第16話 ローストビーフとダンジョン

「そろそろダンジョンに行ってみないか?」

 きっかけはアイヴァンの言葉だった。

 ダンジョンとは別名『女神の遊び場』と呼ばれる空間だ。中には魔物がいるんだけど、普通の魔物とは違う。ダンジョンの魔物は繁殖せず、どこからか湧き出る。それでも倒したら死体が残るのでとても不思議な空間だと言われている。どんな学者もダンジョンの謎を解明することは出来ていない。

 中には宝箱や罠が仕掛けてある事もあるし、定期的に道が変わるダンジョンもあったりする。


 アイヴァンは僕の作ったローストビーフ丼を食べながら、そろそろ俺たちにもダンジョンの入場許可が下りると思うんだ、と言っていた。食べるか喋るかどっちかにしてくれ。

 ちなみにローストビーフは僕が食べたくて、食材の殺菌の魔法具を必死の思いで開発した。これのお陰で生卵も食べられるようになった。案の定オフィーリアに目をつけられ商品化することになったんだけど、完成までに何度お腹を壊したことか……

 ファミリアたちにもローストビーフは大人気で草食のミミ以外は喜んで食べている。

「確かに、もうCランクになって数ヶ月経ちますし、そろそろ大丈夫ですよね」

 オフィーリアが指折り数えている。僕たちはこの数ヶ月ひたすら近場で冒険をしていた。拠点も整備したかったし、このメンバーでの戦闘方法を確立したかった。あと何より、僕の作ったレトルト食品等の商品化に追われていたんだ。

 オフィーリアの実家のアリシア商会は実に行動が迅速だった。契約を結ぶや否やものすごい勢いで商品化まで持っていったんだ。お陰で来月にはフリーズドライスープが発売される。再来月にはレトルト食品が発売されるそうだ。凄すぎる。

 

 話は変わってダンジョンだけど、入るにはギルドの許可が必要だ。素行の悪い冒険者には許可が下りない。そして完全予約制だ。そんな場所だから、Cランクに上がって少ししてからじゃないと入れないんだ。

 僕達は素行も強さも問題ないし、そろそろ許可が下りるだろう。明日シンディーさんに聞いてみよう。

 

「そういえば、いつかダンジョンに行く時のために魔法具作ったな」

 僕のつぶやきをオフィーリアは聞いていた。目を輝かせて問い詰めてくる。

 僕は残りのローストビーフ丼を掻き込むと、部屋に魔法具を取りに行った。

 

「これこれ、自動マッピング魔法具」

 オフィーリアに見せると、ただの板にしか見えないそれを不思議そうに見つめている。僕は板に紙を挟むと、廊下を走って戻ってくる。

 すると走った動きに合わせて紙に線が浮かび上がった。これは自分の通った場所を方角を間違うことなく記録してくれるんだ。

 ダンジョン内で迷子になるのを防ぐために、みんな自分でマップを作りながら移動するんだけど、その手間を省くことが出来る。

「またなんてものを作ってくれたんですか、レイン!」

 オフィーリアが震えながら言う。

「これは売れます、絶対売れますよ!商品化しましょう!」

 また商品化されるものが増えてしまった。アリシア商会は冒険者向けの商品を扱っている商会だから、余計にこういうものは欲しいんだろう。作っておいてよかった。

 

 その時脚に何かモフっとしたものが触れたので見てみると、キャロットがお皿を口に咥えて僕の脚に頬擦りしていた。はいはい、ローストビーフおかわりね。デブ猫になっても知らないぞ。

「あ、ずるいキャロット、私もおかわり!」

「俺も!」

 ルシアとアイヴァンが僕にお皿を差し出してくる。

 シュガーは自分でキッチンからローストビーフ増量の丼を作って持ってきていた。ルークも物欲しそうな顔で僕を見ている。

 みんなしょうがないな。

 ウィレミナはそんな僕を見てクスクス笑っていた。ウィレミナにはデザートを持ってきてあげよう。

 僕はお盆に皿を乗せてキッチンに向かった。

 

 おかわりを用意してもどるとオフィーリアが、魔法具を持って商品化のためにちょっと実家に帰ってきますと駆け出そうとしていた。待って、今は夜だから、一緒に行くから待って!

 慌てふためく僕をみてアイヴァンが笑ったので、僕は洗い物は任せたと言って、オフィーリアを追いかけた。

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