第10話 爵位と屋敷

 次の日も僕達は特訓をしていた。

 ミミがシュガーに習っていたのは風のシールドと風の刃の強化だ。

 昨日はほとんど見られなかったので練習風景を見ると、ミミは確実に強くなっていた。今はキャロットとミミがタッグを組んで、ルークと戦っている。

 シュガーがシールドか何かで怪我をしないようにしてくれているんだろう。なかなか白熱した戦いだった。ミミは関節などの弱い場所に確実に風の刃を当てていた。どうやら自分で獲物を倒すのではなく、サポートに徹した戦い方を教わったようだ。

 シュガー、戦闘指南もできるなんて凄いな。精霊はみんなこうなのかな。

 

 一緒に休憩しながら見ていたウィレミナが、ミミの戦いぶりを見て涙を流して喜んでいる。

 オフィーリアも拍手していた。

「よし、もうミミは何も出来ないウサギじゃないわ!最強の羽ウサギよ!よく頑張ったわね!」

 シュガーの言葉に、ミミはまるで敬礼しているようなポーズをとった。完全に師弟関係が成立している。当人達は真剣なんだろうけど、見ていてかわいい。

「羽ウサギが戦えるなんて知らなかった。すごいなお前達は」

 聞こえた低い声に振り返ると、父さんが居た。今の時間は仕事なはずなのにどうしたんだろう。

 

「ちょっとレインに用事があるんだ。少し借りるぞ」

 そう言って僕をリビングに連れていった。母さんとティアが医学の勉強をしている横で、僕は父さんの話を聞いた。

「陛下がお前に準男爵の爵位と屋敷を与えるそうだ。爵位と言っても何もする必要が無い、形だけのものだ。冒険者として活動することは咎めないから、国外に引っ越すことだけはやめて欲しいと言っている」

 実に簡潔な説明だった。精霊の召喚者に他国に出ていってほしくない気持ちはわかる。この位が落とし所だろう。僕は王様の提案を受け入れる事にした。

 僕は今日から準男爵で、姓は父と同じブロウと名乗って良いそうだ。

「全く、国で管理するべきだと主張する陛下を止めるのは苦労したんだぞ」

 父さんが僕のために頑張ってくれた結果らしい。僕は父さんに感謝した。

 少し調べたけど、昔精霊の召喚者を国にしばりつけて精霊の怒りを買った王族が本当に居たらしいから、王様も強くは言えないんだろう。

 僕は父さんから僕の物になるという屋敷の鍵を受け取った。どうしようかな、これ。

 

 みんなの元に戻ると、なんだか心配されていた。準男爵になったと言ったらみんな予想していたのか複雑そうな顔をしていた。

「冒険者は続けられそうか?」

「それは大丈夫。王様が冒険者のままで構わないから国から出るなって」

 アイヴァンの質問に返すと、みんな安堵した顔をしていた。

「良かった!強制的に騎士団に入れられたりしたらどうしようかと思ったよ」

 アイヴァンが心底ホッとしたように言う。

「そんなことしたらあたしが黙ってないわよ。あたしはレインと冒険がしたいんだから」

 シュガーが僕の肩に飛び乗って主張する。

 強制従軍させられずに済んだのは、間違いなくシュガーが悪役になってくれたおかげだろう。僕はシュガーを撫でて感謝した。

 

 特訓を再開してしばらくすると、ルシアが言った。

「そういえば、新しくパーティーを組んだんだし、女神様に安全祈願に行かないか?」

 冒険者は敬虔な女神様信徒が多い。それは命が危険に晒された時に精霊が助けてくれたり、ダンジョンという魔物が無限に湧いてくる場所を作ってくれたりしているからだ。

 この世界の女神様は人好きでフレンドリーなようで、祈りに行くと神託をくれたりすることもある。

 確かにシュガーも居るし、一度行っておいた方がいいかもしれない。

「いい心がけね!きっと女神様が加護を授けて下さるわ」

 シュガーは上機嫌でルシアの言葉に賛同する。

 僕達は一旦特訓を中断して教会に行くことにした。

 

 教会に行く道中、ウィレミナが言う。

「ついでに孤児院に喜捨をしない?お菓子を買っていったら喜ばれるよ」

 ウィレミナはよく教会に併設された孤児院に行くらしい。日持ちするキャンディーなどを買って持っていくのだそうだ。

 みんなでお菓子を選んでお金を出し合って買った。喜んでくれるといいな。

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