第11話 女神様との邂逅

 教会へは僕は年に一度来るか来ないかだった。元日本人な僕はあまり神に祈るという習慣がなかった。特別な時だけ来る感じだった。

 久しぶりに見る教会は相変わらず綺麗に掃除され、清潔感に溢れていた。

 

 僕達は席に座って祈りを捧げた。すると、誰かが僕を呼ぶ声がした。体がまるでなにかに押さえつけられているかのように動かなくなる。

『レイン、レイン頼みがあります。シュガーと共に西の森に行くのです。そこに困っている精霊がいます。助けてあげてください。成功した暁には知りたがっていた米の入手方法を教えましょう』

 米!この声はまさか女神様か。確かに昔新年の祈りの時に、女神様に米の場所を教えてくれと祈ったことがあった。まさかミッションと引き換えに教えてくれるとは!女神様、そのミッション引き受けます!だから米の入手方法を教えてください、絶対ですよ!

 僕は大興奮で女神様に返事をした。女神様が頼みましたよと言うと、僕の拘束は解けて動けるようになった。

 

 目を開けると、みんな興味津々な目で僕を見ていた。何事!?

「シュガーがレインは神託を受け取ってる最中だって言うからさ」

 アイヴァンが隣で好奇心に満ちた目をしている。

「女神様は何て仰ったんだ?」

 ルシアが目を輝かせて身を乗り出してくる。

 僕は西の森に行って困っている精霊を助けて欲しいと言われたと説明する。

「凄いですね!女神様からお願いされるなんて!私達もお手伝いしますよ」

 オフィーリアは両手の拳を握りしめて気合を入れている。

「西の森の奥なら野営の準備が必要だね!早速買いに行こう!」

 ウィレミナも乗り気のようで何が必要か指折り考えている。

 みんな当たり前のように手伝ってくれるんだなと嬉しくなった。

 女神様からのミッション、略して女神ッション頑張ろう。米のために!

 

 

 

 僕達は帰り際、孤児院に寄ると喜捨をして買い物に出かけた。

 西の森には早い方がいいだろうと明日行くことになった。随分慌ただしいけど仕方ない。僕達は急いで野営に必要なものを買い揃えた。

「食事はどうする?今から買っておくか、明日の朝揃えるか」

 ルシアの言葉にアイヴァンが首を横に振る。

「食事に関してはレインに一任した方がいい。今までの野営の常識が覆るぞ」

 僕は小さい時から将来冒険者になった時のための便利グッズを多数開発してきた。特に食には拘った。だって泊まりの時の冒険者の食事は基本的に干し肉や日持ちのするパン。要するに美味しくないんだ。元日本人としては文句のひとつも言いたくなるだろう。だから頑張って開発した。試食に散々付き合わされたアイヴァンはそれを知っている。

 皆は不思議そうな顔をしているが、ようやく努力の成果が日の目を見るんだ。楽しみにしていて欲しい。

 

 

 

 次の日、僕達は朝から乗合馬車で西の森に向かった。馬車に軽量化の魔法が施してあるからとても早かった。だけど正直めちゃくちゃ揺れて怖かった。軽くなったらそりゃあ跳ねるよな。

 車っぽいものはあるけどバカ高いので上流階級専用だ。庶民の移動は徒歩か馬車が基本だった。

 西の森に着く頃には僕は馬車酔いで疲れ果てていた。

「お前は繊細だな」

 アイヴァンに呆れたように言われる。しかたないじゃないか。王都から出たことがないんだから。

 ウィレミナとキャロットも気持ちが悪そうな顔をしている。酔っているのは僕だけじゃない。

 僕達は少し休憩してから森の中に入ることにした。

 

 僕らがやっと森の中に入ると、シュガーが精霊の元へ誘導してくれる。途中高く売れそうな魔物が居ると狩りながら、森の奥へ入っていった。

 しばらく歩くと、突然景色が切り替わった。今までの木とは比べ物にならないくらいの大きな大樹がそこかしこに生えていて、空が見えない。木々はまるで誰かを誘導するように道を造っていた。

 そしてその木々を抜けると、信じられないような光景が拡がっていた。まるで宝石のように輝く湖面に、見渡す限りの花畑。それはあまりに美しい風景で、思わずため息をついてしまった。

「ここは精霊の領域よ。普通人間は許しがないと入ってこられないの」

 

 なるほど、精霊にとってここは家のようなものなのだろう。人に荒らされないように、入れないようにしているのかもしれない。

「まさか『精霊の幻』を実際に体験できるとは……」

 この場所は精霊の幻と呼ばれているのか。皆ルシアに目を向けた。

「知らないのか?私も父に聞いた話だが、森の中を歩いていると突然この世のものとは思えないほど美しい場所にたどり着くことがある。そこは地図にも存在しない、一度抜けると二度と辿り着けない桃源郷のような場所なんだ。それを冒険者たちは精霊の幻と呼んでいる」

 

 それはなんて幻想的な話だろう。ワクワクするなんてものじゃない。僕らは今、その幻を体現しているんだ。

 みんな暫く無言でその風景に見とれた。シュガーは虚空を見つめて、なにやら交信しているようだった。ルビー色の目がまるでオーロラのように輝いている。

 一体この森で何が起こっているんだろう。

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