第13話 レインの発明

 シュガーの後に続いて精霊の領域入ると、明らかに花が増えていた。僕達を歓迎してくれているようだ。

 精霊はこの空間の中を自由にカスタマイズできるのかな。

 シュガーが精霊に報告すると、森の中は魔物がいて危ないから泊まっていけと言っていたらしい。僕達はその言葉に甘えることにした。

 

「まさか精霊の幻の中で夜を明かす事になるとは……」

 ルシアが感動している。確かに精霊の召喚者でもない限りできない経験だろう。シュガーは楽しそうに精霊と話をしているようだ。

 

 僕達は花畑の中にぽっかり空いた空間にテントを張った。

「では、早速夕食を作りたいと思います」

 僕はバッグの中から鍋を二つ取り出すと、両方でお湯を沸かし始めた。そして片方のお湯に袋を人数分投入する。これは僕が開発したレトルト食品もどきである。真空パックの魔法自体は簡単だったのだが、外袋の開発にかなりの時間をかけてしまった。努力の甲斐あっていい感じに仕上がったと思う。

 そしてもうひとつの鍋に四角いキューブを人数分投入する。そうすると直ぐに美味しそうなスープの匂いがした。フリーズドライのスープの素である。これは魔法で水分を極限まで抜くだけなので簡単であった。

 皆は無言で調理風景をじっと見ていた。先に沈黙を破ったのは誰だったか、突然大騒ぎを始める。

「ちょっとレイン!これ何!?どういうことなの!?」

 僕は得意になって料理について説明した。

「ありえない……こんなに早く具だくさんのスープが……しかも温めるだけで食べられる持ち運べる料理だなんて」

 驚愕するオフィーリアにさらに僕は追い打ちをかける。僕は鍋に入れる前のフリーズドライスープのキューブをオフィーリアに持たせた。

「軽い!?なんですかこの軽さ、一体どうして……?」

 極限まで水分を抜いてあるから重さはほぼ無いんだ。荷物の多い冒険者には有難い代物だろう。

 オフィーリアは震えながら料理を眺めると、突然決心したような顔になって言った。

「レイン!これを作る魔法紋、特許申請して下さい!そして家の商会で製造させて!」

「いいよ!今ならレシピもつけよう!」

 計画通りである。実はこの展開を狙っていた。前の銃魔法の時のオフィーリアの反応をみて、こう来ると確信していたのだ。これで僕は不労所得を得ることが出来るだろう。オフィーリアの父とも色々交渉しなくては。


「さて、早速味見してみてよ」

 僕は皿に温めたおかずとスープを注ぐと持ってきていたパンと一緒に皆にすすめた。ちなみにおかずは鳥の照り焼きもどきである。

「なんか俺が知ってる頃より美味くなってる気がする」

 アイヴァンは僕の実験を昔からよく見ていた。そして味見をよく手伝わせていたのである。あの頃はまだ未完成だったから、酷いハズレの品があったりしたものだった。

 

 

 

「あー、お腹いっぱいだ!」

 あの後みんなが食べたがるので、多めに持ってきていた他の食料もギリギリまで提供した。

 冒険においてここまで気を抜いてドカ食いするのはいいことでは無いけど、精霊の領域内なので大丈夫だろう。

「お父さんと野営した時は水みたいなスープと干し肉と硬いパンだったからな……これを知ってしまったらもうあの頃には戻れないぞ」

 ルシアがキャロットにもたれ掛かりながら言う。

「戻ったらさっそく商品化の話し合いを始めましょうね!」

 オフィーリアが目をキラキラさせながら見つめてくる。オフィーリアの目には僕の向こうに金塊が見えているのだろうが、あまり見つめられるとドキドキするからやめて欲しい。

 

 

 

「そういえば、キャロットにあげようと思っていたものがあったんだ」

 僕は荷物から小さな瓶を取り出すと、ルシアの目を見て言った。

「キャロットに?何だ?」

 僕は前世で猫を飼っていたことがあった。その為、手作りの猫用おやつを作れるんだ。スプーンにすくってキャロットに舐めてみるように言う。するとキャロットは目を大きく見開いて、夢中になって舐め始めた。猫飼いにはおなじみのチュールもどきである。これを食べている猫とはどうしてこうも可愛いのだろうか。

「すごい食い付きだな!何が入ってるんだ?」

「チーズとか、鶏肉とかだよ……レシピあげるね」

 キャロットにおやつをあげていると、他のファミリアが羨ましそうにこちらを見ていることに気がついた。

 うん、皆のおやつもなんとか考えよう……

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