第32話 ミミ覚醒
今日は近場のダンジョン二十二階層、ジャングル風階層で紫毒蛇を大量に狩っていた。薬師からの指名依頼である。血も薬になるらしいので生け捕りか傷つけず倒すかだ、難しい分依頼料が高い。今回は魔法使い組が大活躍だ。感電させたり凍らせたりと大忙しである。
余談だが最近僕たち『インフィニティ』のことが依頼人の間で話題になっているらしい。傷つけずに獲物を捕らえたいなら僕達にという噂が出回っているそうで、指名依頼が増えてきた。
冒険者は信用が大事だ、信頼には応えなければならない。僕の雷魔法の精度はどんどん上がっていった。ウィレミナの氷魔法の精度もだ。
ちなみにキャロットも最近獲物をまるまる凍らせることを覚えた。ただ、消費魔力が大きいようで、乱発できないのが悩ましい。シュガーに魔力量を増やす方法はないかと相談していたらしい。結果、消費魔力を減らせるように特訓するしかないという事になったけど、うちの子たちはみんな勤勉である。きっと直ぐに克服するだろう。
そんなこんなで紫毒蛇狩りをしていた時。事故が起こった。
後方にいたミミが背後から忍び寄った紫毒蛇に噛まれてしまったのだ。それだけでは無い、毒蛇はミミの体に巻き付き、絞め殺そうとした。
僕達もすぐ動いたが、迂闊に攻撃すればミミにあたる。手をこまねいていたその時だった。
聞いたこともないような甲高い声が木霊して、毒蛇の周りに竜巻が出現した。竜巻の中には鎌鼬が仕込まれているようで、毒蛇の体が傷つけられていく。竜巻は徐々に大きくなり、そして突然霧散した。まさかミミがやったのか?
その場には、事切れた毒蛇と、血まみれになったミミがいた。ウィレミナが直ぐにミミに駆け寄る。その目には涙が滲んでいた。
「ティア、お願い助けて!」
ウィレミナがミミを抱き上げティアの元へ行く。ティアは即座に治療を開始した。傷は直ぐに塞がったが、ミミは目を覚まさなかった。
僕たちは急いでセーフゾーンまで戻った。ミミをクッションの上に寝かせる。
「気絶しているだけよ、大丈夫」
シュガーが泣いているウィレミナに体を擦り寄せて言う。
みんなで介抱していると、やがてミミが目を覚ました。一安心だ。ミミは自分の体を確認すると、不思議そうにその小さな翼を広げた。……小さな?ミミの翼はあんなに大きかっただろうか?
「あら、おめでとう。進化したのね!」
シュガーがなんでもない事のように言う。
「ちょっと待て、なんだ進化って!」
僕はシュガーを問い詰めた。進化とは、僕たちの言う突然変異種になった事をを指すらしい。
突然変異種とは、他の一般的な個体とは明らかに異なる特徴を持った個体のことである。野生の場合、発見されると即時討伐命令が下される。突然変異種は総じて元の個体より強いからだ。
ミミはその突然変異種になったらしい。
目の前でミミが空を飛ぶ、前は一メートル位の高さしか飛べなかったのに、今は五メートル位を軽々飛んでいる。飛ぶスピードも上がっているようだ。ミミはとても嬉しそうである。
「魔力量も上がっているみたいね。さすが私の弟子だわ」
ミミがシュガーに向かって礼をする。シュガーは前足でミミを撫でた。可愛い師弟である。
ウィレミナはミミを抱き上げると、泣きながらおめでとうと何度も言っていた。
キャロットがシュガーの所へ行く。どうやらどうやったら進化できるのか聞いているらしい。他の子も集まってきた。
どうやら進化はしようと思ってできるものでは無いらしく、シュガーは困っていた。何か強いきっかけが必要であるのは確からしい。
みんな向上心が高くてけっこうだが、無茶をしないか心配だ。
「何はともあれ、今日はお祝いだな!」
依頼人に頼まれた分はもう確保出来ているし、ちょっと早いがギルドに戻ってミミを祝おう。
帰りにはお祝いにミミの好きなドライフルーツを沢山買ってやった。ミミは大喜びで飛び回っている。羽うさぎが高く飛んでいるため人目を集めてしまっているが、仕方ない。ミミは飛ぶのが楽しいようで、僕らの頭の上をずっと旋回していた。ウィレミナは微笑ましげにミミを見ている。
初めて会った時、戦えないと泣いていたミミはもう居ない。ミミの努力が報われたのだ。きっと女神様がミミを見ていて下さったんだろう。そして力を授けて下さった。僕は女神様に感謝の祈りを捧げた。
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