第23話 呪い
気配の元に近づくほどに、空気が悪くなってゆく。
やっとたどり着いた時には、澱みが目に見えるほどになっていた。
そこにあったのは、巨大なキノコだった。全長五メートルはあるだろうか、開けた場所の真ん中に胞子を振りまきながら端座していた。
「これが原因よ」
シュガーが酸素ボンベを咥えながら器用に言った。
僕たちは目で合図し合うと、巨大キノコに近づいた。その途端、巨大キノコは自らの足で立ち上がり、大量の胞子を飛ばした。
あまりの量に周囲が見えなくなる。
風魔法で胞子を飛ばし見えるようにすると、巨大キノコは逃げ出そうとしていた。幸いなことに動きは早くなさそうだ。
僕たちは一斉に攻撃を仕掛ける。すると、あまりに呆気なくキノコは動かなくなってしまった。
「まさか化けキノコが原因だったとは」
ローガンさんが、酸素ボンベを口から外して言った。化けキノコは走るキノコの魔物だ。胞子で幻覚を見せてくるがものすごく弱い。この辺りには生息していないはずだ。
「呪いの気配がするわ……胞子に凶暴化の呪いが仕組まれてる」
シュガーが化けキノコを調べて言う。呪いとは他者を著しく害する魔法の総称だ。女神様が使用に制限をかけているため、大量の生贄を捧げないと使うことが出来ず、使うだけで厳罰に処される。
「なるほど、胞子を吸って凶暴化した魔物が暴れ回ったから縄張りが変わったのか」
ローガンさんは得心がいったようだった。
「サンプルを取って燃やすべきでしょうか。それとも全部持ち帰ります?」
聞いてみると、ローガンさん達が全て持ち帰るそうだ。これは僕たちの手には負えない案件だから当然だろう。
「シュガー、この森の精霊に、これを連れてきた人間の情報を聞きたいのですが出来ますか?」
「それじゃあ、またあの子の領域に連れていくわね。」
ジミーさんのお願いにシュガーは頷くと、僕たちを先導して歩き始めた。
しばらく歩くとまた景色が変わり、精霊の領域にたどり着いた。シュガーが精霊と話をしている。
「人間の中年の男だったそうよ。髪の色は白髪混じりの赤ですって。笑いながら森にマタンゴを放していたみたい」
愉快犯なのだろうか?何がしたいのかいまいちよく分からないな。他国が戦争でも仕掛けようとしてるのだろうか。何にせよ僕が考えることでは無いだろう。これは国の動く案件だ。
僕たちは精霊の領域を後にした。呪いにかかった森の魔物たちだが、精霊がゆっくり治していくそうだ。それも精霊の仕事の内らしい。
みんなで東の森を出ると、グローリアのメンバーが言った。
「さて今回の試験だが、みんな合格だ。Bランク昇格おめでとう!」
みんな両手を突き上げて喜んだ。ファミリアたちも飛び跳ねている。
これでSランクにまた一歩近づいた!
僕たちは昇格の喜びを噛み締めるのだった。
「祝いに焼肉パーティーしようぜ!」
アイヴァンが喜び勇んで言う。ルシアたちは不思議そうだ。
焼肉パーティーとはバーベキューのことだ。この国にバーベキューの文化は無い。僕がやりたかったから、父さんに頼んで色々な道具を特注してもらったのだ。
アイヴァンは一度体験したら虜になったらしく、よく要求してくるようになった。そう言えば最近は全くやってないな。
みんなに焼肉パーティーがどんなものか説明すると、やりたいという話になった。
「何それ楽しそう!俺達も混ざりたい!」
「良いですけど、お酒だけは持参してくださいね」
グローリアのメンバーまで参加することになった。試験官だしいいだろう。
明日が楽しみだ。
ギルドに帰ると、ギルドカードをBランクに更新した。
シンディーさんが我がことのように喜んでくれて、僕たちも嬉しかった。
そのあと応接室に呼ばれ、事の顛末を報告することになった。
ギルマスは終始険しい顔をしていた。まさかの人災だったのだから当然だ。犯人を見つけるまで全く安心できない。しかも呪いである。
「話はわかった。この話は国に報告する。お前たちも状況を聞かれることがあるかもしれないからその時は協力してやってくれ」
わかりましたと頷くと、ギルマスは唐突に話を変えた。
「でだ、試験官してみてどうだった?凄いだろ、こいつら」
「凄いなんてもんじゃなかったですよ。直ぐにAランクにもなれると思います」
グローリアの面々に褒められてみんな嬉しそうだ。
「特にファミリアが凄かったな、主人たちに似て規格外だ」
ファミリアたちも嬉しそうに飛び跳ねたり尻尾を振ったりしている。
「レインの魔法と魔法具は訳がわからなかったな」
それは褒められているんだろうか……?褒められていると思いたい。
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