第29話 魔法具完成
一ヶ月ほどかかって、やっと呪い感知の魔法具が完成した。呪いのサンプルが一つしか無かったため、多分これで大丈夫といった類いの物だけどそれでも状況は変わるだろう。
女神ッション達成である。
僕はこれでやっと冒険に行けると有頂天だった。魔法具を特許申請して、あとは国に任せる。そうすればすぐに犯人は捕まるだろう。
みんな魔法具の完成を喜んでくれて、早速冒険に行きたいという僕に付き合ってくれた。東の森へ土熊狩りだ。東の森は例の呪い事件から落ち着いてきた所らしい。前と少し分布は異なるが、魔物の生息地も安定してきたからBランクの僕達なら入っても大丈夫だそうだ。
呪いのせいで素材を入手できなかった各種職業の人達からの依頼が殺到していてかなりオイシイ狩場になっている。
僕達は乗合馬車に乗って東の森に向かった。土熊が居るのは少し森の奥になる。僕らはお金になりそうな獲物を狩りながら、冒険者ギルドと国が作った探索用中継地点、通称広場を目指す。そこにテントを張って一泊してから本命を狩りに向かうのだ。
夕方になる前には広場に到着できた。するとそこは奇妙なことになっていた。いつもは冒険者が散り散りになってテントを張っているのに。今回は固まっていた。しかもその横には大型のテントが幾つも並んでいる。あれは軍用テントだ。嫌な時に来たなと僕らは顔を顰めた。
「道理でおかしな場所から精霊の気配がする訳ね」
シュガーが言った。という事は精霊のファミリアを持つ魔法師団の人が来ているということだろう。会ってみたいけど騎士達と関わるのは嫌だ。そう思った時、後ろから声をかけられた。
「おや、レインじゃないか」
「……父さん」
父さんも来ていたのか、これで強制的に関わらざるを得なくなった。父さんの傍には目を見開いたおじさんが居る。彼は肩に猫を乗せていた。
「あれは猫じゃないわ。精霊よ」
シュガーの言葉にこちらも目を見開いた。
「そうか、初めて会うんだったか。この子はレイン、私の息子で精霊の召喚者だ。そして精霊のシュガー」
「私はライアン・ハヴィランドです。この子はアリー。会えて嬉しいです」
僕はライアンさんが差し出した手を取って握手をした。
「貴方が呪い感知の魔法具を開発してくれたおかげで私の仕事が格段に減って楽になりました。ありがとうございます」
ライアンさんは礼儀正しい人らしく、丁寧にお辞儀された。肩に乗っていたアリーが器用に飛び降りる。冷静に考えたら呪いの気配がわかるのが一人しかいないって大変なことだよな。僕が魔法具を開発していた間はライアンさんも大変だったんだろう。少しくたびれて見えるのもそのせいかもしれない。
僕らは促されるまま父さん達のテントの近くにテントを張った。
「待て、お前達それはなんだ?」
「虫除けとテント内温度調整用の魔法具です。近々アリシア商会から発売される予定です」
父さんに聞かれたので素直に答える。
「ではそっちのそれはなんだ?」
「折りたたみ式のテント型簡易トイレです。女性陣の為に作りました。近々アリシア商会から発売される予定です」
我ながらよくできた発明だと思う。女性陣からはものすごく好評だった。
「……では、それは?」
「折りたたみ式の調理器具とバケツです。嵩張らないので便利ですよ。近々アリシア商会から発売予定です」
父さん達は呆然としている。うちのパーティーメンバーは笑いを堪えられていないし、オフィーリアは何故かドヤ顔している。いや、やっぱり冒険は快適にしたいじゃないか。そのための労なら僕は惜しまないぞ。
「お前の息子は恐ろしいな。あのレトルト食品とやらもこの子の発明なんだろう?そりゃあ精霊にも好かれるわけだ」
父さんと一緒のテントの騎士団長さんがそう言うと、ライアンさんが微妙な顔をした。この分だと精霊がファミリアになる理由を知っているんだろう。ただの魂の修復と暇つぶしのためなんだけどな。
ライアンさんはこれまでも変に崇められて嫌な思いをしてきたのかもしれない。
「別にレインが天才だからファミリアになったわけじゃないわよ。レインだからファミリアになったの」
シュガーが絶妙に真実に触れない訂正を入れてくれる。でもなんか僕への期待値が余計に上がりそうだからやめてほしい。
乾いた笑いを浮かべる僕の足に、ミミが前足をかけた。そして僕を見つめてうなづいた。可愛い慰めをありがとう。ミミはいい子だな。
すると背後からキャロットがのしかかって来る。これはおやつを持っていることに気づかれたな。キャロットはどこまでも自由だ。
「そうだ、レイン。冒険中に妙な気配を感じたら教えてくれないか?」
その言葉に僕らは嫌な予感がした。
「ここだけの話、また森が少しおかしいんだ。私達はその調査に来ている」
父さんがこっそりという。僕の平穏な冒険者ライフは何処に……!
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