食べた。
「外側はサクッとしてるのに中はしっとりなんですね。型のせいでしょうか?」
オフィーリアが不思議そうにしていた。
「美味しい!味自体は素朴だけど、食感がとてもいいね」
ウィレミナも気に入ったようだ。
「これがあんな簡単に作れるのか、いいな。沢山作って土産に持って帰ってもいいか?」
僕もそのつもりだった。せっかくだから食べ終わったらお土産用にまた作ろう。
「これ、店で出しても売れそうだな。見た目も可愛いし」
ルシアが言うと、ウィレミナが手を叩いて言った。
「折角の女神様のレシピだし、年始のバザーで出店するのはどう?孤児院の子達も綿あめを売り出すだろうし、新しいお菓子が二つもあったら賑わうんじゃない?」
それは楽しそうだ。一回やってみたかったんだよな、ああいうの。
「みんなが嫌じゃないなら、やってみようか」
僕が言うと、どれだけの量用意するかなどの話し合いが始まった。お金の計算はすべてオフィーリアがやってくれたので物凄く話し合いがスムーズに進んだ。バザーなので諸経費を引いた売上は全て寄付になる。孤児院の子供達は売上がそのままお小遣いになるから別だけどね。
僕達は冒険で結構稼いでいるから、たまには慈善活動もしないとバチが当たるだろう。
お土産に沢山作ったマドレーヌを持って実家に帰ると、母さんがマドレーヌを気に入ってくれたようだった。年始のバザーに出店しようと思っている話をすると、母さんは教会のバザーのスタッフとして手伝いをする予定らしくて申し込みの仕方を教えてくれた。
その日から僕達は午前中に集まってはマドレーヌを焼いてラッピングして、時間停止の機能の付いたマジックバッグに入れていった。オフィーリアの助言により大量に作ることになったのだが、こんなに売れるんだろうか?
女神様のくれたレシピであることは、トラブルを避けるために隠すことにしたのにこんなにたくさん必要だとは思えなかった。
しかも何故か僕達の出店ブースは一番広い場所になっていて、行列ができても捌ける場所になっていた。僕は不思議に思いながらもオフィーリアの言うことだからと信用していた。
年が明けて、母さんがみんなお揃いのエプロンを用意してくれた。ファミリア用もある。
母さんは母さんを溺愛している父さんに働くことを禁止されているため、暇つぶしに裁縫をしていたら腕がプロ級になってしまったのである。エプロンはみんなピッタリだった。スライムであるティアにまで作れたのはすごいと思う。シュガーのエプロンは小さくて可愛かった。
僕達はバザー当日まで延々とマドレーヌを焼き続けた。みんなもうレシピが頭に入ってしまったようで、まるでプロのパティシエのような手捌きで生地を混ぜている。
最初の頃は多少の失敗があったりしたのに、今は機械のように正確に綺麗なマドレーヌが焼けていた。
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