第41話 兄登場
十四階層でオーエンたちを救助した後、僕達は一緒に休憩していた。
二度も助けたからか、オーエンは僕に対して当たりが柔らかくなった。雑談にも応じてくれる。元々悪い子ではないのだろう。
「前の時はなんで突然絡んできたんだ?」
僕がそう言うと、オーエンは気まずそうに言った。
「母上がお前には絶対負けるなといつも言うんだ」
だからマウント取ろうとしたのか、やっぱり正妻様には僕は嫌われているようだ。小さい頃からオーエンは僕と比べられていたのかもしれない。会ったことも無い兄と比べられるのは流石に可哀想だと思った。
雑談を続けると、オーエンは王子の学友として学園に通っていたことが判明した。未来の王の側近候補らしい。充分優秀じゃないか。
何だか打ち解けてきて、和気藹々と話していると、オーエンよりも立派な記章をつけた騎士の団体がこちらにやってきた。
「兄上!」
オーエンが叫ぶ。え?兄さん?どれが?
「外では副隊長と呼ぶようにと言ったはずだ」
どうやらオーエンとおなじ黒髪の男が兄さんらしい。確かによく似てる。
オーエンが叱られてショボンとしている。もうちょっと優しくしてあげないと、オーエンはガラスのハートなのだから。
「なぜ冒険者と共にいる?」
「罠にかかって動けなくなっていたところを助けてもらったのです」
オーエンがそのままを話す。怒られるだろうに、正直に話すのはいい事だ。
兄さんがこちらを向いて謝罪してくる。
「そうだったか、迷惑をかけて申し訳ない」
「いや、こっちは弟を助けるくらい迷惑でもなんでもないので……初めましてウォルト兄さん?レイン・ブロウです」
年齢的に正妻の次男のウォルト兄さんだろうとアタリをつけて挨拶してみる。
ウォルト兄さんは目を見開いて驚いていた。
「お前がレインか、なぜここに……いや、お前は冒険者だったか」
ウォルト兄さんは自己納得すると改めて挨拶してくれた。小隊の副隊長をしているらしい。噂通り優秀な人である。
そもそもオーエンの性格が若干歪んだのは上の兄二人と僕への劣等感からだと思うんだよな。この歳でこれほど落ち着いているのだから、さぞ褒め称えられたことだろう。
「弟が世話になったな。先日も絡まれたのだろう?なのに助けてくれて感謝する。コイツは先日の一件で父達に酷く叱責されていたから、許してやってくれ」
「いや、僕にとっても弟なんで……兄さんに感謝されても困ります」
どうやら兄さんなりにオーエンを心配していたようだ。
「お前は私のことも兄と呼ぶのだな、会ったこともないのに……兄さんと呼ばれるのは新鮮だ」
厳しいと聞く正妻様のことだから、弟達には早いうちから兄上もしくはお兄様と呼ばせていたのだろう。こっちはそんな呼び方をするような育ちでは無いので兄さんでいいと思っている。もし正妻様の前に出ることがあればちゃんとすればいいだろう。こっちは社会人経験のある転生者だ。その場に合わせた態度くらいはとれる。いつもはあえてやらないだけだ。
ところで同僚たちの前でこんな会話をさせているオーエンが、居たたまれなさそうにしているのだがいいのだろうか。視界の隅に見えるオーエンの様子が面白すぎて笑ってしまいそうだ。
「今度は酒でも共に飲もう。お前とは一度ゆっくり話してみたかった」
兄さんいい人だな。僕も一緒に飲んでみたいと思った。愛人の息子だからと接触は避けていたけど、他の兄弟とも少し話してみたくなった。
「さて、お前達は十五階層に着き次第、それより下の階の攻略を禁ずる。お前達の様子を見る限りこれ以上は無謀だろう」
やっぱり厳しい人でもあるんだろうな。オーエンは目をウルませて項垂れている。帰ったら補習とかあるのかな。
兄さんが僕を見てこっそりと言った。
「元々この研修は半数以上が脱落する想定で組まれている。オーエン達は優秀な方だ」
やっぱりか。騎士団も大変だな。
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