第12話 毒沼

 シュガーが精霊との交信を終えると、なんとも微妙な顔をして言った。

「わかったわ、何でもこの森の一番大きな湖で、毒蛙が大量繁殖しているらしいの。精霊は実体が無いと、生き物に直接影響を与えられないから、生態系破壊が進むことを懸念しているみたい。毒蛙を一掃して欲しいとの事よ」

 蛙と聞いてルシアとウィレミナが悲愴な顔をしていた。苦手なんだろう。

「今回は女神様からの依頼だからあたしも協力するけど、どうしようかしらね。あんまり大量だと面倒だわ」

 シュガーの言葉に僕達はとりあえず現場を見てみることにした。

 精霊の領域を通って現場まで行く。精霊が感謝しているのか、湖に繋げてくれた道は花が咲き誇り先程の場所よりも煌びやかだった。

 

 暫くして精霊の道を抜けると、僕達は絶句した。これは湖では無い、沼だ。紫色のヘドロのような水と紫色の毒蛙で湖は埋め尽くされていた。ウィレミナとルシアは涙目である。

「いやこれマジでどうすんの?」

 僕は思わず呟いた。シュガーも困っているようだ。

「作戦は任せるわ」

 と僕に一任してくる。こういう時こそ精霊様のパワーで何とかならないんだろうか。

「湖ごと吹っ飛ばすだけならできるわ」

 精霊様は強すぎるらしい。どうやらシュガーは細かい作業は苦手なようだ。僕はとりあえず敵の動きを止めるのが先だろうと考えた。

「雷を落として気絶させてから殲滅するのはどうだろう」

 どうせこの有様なら元々湖に住んでいた生物達は残っていないだろう。特大の雷を落としても大丈夫なはずだ。

 僕の言葉にウィレミナはオフィーリアの後ろに隠れながら言った。

「レインは雷魔法も使えるの?難しい魔法なのに」

 雷魔法はむしろ僕の得意分野だった。前世の記憶から雷の原理を知っているからだろう。強力な雷を落とすことが出来る。

 僕は魔法石の指輪を構えた。広い湖だ、最大の力が必要だろう。

 集中して湖全体に雷の落ちるイメージをする。魔法を放つと耳を劈くような轟音が響きわたった。毒蛙達が逆さまになって水面に浮いてきた。気持ち悪!

 

「よし、とどめを刺して回ろう」

 みんなとてもとても嫌そうだ。ファミリア達まで一歩下がっている。

 シュガーがこれならなんとかるわと言って魔法を使った。原理が全く分からない光の網で毒蛙を掬うと、炎の魔法で焼失させる。よく水分量が多そうな蛙を簡単に焼き払えるな。シュガーが僕の成長のために戦闘を手伝わないと言った意味がわかった気がする。

「卵とか産んでないよな」

 アイヴァンが毒沼を覗き込んで言った。その可能性もあるのか、卵も処分しきらなければ、ミッションを達成したことにはならないだろう。

 僕は勿体ないと思いつつも、冒険者御用達の水を浄化する魔法具のスイッチを入れて湖に投げ込んだ。見ていたみんなも同じようにする。毒をとりあえず浄化しないと話にならない。不法投棄のようになってしまうけど毒沼のままよりははるかにマシだろう。

 湖の浄化が済むまでの間、僕らは周囲に出かけて居た毒蛙達を探して次々に狩った。その度にシュガーが燃やしてくれる。

 ミミは修行の成果を発揮しようと、次々に蛙に風の刃を当てていた。キャロットは爪が毒蛙に触れるのは嫌なんだろう。氷の魔法でひたすら蛙を凍らせていた。ルークも毒を避けるためか影で蛙を縫い止めて、トドメは僕らに任せていた。

 前衛であるルシアとアイヴァンも毒をくらうのは流石にと、簡単な魔法で援護しつつ、トドメは魔法使い組に任せていた。

 蛙がとても苦手らしいウィレミナが、視覚の暴力で可哀想な事になっていたのでオフィーリアとほとんど二人で蛙を殲滅した。

 

 シュガー曰く近くに毒蛙の気配が無くなったそうなので、これで殲滅は完了だろう。あとは卵問題だ。

 戦っているうちに魔法具が効いてきて、元の美しさを取り戻しつつある湖を僕達は覗き込む。所々に丸い透明な卵が見えた。

 これは本当にどうしようか。何の作戦も思いつかないぞ。

「しょうがないわね、これも掬って燃やしましょう」

 シュガーがさっきの光の網を細かくした物で湖の底から卵を掬ってゆく。所々に冒険者が落としたと見られるアイテムが混ざっていた。何だか骸骨のようなものまで見えた気がするけど、気にしない。ここは歴史ある湖なんだ。そんな事もある。

 卵の殲滅はシュガーに任せて、僕達は少し休憩をとる事にした。ウィレミナが戦闘に参加できなかった事に反省したのか、僕とオフィーリアに自身の魔力を分けてくれる。僕とオフィーリアの魔力をいっぱいまで補充しても、まだ戦えるだけの魔力が残っているのだからウィレミナの魔力量は本当に規格外だ。

 

 寛いでいると、しばらくしてシュガーは言った。

「卵の殲滅が完了したわ。ついでにゴミも始末しておいたからミッションクリアでいいんじゃないかしら」

 僕達は喜んだ。念の為数日ここに野営して、狩りをしながら様子を見ることにする。

 ひとまず精霊に報告しようと、またシュガーについて行く事になった。

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