第30話 ドラゴンの幼体
翌朝、目が覚めると僕は何故か花が舞い散る草原にいた。いやちょっと意味がわからない表現かもしれないけど、本当に空から花が降ってきてるんだ。何処だ、ここ。
シュガーは僕の隣でなにやら交信していた。あ、精霊の領域か。いつの間に連れてこられたんだろう。少し強い風が吹いて目を閉じるとと、景色がテントの中に戻った。そんなことも出来たんだな。
「悪い知らせよ、レイン。ここから北東の方角に、呪いに犯されたドラゴンの幼体がいるらしいわ」
あー、騎士に伝えないとな。ライアンさんに伝えてくれたら楽だったのに、どうして僕らに言うかな。
僕は身支度を整えると、父さんに事の次第を伝えに行った。
父さん達は途端緊張した顔になって、討伐の準備を始める。
僕がテントに戻ろうとした時、黒髪の同い年くらいの騎士にぶつかられた。
「調子にのるなよ」
僕が聞き返そうとした時、シュガーがその騎士の脳天に大きな氷の塊を落とした。その騎士の肩に乗っていた猿にも当たったのか痛そうにしている。
「ふんっ、やるならやり返される覚悟を持ちなさい」
シュガーは得意げにしている。この騒ぎに父さん達も気づいてこちらにやって来る。
「オーエン?何してるんだ?」
父さんの知り合いらしい。誰だ、コイツ。シュガーは映像で、先程あったことを父さんに見せ始めた。そんなことも出来るのか、さすが精霊。
騎士団長さんがオーエンという騎士を叱り始めた。見ず知らずの民間人に一方的に喧嘩ふっかけたんだもんな、当然だ。
「すまんな、あいつはオーエン。お前の弟だ」
ん?弟?あ、本妻の子か!僕はようやく思い出した。父さんの本妻が産んだ僕と同い年の弟が確かオーエンという名前だ。
日本人の耳で応援?と思ったので覚えている。僕、弟に絡まれたの?つまり本妻様が僕を疎ましく思ってるって事なんじゃ……いや深く考えない様にしよう。関わらないのが一番だ。そのオーエンくんは叱られながら未だに僕を睨んでいる。器用だな。
僕達は面倒なので急いでテントを片付けて冒険に向かうことにした。
ドラゴンの幼体を騎士団に任せて、僕らは本来の依頼を達成する。土熊狩りだ。僕らはいつもの様にルークに土熊の匂いを探ってもらってどんどん狩ってゆく。土熊の内臓はいい薬になると言う、毛皮も売れるので傷つけないように慎重に倒した。夕方になって広場に戻る。
広場には既に騎士達が戻っていた。
「ちょうど良かった、オフィーリア嬢とティアに怪我人の治療を頼みたい。ドラゴンの幼体は倒せたのだが、怪我人が多くてな」
父さんは今日、自身のファミリアであるドラゴンを連れてこなかったらしい。凶暴化したドラゴンの幼体相手に苦戦を強いられたようだ。幸い死者は出なかったが怪我人が多すぎて、連れてきた衛生兵だけでは手が足りなくなったらしい。
ある程度報酬を出すと言っているし、まあ、それくらいならとオフィーリアとティアは協力をしていた。ティアの治癒能力を見た魔法師団長はしきりにティアを褒めている。冒険者に治療されることを嫌がった騎士もいたのでそんな奴らは放置する。こちらは拒まれてまで治療をしてやる義理はない。
治療が落ち着くと、父さんはシュガーに質問をしてきた。
「この森に呪いをまいた犯人を、精霊様は見ていたのだろう?先程のシュガーの魔法の様に、その映像を私達に見せられないだろうか?」
確かに顔が分かった方が追いやすいだろう。シュガーは精霊に聞いてくると言って消えてしまった。すぐに戻ってきたシュガーは映像を見せる。そこにはドラゴンの卵を森に置く、白髪混じりの赤毛の男の姿があった。
その映像を見てライアンさんが声を上げる。
「兄さん!?」
僕らは驚いた。この男はライアンさんの兄なのか。
「ライアン、言いにくいだろうが答えてくれ。あの映像の男はお前の兄で間違いないのか?」
父さんの言葉にライアンさんは思い詰めたような顔で言う。
「はい、デミアン・ハヴィランド。二十年程前に家を出て行方不明になった、僕の腹違いの兄です」
父はそうか、と言うとライアンさんにテントに戻って休むことを提案する。酷い顔色だったからだ。
「ライアンは精霊のファミリアを召喚した事で実家の跡継ぎに選ばれたはずだ。その時元々家を継ぐはずだった長男が失踪したと聞いたことがある」
父さんが痛ましげにライアンさんの事情を語る。彼は精霊のファミリアを召喚してしまった事で悪い意味で人生が変わったのだろう。
アリーが落ち込んだ様子でライアンさんのいるテントを眺めていた。僕はアリーにかける言葉が見つからなかった。
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