第21話 東の森

 東の森へ向かうため、僕たちは馬車に揺られていた。

 今日は乗合馬車ではなく普通の馬車だ。ギルドが手配してくれた。

 馬車の中ではアイヴァンとルシアが、グローリアの面々に今までの冒険の話を聞いていた。

 ファミリアたちも、ルーカスさんのファミリアである二首鴉と、ジミーさんのファミリアであるポイズンスライムと話をしているようだった。気になったのでシュガーに聞いてみたら、こちらも冒険の話をしていたらしい。うちの子たちは皆真面目である。

 因みにローガンさんのファミリアはワイバーンなので、上空からこの馬車を追っているらしい。父さん程じゃないけどワイバーンがファミリアなんてかっこいい。

「え!?ファミリアに魔法石を持たせたら使える魔法の種類が増えるのか!?」

 ジミーさんが驚きの声を上げる。この話は僕達のせいで騎士界隈では有名になっていたんだけど、冒険者界隈ではまだ伝わっていなかったらしい。

「そうです、私のヒールスライムは水魔法も使えるようになりました」

 ティアがジミーさんのポイズンスライムに向かって胸を張っている。

「じゃあウチのベアトリスも毒以外の魔法が使えるようになるのかな?」

 父さんが教えてくれる騎士団での今までの統計だと、ポイズンスライムは水属性にも高い適性を持っているはずだ。可能性があるとすればあとは土か……

 

 話が途切れた時、ジミーさんのポイズンスライムがジミーさんに飛んできた。

「どうしたベアトリス!?」

 ベアトリスはジミーさんの指にハマっている魔法石の指輪を一つ奪うと、シュガーたちの元に飛んでいく。

 そして水魔法の訓練を始めた。

「そうよ、いい感じじゃない。素質あるわよ」

 シュガーに褒められながら、ベアトリスは水を放出する。出した水はシュガーが魔法で消してやっている。

 それを見てジミーさんは唖然としていた。

「本当に水魔法が使えるんだな」

 二首鴉のクロは、ルーカスさんの頭をつついてアピールしている。大剣使いである故に魔法石を持っていないルーカスさんは困り果てていた。見かねたジミーさんが予備の魔法石をクロに渡すと、喜んで飛んでいく。

 クロは暫く奮闘した末、目の前に炎の玉を出すとドヤ顔でルーカスさんを見ていた。

 馬車の中は拍手喝采である。

 

 ルーカスさんとジミーさんはこの任務が終わったら早速魔法石を買いに行く事にしたようだ。使える魔法が増えるに越したことは無いもんな。

 ベアトリスとクロは移動中ずっとシュガーに魔法を習っていた。

 クロはファミリア界では珍しい炎の使い手だから、シュガーの指導にも熱が入っていた。はっきり言って馬車の中で炎の練習をされると引火しそうで怖いんだけど、シュガーはその辺のケアもきちんとやってくれているらしい。炎が当たっても馬車には焦げ跡一つ付かなかった。

 

 そんな楽しい馬車旅の末、僕たちは東の森へと辿り着いた。

「気をつけろ、今は森の浅い所にも、強い魔物がいたりする」

 ローガンさんの注意で気を引き締めた僕らは、まず精霊の話を聞きに行く事にした。

「シュガー、案内をお願い」

「わかったわ。……ちょっと森の空気が妙だから、精霊に頼ったのは正解かもしれないわね」

 シュガーが珍しく真剣な表情でそう言った。この森で一体何が起こっているのだろう。

 

 シュガーについてしばらく歩くと前と同じように景色が変わった。背の高い木々が道を創り、そこを抜けると花畑と湖があった。精霊の領域だ。

 グローリアの面々は、初めての体験に感嘆の声を上げている。

 シュガーがしばらく無言で中空を見つめると、言った。

「この状況は人間が原因みたいね。誰かが、良からぬものをこの森の奥に持ち込んだの。それで、この森の生態系は壊れてしまった」

「良からぬものって?」

 僕はシュガーに聞いた。シュガーは暫く無言になると、眉をひそめた。

「何か良からぬ物を飲み込んだ生き物みたい。移動しているらしいわ」

「じゃあそれを倒せば、森は元に戻るの?」

 シュガーは首肯すると、僕の元に戻ってきた。

 これで僕たちの次の目標は決まった。森をおかしくしている化け物を倒して、森を元通りにすることだ。

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