第44話 兄さんと飲み会
マルクモアに到着して二月もたった頃、ウォルト兄さんに飲みに誘われた。
ウィルトに兄さんはこちらでの任務にあたっていたが、そろそろ帰るらしい。
ギルドの近くのグローリアにおすすめされた居酒屋で二人顔を突合せていた。
「まずは礼を言わねばなるまい。お前が作った呪い感知の魔法具のおかげで任務が早く片付いた」
兄さんはそう言って笑う。任務とは森の異変調査であったらしい。
「今後は魔法具を使って、定期的にこの地の警備隊が巡回するだけで済むだろう。騎士団は負担が減って大助かりだよ」
「お役に立ててよかったです」
「まあ、技術者の連中は、お前があまりにも簡単に魔法具を作り出したから泣いていたそうだがな」
そんなこと言われても困る。それに簡単ではなかった。僕が微妙な顔をしていると兄さんは可笑しそうに笑った。
「父上はお前がまだ小さい時から、お前は天才だとよく言っていた。最愛の女性との子だから可愛がっているだけだと思っていたが、まさか本当だったとはな」
「父さんそんなこと言ってたんですか?」
それはダメだろう。正妻様が教育に厳しいのは父さんにも原因があるんじゃないだろうか。
「昔母からよく言われたよ、お前に負けるなと。実際会ってみると勝ち目などまるで無かったがな」
兄さんはまた可笑しそうに笑う。それで良く僕に対して友好的に振る舞えるな。初めて会った時のオーエンのようになるのが普通なのではないだろうか。
「私は結局兄のスペアだからな。昔から人と比べられるのには慣れている。優秀でいて兄の座を脅かさないように振る舞うのは結構大変だったんだぞ」
兄さんも苦労してきたらしい。有力貴族の次男坊ってやっぱり大変なんだな。
「私はお前が羨ましかったよ。父さんが語るお前はどこまでも自由で、毎日楽しそうだった。父に会う度お前の話をせがむ位には気に入っていたんだ。母が嫌がるから交流は出来なかったがな」
「やっぱり僕、正妻様に嫌われてます?」
兄さんは苦笑して頷いた。精霊を召喚してからは余計に嫌われているらしい。まあ、自分との子より愛人の子が優れているとなったらそうなるか。
「一番上の兄さんはどうなんですか?」
僕は怖いもの見たさで聞いてみる。
「まあ、良くは思ってないだろうな。でもお前に野心がないのは理解しているから、態度に出すようなことは無いはずだ」
そんなもんか、ちょっと安心した。僕には伯爵家を乗っとろうという気持ちなど微塵もないから勝手に敵認定されても困る。
兄さんは頼んだ料理をシュガーに分け与えて色々質問していた。精霊と話せる機会なんて滅多にないから、僕にとってはよく見る光景だ。
僕は兄さんのファミリアの火トカゲのマリーにお肉を分けてやる。膝の上に乗ってきたマリーは暖かかった。
「お前の冒険譚も聞かせてくれ」
僕は兄さんにこれまでの冒険の話をした。兄さんは目を輝かせて聞いてくれる。きっと元々は僕のように自由が好きな人なのだろう。
その日は遅くまで兄さんと語り合った。何度か常識を考えろと言われてしまったがご愛嬌である。
「そう言えば、ベイル侯爵家について教えて欲しいんですけど」
僕はこの機会に聞いてみることにした。派閥の事とかよく知らないからな。兄さんに聞いてみるのが一番いいだろう。
「まさかお前に接触しようとしてきたのか?」
兄さんが眉間に皺を寄せている。僕はこれまでの経緯を話した。
「そうか、ギルドから抗議が入ったならとりあえずは大丈夫だろう。流石にベイル侯爵もギルドは敵に回せないからな。しかしデミアンを支援しているのが侯爵となると厄介だな。呪い探知の魔法具の範囲外にデミアンを匿うくらい簡単にできる家だ。その気になれば騎士の巡回経路も簡単に手に入れられる」
それは探すのに骨が折れそうだな。
「現側妃のような学のないわがまま娘を無理やり側妃に出来るくらいの権力はあるからな」
やっぱりどうしようもない人なのか、側妃様。兄さんは額を押さえて言う。
「側妃には正妃様も陛下も苦労させられている。とんでもない事をやらかしそうで人前には決して出せない人だからな」
王族も大変なんだな。その後は兄さんの愚痴めいた話を聞き続ける事になった。貴族社会が如何に窮屈か分かって同情した。兄さんが自由に憧れるのも当然だ。
また会う約束をしてその日は別れた。次の約束が楽しみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。