第26話 綿あめと孤児院

 次の日、寝不足の僕はみんなに綿あめ製造機をお披露目する。昨日の夜中に試しで何個か作って食べたので、正直もう甘いものは見たくないけど仕方がない。

 僕はスタンダードな白の綿あめをまず一つ作って見せた。

 製造機の端に乗って何故かシュガーが渾身のドヤ顔をキメている。

「おお!本当にシュガーみたいだな!」

 アイヴァンが出来上がった綿あめを見て歓声を上げる。

 みんな不思議そうに綿あめを見つめている。

「砂糖がこんなにふわふわになるなんて……!」

 ウィレミナはおっかなびっくり触ってみている。ミミは雲と綿あめをしきりに見比べていた。雲は甘くないぞ。

「これだけ安い原価で簡単にこんなに可愛いお菓子が……」

 オフィーリアは何やらブツブツ言っている。

 ルシアは億さず口に入れて驚いていた。

「凄いな、口の中で溶けるぞ!」

 僕はカラフルな綿あめをどんどん製造してゆく。

 緑色の綿あめをティアに乗せてあげると、なんだかアフロにしか見えなくて笑ってしまった。ティアは不思議そうにしている。

 シュガーは口の周りを物凄い色にしながら食べていた。色ごとに試食しなくても同じ味なんだけどな。キャンディーの様に味をつける研究もしてみようか。

 

「レイン!これ何台か孤児院に喜捨する気はない?」

 ウィレミナが僕を見て言った。孤児院か、確かに綿あめは楽しいし丁度いいかも。

「孤児院では子供達が定期的にバザーに出店するんだけど、これだけ安く作れて珍しくて可愛いお菓子なら、クッキーを作るよりもいいんじゃないかと思って!」

 確かに原価なら何よりも安く済むだろうし、極めれば前世の専門店のようにカラフルで可愛いものが作れるだろう。それならちょっとお高めの値段で売っても売れる。孤児たちの生活も潤うだろう。

「いいな、そうしようか。じゃあ、何台か作らないとな」

 

 僕達はそれから皆でわたあめ製造機を改良しながら何台か新しく作った。数日後には完成し孤児院に持って行くことができた。

「あら、ウィレミナ様。今日はご友人もご一緒ですか?以前は喜捨をありがとうございます」

 孤児院の院長先生は突然やってきた僕達にも和やかに接してくれた。

「今日は子供達のバザーに役立ちそうな物を喜捨しに来たんです。ちょっと実演してみてもいいですか?」

 院長先生は不思議そうに子供達を集めてくれた。


 子供達の前で綿あめを作ると、歓声が上がった。みんな目をキラキラさせて綿あめを見ている。

「これバザーで売れると思う人ー!」

 僕が言うと子供達から元気な返事が返ってきた。みんな美味しそうに綿あめを頬張っている。なんだかとてもいい事をした気分になった。

「本当にありがとうございます。こんな素晴らしいものを喜捨していただいて。次のバザーでは子供達と出店しようと思います」

 院長先生は本当に嬉しそうだ。僕は注意事項や作り方を年長の子供達に指導して、子供達だけでも作れるようにした。製造機の手入れの仕方も忘れずに教えておく。

 

 ふとシュガーを見ると、何やら綺麗な蝶と話をしていた。あれはグラスバタフライだ。なんて珍しい。誰かのファミリアだろうか。

「ジーナが姿を現すなんて珍しいですね。精霊様に挨拶しているのでしょうか」

 院長先生が蝶を見て驚いていた。蝶の名前はジーナと言うらしい。グラスバタフライは自在に姿を消すことが出来る。幻術が使えるんだ。だから野生でも中々見つからない。

「危ないですよね」

 僕は思わず言ってしまった。

「そうなのです。この孤児院にいる、衛兵を目指しているマイクという子のファミリアなのですが、あまりに珍しいので悪人に狙われないか心配で……」

 院長先生は心配のあまり、その子が成人しても衛兵の試験に合格するまで孤児院に居てもらっているのだと言う。普通成人してファミリア召喚を召喚したあたりで孤児院を出されるもんな。

 ファミリアを殺すのは大罪だ。なんと言っても女神様の眷属なのだから。神殺しと同等の罪だと言えばその重さが分かるだろう。だけどやはりどの世界にも神を恐れない輩は居るものだ。グラスバタフライの標本は高く売れる。そこに居ると分かれば狙われるだろう。

 僕は何事もなくその子が衛兵の試験に合格出来ることを祈った。衛兵になっても危険なのには変わりないだろうけど、少しは安心出来るだろう。

 

 僕達は次のバザーには様子を見に来る約束を子供達として孤児院を後にした。帰りに教会に寄って女神様にお祈りしよう。今回は神託があるだろうか、あるだろうな……心当たりがありすぎる。

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