第43話 ライアンさんと棒パン

 グローリアとの焼肉パーティーの次の日。案の定昼まで起きられなかった僕達は、ゆっくりと休息をとっていた。

 ファミリア達の酔っぱらいを介抱する様子も板に付いてきた。むしろ扱いが雑になってる様な気がする。呆れられたのだろう。

 

 グローリアの拠点で寛いでいると、訪問者がやって来た。

 なんとその訪問者はライアンさんだったのだ。

「ライアンさん、アリー、お久しぶりです。何かありましたか?」

「すまないね、アリーがここに君たちがいると言うから、寄らせてもらったんだ。聞いて欲しい話があってね」

 ライアンさんがすまなそうに言う。アリーならある程度の距離まで近づけばシュガーの場所が分かるのだろう。

「俺たち席を外しましょうか?」

 グローリアが言うが、ライアンさんは彼らにも聞いて欲しいという。

「話はデミアンのことなんだ」

 デミアンはライアンさんの腹違いの兄だ。森に呪われた魔物を放逐した罪で指名手配中だ。

「デミアンは、どこかの貴族がスポンサーになっている可能性がある」

 最悪の展開である。呪いには必ず生贄が必要だ。金のある貴族がバックに着いたら厄介だ。

 

「僕らは、ベイル侯爵家が怪しいと睨んでいるんだ」

 ベイル侯爵家?最近聞いた気がする。

「側妃の実家よ」

 シュガーが教えてくれた。そうだ、そんな名前だった。

「ベイル侯爵家は最近になって武装強化していてね。金で優秀な冒険者を引き抜いたりしてるんだ。グローリアにも接触があっただろう?」

 グローリアの面々はウンザリしたように頷いた。

「でも彼らが一番欲しているのは精霊の召喚者だ。レインくんにもきっと接触したがるだろう」

 迷惑極まりない話である。

「だから気をつけて欲しい。彼らの目的は未だ分からないが、何をしでかすか分からない連中だ」

 本当に厄介な事になってきたな。早くデミアンが捕まって欲しい。

 

 その日はライアンさんも一緒にグローリアの拠点に泊まっていくことになった。

 

 夕飯を一任された僕は、せっかくだから楽しい食事にしようと提案する。

 今日やるのは棒パンである。

 

 さて、棒パンとはなにか知らない人も多いだろう。それはキャンプファイヤーのような大きな炎でつくるものである。

 長い竹の先端にパン生地を巻き付け、コップのような形にする。

 それを手に持ちながら直火で焼くのである。少し炎から離してくるくる回しながら焼くのがコツである。誰がいちばん綺麗に焼けるかよく競ったものだった。

 そして焼けたら熱いうちに、パンの器の中に好きな具材を入れて食べるのだ。バターだけでも最高に美味しいものである。

 美味しいだけじゃなく楽しい、それが棒パンである。

 

 僕はパンの仕込みをした。パンの味で全てが決まると言っていいのだ、気は抜けない。シュガーもキッチンで僕を応援してくれていた。

 具材は肉から野菜から果物まで沢山用意した。カスタードクリームなんて我ながら上手くできたと思う。

 マヨネーズを作ってポテトサラダを作る。熱々のパンにポテトサラダも最高だ。

 そしてファミリア用に長い串に刺した肉と果物も用意した。炙って食べてもらおう。

 

 火の準備はグローリアにお願いした。

 大きな焚き火ができあがると歓声が上がった。マイムマイムでも踊りたくなってくる。そう思っていたらファミリアたちが火の周りをぐるぐる回っていた。はい、可愛い。

「早速焼こうぜ!」

 僕の料理は絶対に美味しいと信じているアイヴァンは、待ちきれないらしい。

 早速竹にパン生地を巻き付けて渡した。

「焦がさないように少し離して、じっくり焼いてね」

 

 みんなに渡すと火の周りに座って焼き始める。こののんびりした時間もまた堪らないのだ。

 シュガーとアリーは風魔法を駆使してファミリアたち全員分の串やパンを焼いていた。なんていい子達なんだろう。

 みんな真剣な表情で焼き色を確認している。

 

 そろそろいい感じかと軍手をはめた手で、熱々のパンを抜き取る。

 みんなも慎重に竹から外している。そして具材のところに群がった。

 僕は最初はバターだけだ。これが最高に美味しいのだ。シンプルイズベストである。

 シュガーも焼けたものをみんなに配ってあげていた。

 

 一口パンをかじると焼きたての香りが口いっぱいに広がる。なかなか上手く焼けたのではないだろうか。

「レイン、これ最高!」 

 みんな気に入ってくれたみたいだ。食べ終わると早速次を焼いていた。

 

 ファミリアたちも気に入ったようで、ミミは焼きリンゴを口いっぱいに頬張っている。

 ルークとキャロットは肉と少しだけパンも貰って美味しそうに食べていた。

 ティアとベアトリスはポテトサラダがいたく気に入ったようで、パンと一緒に食べていた。

 シュガーは初っ端からデザートパンを作っていた。口の周りをクリームだらけにして食べている。

 セスはローガンさんからローストビーフをたっぷり詰めたパンを貰って嬉しそうだ。

 

 みんな三つも焼く頃には完全にコツが掴めたようで、全体に綺麗な焼き色を付けられるようになっていた。そうなるとさらに美味しくなるのだ。

 女性陣はシュガーを見てデザートパンもいいと思ったらしく、たっぷりとクリームやフルーツを入れている。誰のがいちばん美味しそうか勝負していた。

 

 人より一足先に食べ終わったファミリア達は、火のそばでお昼寝タイムだ。

 シュガーがティアをクッション代わりに潰している。キャロットなど、野生をどこに忘れてきたと突っ込みたくなるような無防備さでヘソ天している。アリーとルークとミミは、セスの傍で普通に寄り添って寝ていて可愛らしい。

 クロとナナは止まり木で休んでいる。

「こんなのんびりした夕飯もいいな」

 グローリアは今日はお酒は控えて火の前で寛ぎだした。

「いつもこんなに楽しい事をしてるのかい?冒険者が羨ましいよ」

 ライアンさんはこんな食事は初めてだったようで、終始楽しそうだった。

 

「次はピザもいいな……」

「ピザってなに!?」

 ローガンさんに聞かれてしまったようだ。みんなじっとこちらを見てくる。……次はピザパーティーになりそうです。

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