第18話 氷の剣

 狩りをしていると、突然シュガーが頬を叩いてきた。

「ねえ、早くあっちに行った方がいいわ」

 シュガーの行動を訝しみながらも、シュガーの指す方向に行くと、冒険者が三十頭ほどの狼の群れに囲まれていた。

 昨日仲良くなった氷の剣のみんなである。氷の剣は何とかシールド魔法を使って攻撃を防いでいるが、そんなのがいつまでも続くわけない。

 僕たちは狼に向かってそれぞれ魔法を放った。

 すると狼の意識がこちらに移る。前と同じ戦法で、後方の狼を矢と魔法で足止めし、前衛が前方の狼に切りかかる。暫くそれを続けると、やがて狼の群れは逃げていった。

 僕らは慌てて氷の剣の元に駆け寄る。剣士のダレンさんが、腕を狼に噛まれたのか血塗れだったからだ。

「ティア、お願い」

 ティアはダレンさんに飛びつくと、傷の治療を始める。幸い傷はそこまで深くなかったようだ。あっという間に治療が終わった。あまりの速さにダレンさんは少し不思議そうに腕を確かめている。

「助かりました、もう魔力が限界だったので……」

 魔法使いのシンシアさんが青い顔をして礼を言った。そして魔力回復薬を一気飲みする。

「後輩に助けられるなんて情けないよ、でもありがとう」

 双剣使いのハロルドさんが申し訳なさそうに言った。まさかあんな数の群れに囲まれるなんてと疲れた顔をしていた。

「みなさん疲れているようだから、一度一緒にセーフゾーンに戻ろう」

 ウィレミナの提案に、リーダーのサラさんがお言葉に甘えさせてもらうよと同意する。冒険は助け合いだ。

 僕たちはみんなで十階層に戻った。

 

「あらためてありがとう。強いのね、あなた達」

 十階層にたどり着くと、サラさん達にお礼を言われた。

「シュガーが教えてくれたんです。お礼はシュガーに」

 そういうと、みんな驚いたような顔をしてシュガーを見る。

「その子、スゴいのね。喋れる魔物のファミリアなんて初めて見たわ」

 シュガーは魔物ではなく精霊なのだた言うとさらに驚いていた。シンシアさんなんてシュガーに向かって祈りを捧げている。

「精霊なんて初めて見たよ、実在するんだな」

 ハロルドさんがシュガーにお礼を言って笑っている。ハロルドさんはあまり信心深くないようだ。

 シンシアさんのファミリアのサバンナキャットも、シュガーに向かってみゃーと鳴いていた。

 

「しかしお前たちも強いがファミリアも強いな、俺もファミリアが欲しくなったよ」

 そう、氷の剣でファミリアを連れているのはシンシアさんだけなのだ。恐らくあまり裕福でない家の出なのだろう。

 実はファミリアは全員が召喚するものでは無い。完全に任意だ。だって考えても見てほしい、ファミリア召喚とは何が出るか分からないペットガチャのようなものなんだ。平民がドラゴンとか召喚したら餌代はどうなるんだという話である。

「今からでも遅くないと思いますよ。僕の母なんて二十超えてから召喚してますし」

 さりげなく召喚を進めてみる。ファミリアはいいものだ。それを知って欲しい。

「さっきの戦闘見てたら考えちゃうわね、スライムの治療も凄かったし」

「凄いなんてもんじゃないぞ完全に傷が塞がってるんだ!痕もほとんど残ってない!」

 ティアはオフィーリアの腕の中で誇らしげだ。他のみんなも褒められて嬉しいのか胸を張っている。

「それに何より可愛いわ。本当に召喚しちゃおうかしら」

 ファミリア沼にハマってくれたなら何よりである。氷の剣の皆さんは強いようだから、食費も十分稼げるだろう。

 

「そうだわ、助けてもらったお礼をしなきゃね。ギルドの近くに知り合いのやってる店があるの、良ければ夕食を奢らせてちょうだい」

 僕たちはその申し出を受けることにした。

 一緒に冒険者ギルドに戻って戦果を報告すると、シンディーさんに褒められた。新人でこんなに早く十階層までたどり着けた冒険者はほぼ居ないらしい。氷の剣皆さんは何度も潜っているから短時間で十階層まで行けるのだそうだ。やはり自動マッピング魔法具様々だ。ダンジョンで迷わないのは大きい。

 そして氷の剣の担当もシンディーさんだったらしく、仲良くなったと言ったら喜ばれた。今度合同依頼をお願いするかもしれないと言われてしまった。それもちょっと楽しそうだ。

 

 

 

 そして今は夕食タイムだ。

 連れてこられた店は半個室のある酒場といった感じで、雰囲気のいいところだった。彼らの友人の奥さんが料理上手らしく、料理がすごく美味しい。特に猪のトロトロ煮が最高だった。

 四人は最初シュガーの風魔法を使った食事風景に驚いていたが、直ぐに順応して、色々な料理をシュガーに勧めていた。シュガーが接待されているようでちょっと面白かったのは内緒だ。

 

 皆で今までの冒険の話で盛り上がる。彼らは他のダンジョンにも行ったことがあるらしい。有用な話を沢山聞くことが出来た。

 一番盛りあがったのは戦える羽うさぎであるミミの話だったかもしれない。四人とも羽うさぎでも足手纏いにならないと知って、本気でファミリア召喚を検討していた。ハロルドさんなんて明日早速行ってくると言っていたが、本気だろうか。

 なんにせよ、ファミリアを可愛がる人が増えるのなら嬉しい限りだ。次に会った時、氷の剣のメンバーが何匹か増えているかもしれない。

 

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