第22話 森の奥へ

 森の奥にいるという生き物はどんな生き物なのかと聞いたら、わからないと返ってきた。

 どうやら、森に捨てられたあと、精霊の探索範囲外に行ってしまったらしい。

 捨てられた時はとても小さく、何かわからなかったそうだ。

 捨てた人間からはとても嫌な気配がしたのだという。

 僕たちはそれを聞くと、精霊の領域を後にした。

「精霊の探索範囲外っていうのが分からないから、シュガー案内してくれる?」

 シュガーは首肯すると前足で西の方を指さした。

「探索範囲は円形だから、あの精霊の範囲の外をゆっくり回りましょう」

 なかなか長丁場になりそうである。

「ねえ、シュガー、精霊が感じる嫌な感じって具体的になんなの」

「そうねぇ……色々あるけど、この場合は多分死の気配かしら。それもとびきり苦しんで死んだ命の気配」

 聞かなきゃ良かったと思った。なんだか嫌な予感がする。とびきり不穏なことに巻き込まれそうな、そんな予感。

 これから先は、後ろにいる彼らに任せた方がいいのでは無いだろうか。Cランク冒険者の手には余る気がする。

 

 

 

 しばらく進み、もうすぐ日が落ちるという頃。シュガーがなにかの気配をとらえた。

「見つけたわ、たぶんこれ」

 僕たちは今日は一度その場に拠点を作って休むことになった。

 みんなでテントを立てて夕食の準備をする。

「そうだ、これ知ってる?アリシア商会から発売された保存食でね、すぐ食べれる上に美味しいんだよ」

ローガンさんが楽しそうに言う。僕たちは顔を見合せてしまった。

「僕の発明を褒めてくださってありがとうございます」

「うちの商会の商品をご愛顧いただきありがとうございます」

 オフィーリアと一緒に礼をすると三人の目が点になっていた。

 まさか開発者と販売者が目の前にいるとは思わないよな。

 

「え、あ、は!?君が作ったの?」

 ローガンさんは面白い反応をしてくれた。

「はい、冒険者になるなら野営中の食事は改善しなければと思いまして」

 やろうと思ってできることじゃないだろうとジミーさんは驚いていた。

「それで君はアリシア商会のお嬢さんなの?いいの?冒険者なんてやってて」

「跡継ぎではありませんので……これでもパーティーでは一番身分が低いですし」

 そういうとローガンさんが過剰反応していた。うちはオフィーリア以外はみんな貴族の子息令嬢だといったら、何故か敬語になった。ローガンさんも貴族令息のはずである。貴族によほどのトラウマがあるんだな……

 

 

 

 次の日、早朝に起きてシュガーの示す方へ進むと、妙なことに気づく。

「ちょっとこの深さにしては強くないですか、魔物」

「僕らの手を借りずに倒しておいてそう言う?」

 ローガンさんが茶化すようにして笑った。彼らは試験官だから今まで手を出さずに僕たちに任せていたのだが、そろそろ助力が欲しいくらいになってきた。

「これ、もうBランクの強さでは無いように思います」

 息を切らしたアイヴァンが言う。それでも倒しているのだからたいしたものだ。

「そうだね、そろそろ僕たちも手伝うことにするよ。……本当はもっと早く手を貸すつもりだったんだけどね、君たちがあんまり頑張るからどこまで行けるか試してみたくなっちゃて。ごめんね」

 さすがにちょっとイラッとしてしまった。おちつけ、ローガンさんはそういう人だ。

 おかしな気配のする場所に近づけば近づくほど魔物が強くなってゆく。ここからは三人の手も借りて行くことにした。

 

 

 

「なんか、空気が悪くないか?」

 さらに奥に進むと、ジミーさんがそう言った。足元でポイズンスライムのベアトリスも飛び跳ねている。確かに空気がおかしい気がする。

「レイン、あれを使った方がいいわ」

 シュガーに言われてバッグから開発中の物を出す。試作品だけど持ってきてよかった。

 僕は棒状のタバコのような魔法具を取り出す。

「それはなんだい?」

 これは有り体に言えば酸素ボンベである。口に咥えるだけで何故か鼻呼吸までカバーしてくれる優れものだ。

「有害な空気を吸わなくてすむ魔法具です」

 酸素と言っても伝わらないので、なんだかとってもカッコ悪い説明になった。かっこいい名称を考えておかないと。

「君は凄いものばかり作るね」

 ローガンさんに真顔で言われてしまった。魔法具作りはただの趣味です。

 そして気づかないようにしていたが、オフィーリアがウットリした目でこちらを見ている。もう商品化後のことでも考えているのだろうか。

 全員、ファミリアもこれを咥える。スライムだけは要らないらしい。呼吸していないのだろうか。

 すると澄んだ空気が肺を満たした。しかし、冷静に考えたらこれ喋れないじゃないか。要改良である。

 僕たちはすぐそこに迫った気配の元へ近づいてゆくのだった。

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