第46話 囮捜査
やがて孤児院に私服の父さんがやってきた。犯人に怪しまれないようにわざわざ着替えて来てくれたらしい。神託の案件だから騎士団にとっては重要任務にあたるらしく、副団長である父が直接動いているようだ。
父さんはマイク君にまず提案した。
「君は保護制度を受けるつもりは無いか?」
保護制度とは、特殊なファミリアを召喚したものが受けられる制度だ。そのファミリアに見合った保護や保証が受けられる代わりに、国勤めになる。
「ジーナの幻影の能力は非常に有用だ。将来は、騎士団か魔法師団に所属することになるだろう」
マイクくんは驚いていた。元々衛兵になりたいと言っていたが、それより高待遇の騎士になれると言うのだ。断る理由なんてないと承諾していた。
ジーナは嬉しそうにマイクくんの周りを飛んでいる。
「それと今回の件だが、犯人の確保に協力して欲しい。君に危険が無いように最大限配慮するから、囮役になってくれないか」
父さんは申し訳なさそうに言った。こうして殺ファミリア(未遂)犯確保作戦が開始されたのである。
マイク君には危険が無いようにシュガーが見えないシールドを張ってくれるようだ。そのお陰で僕も騎士団の作戦を見学させてもらえることになった。女神ッションを貰ったのは僕だから、除け者にされると困るなと思っていたのでシュガーに感謝だ。
作戦は翌日に決行された。わざと隙を作って犯人にマイク君を攫ってもらい、アジトまで案内してもらう作戦だ。
午後になって、ようやく犯人は動きだした。五人の男達がマイク君を囲むと、薬のようなものを嗅がせて無理やり馬車に乗せる。
そのまま馬車を追いかけると、大きな廃墟のような建物に入っていった。
「あそこはベイル侯爵家の所有している建物のはずだ」
またその名前か。僕は父さんの言葉に頭を抱えた。
「犯罪者を匿っている証拠を掴めればいいんだがな、勝手に居座っていたと言われるのがオチだろう」
父さんは苦虫を噛み潰したような顔をしている。今までも似たようなことがあったんだろう。父さんが突入の合図を出すと、騎士達が一斉に建物の中に突入する。中にいた者達は全員確保され、マイク君も怪我することなく救出された。
「ねえ、この建物から微弱だけど呪いの気配がするわ」
シュガーの言葉に僕は持っていた呪い感知の魔法具を見る。反応は無かった。
「本当に少しなの、ずっと前にここに呪われた何かが居たんじゃないかしら?」
シュガーの言葉に父さん達も詳しく調べることにしたようだ。もしかしたらデミアンに繋がる何かがあるかもしれない。
僕はマイク君と一緒に一先ず孤児院に戻ることになった。孤児院に帰ると院長先生が涙ながらに迎えてくれた。犯人が捕まったと言うと安心した様子だった。
僕達は女神様に神託をくれたお礼を言うため教会に向かう。
女神様に祈りを捧げると、また僕の体は動かなくなった。
『よくやってくれました、レイン。これで尊いファミリアの命がひとつ救われました』
ありがとうございます。女神様。マイク君とジーナが助かって良かったです。
『報酬にレインの好きなマドレーヌのレシピを授けましょう。作ったら必ず私に祈るのですよ、いいですね』
僕は目を開けると歓喜した。頭の中にマドレーヌのレシピが浮かんできたのだ。前世の僕はマドレーヌが好きだった。でもこちらには似たようなお菓子がなくて、ずっと探していたんだ。
こうしちゃ居られない。僕はマイク君とジーナにお別れを言うと、走って前にたこ焼きプレートを作ってくれた職人さんの所に行く。そして大枚をはたいて最速でマドレーヌの型を作って欲しいとお願いした。職人さんは頑張ってくれて、僕に口を出されながら何とかマドレーヌの型を完成させてくれた。量産をお願いすると、明日の昼には間に合わせると言ってくれたので、明日を楽しみにする。
帰りにマドレーヌの材料を買って、拠点に置く。実家じゃないのは拠点の方が厨房が広く充実しているからだ。僕はみんなに明日の午後は拠点でお菓子を焼くと連絡した。用事がなければみんな来るだろう。僕は美味しい物はみんなで食べたい主義だ。
翌日昼に型を受け取りに行くと、職人さんが目を真っ赤にしてやりきった顔をしていた。そこにあったのは最初より滑らかな貝の形になった型の山だった。夜なべして作ってくれたらしい。僕は報酬を上乗せして型を受け取った。職人さんありがとう。
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