第42話 貴族

 あの後僕たちは結局二十階層まで潜って戻ってきた。

 十五階層より下では助けを求める冒険者に遭遇することも無く、ただひたすら宝箱を探しながら罠を壊すだけだった。

 ファミリア達は罠を見つけるのが楽しそうだったので、ひたすらホッコリしたダンジョン攻略だった。

 

 僕たちは戦利品を売るために冒険者ギルドに戻った。数日ぶりの帰還だ。

 ギルドでは、併設された食堂でグローリアが食事をとっていた。よく会うな。

「よーインフィニティ。ダンジョンはどうだった?」

 戦利品を見せると当たりだなと言われた。どうやらかなりいい物ばかりのようだ。

「お前なら伝説級の剣とか手に入れてくると思ってたんだけどなー」

 ローガンさんはそう言うが、僕をなんだと思っているのか。

 宝箱を探すために自分から罠に掛かりに行った話をしたら大笑いされた。手に入れた剣を見てみんなカッコイイと大はしゃぎだ。

 

「グローリアはこの後依頼ですか?」

 そう問うと、なんだか苦虫を噛み潰したような顔をされた。

「貴族の護衛依頼なんだよ」

 話を聞くとどうやら貴族の子供の討伐デビューの護衛だそうだ。どう考えてもSランク冒険者にする依頼では無い。

 というか貴族なら自前の護衛がいるだろう。

 恐らく彼らを子飼いにしたいか、もしくは単に超がつくほど親バカかどっちかだろう。

「断れなかったんですか、それ」

「王家からの正式な依頼なんだよ」

 それは断れない。というか王家が、そんなギルドの反感を買いそうな依頼を出すだろうか。普通出さないだろう。全ギルドが敵に回るだけだ。

「依頼を出したのは二番目の側妃様だ」

 それで合点がいった。なんか正妃と派閥争いしてるらしい家の出身だと聞いていた。こんなことしている時点で勝ち目は無いと思うが。

 というか王にバレたら怒られるんじゃないか。勝手に王家の名前使ったんだろ。

 

「というわけでだ、レインに頼みがある。明後日また宴会しようぜ!」

 可哀想なので受けてやることにした。焼肉でいいかな。

 

 

 

 グローリアとの約束の日、肉を焼きながら依頼についての話を聞いていた。

「え?僕たちの事を聞かれたんですか?」

 焼いた肉を次々平らげながらローガンさんが言う。

「そうそう、インフィニティがどこにいるのか知らないかって、君たち王都のギルドの所属でしょ?ギルマスがはぐらかしてくれたんじゃないかな?もちろん僕たちも知らないって言っておいたよ」

 なんて有難い。まさか僕たちも標的だとは思わなかった。

「今ギルドから正式に王家に抗議してもらってるから、二度目は無いと思うけど、気をつけなよ?」

「ありがとうございます」

 僕は感謝の印に牙猪のいちばん美味しい部位を焼きにかかった。

 

「子供の方はどうだったんです?」

 興味本位なのか、ウィレミナが聞いた。

 その途端、グローリアのみんなは苦いものを噛んだ顔をした。

「最悪も最悪だよ、偉そうだし、俺らの事使用人だと思ってんのか意味分からんこと命令してくるし最低だ!」

 よほど最悪だったのだろう。悪口が出てくるわ出てくるわ……よくもまあここまで言われるな。

 

 ファミリアも思うところがあったのだろう、ベアトリスがティアに何かを訴えているし、クロもルークとキャロットに向かってなにか鳴いている。セスのことはミミが慰めていた。

「セスの扱いがいちばん酷かったみたいね」

 可哀想なものを見る目でシュガーが言う。

 ファミリアたちにも特上部位を焼いてやろうと決めた。

 血が滴るような新鮮な部位を表面だけ高火力で炙って焼いてやる。

 それを肉食組に出してやるとシッポをブンブン振って喜んだ。

 スライムたちには大好きな内臓である。

 焼肉の時は草食のミミだけ可哀想なので、リンゴを焼いて出してあげる。

 

「それでよく失脚しないですよね。側妃の派閥の貴族達」

 オフィーリアがウィレミナに聞いていた。

 ウィレミナは侯爵令嬢だから、こういう事には一番詳しい。

「側妃さまの実家のベイル侯爵家は王国南の大穀倉地帯を管理しているの。国への影響力が強すぎて、汚職でもしている決定的な証拠でもない限り裁けないんだよ。黒い噂も多いんだけどね、いつも証拠不十分で逃げられるの」

 なるほど、後ろ盾が大きいから勝手ができるのか。

 精霊の召喚者ということで僕たちも狙われているなら気をつけないと。

 

「ただ思うに側妃は、レインの他のパーティーメンバーのことは知らないんじゃないか?ただ精霊の召喚者のパーティーとしか思ってない気がするぞ」

 ルーカスさんがやけ食いしながら言ってくる。どういう事だろう。

「お前たちの身分、殆どが影響力の強い貴族子女だろ?侯爵令嬢だったり英雄の娘だったり、しかも側妃の派閥には属してない。いくら側妃でも慎重に扱わなきゃいけない奴ばっかりだ」

 なるほど、僕らのことを知らないか、相当馬鹿かってところだな。


「俺は側妃がバカに一票入れるけどな」

 アイヴァンが肉を焼きながら言った。

「そもそもレインの実家だって、王妃側の派閥の影響力のある伯爵家だろう。庶子だけど溺愛されてるってのは社交界の誰もが知ってる事だ。それにお前の兄弟だって王妃の子の側近だろ。その辺の冒険者と同じように扱っていい身分じゃない」

 アイヴァンの発言にグローリアが驚いている。そんなすごい家の庶子だとは思っていなかったらしい。

「私たちの家は全部王側の派閥だもんね。側妃がなにか命令したら角が立つじゃ済まないと思うよ」

 側妃は僕たちが王都に不在で命拾いしたってわけか。本当に何考えてるんだろうな側妃様。

 そんなに精霊を味方につけたかったのか。

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