第9話 スパルタ猛特訓

 今日は僕の家でみんなの特訓だ。シュガーはミミを特訓するのだと張り切っている。皆が家にやってくると、シュガーは早速庭でミミの特訓を始めた。仮想敵としてルークとキャロットが協力してくれるらしい。ファミリア同士の仲が良くて何よりだ。


 相談の結果、アイヴァンがルシアに身体強化を、僕がオフィーリアとウィレミナに魔法を教えることになった。

 僕は常々思っていることを語り出す。

「強い魔法と言えばみんなとにかく大きな、魔力消費量の多い魔法を連想するだろうけど、僕はそうは思わない。例えば初心者がよく使う水魔法でも、圧縮して放つ事で威力をあげることが出来る」

 僕はそう言うと水を的に飛ばした。普通の水魔法より明らかに威力が強いのが見て分かると思う。二人は息を飲んで魔法を見つめた。繰り返し放つと、威力は高いのに魔力消費量が少ないのに気づいてくれるだろう。

「圧縮……なるほど」

 二人は僕の真似をして魔法を放ってみる。しかし難しいらしい。

 数十回目の挑戦でやっと感覚が掴めたらしく形になってきた。特にウィレミナの学習スピードが早い。オフィーリアはもうすぐ魔力切れか。僕は魔力回復薬が入った箱を持ってくると、オフィーリアに一本渡した。

「出来るまで今日はずっと反復練習ね」

 これぞレイン式学習法、出来るまでやるである。この為に家には魔力回復薬が大量にある。僕に魔法の才能があるとわかってからは、父が魔法関連のものは好きなだけ買ってくれるのだ。今回オフィーリア達に使って構わないか聞いたらいいと言うので使用している。持つべきものはお金持ちのパピーである。

「おーいレイン、こっちにも回復薬くれ!」

 オフィーリアとルシアは青ざめていた。唯一ウィレミナだけが平気そうにしている。元々の魔力量が膨大だから、回復薬の不味さを知らないのかもしれない。 

 

 オフィーリア達には反復練習をさせて、僕は一度家の中を確認することにした。

 家の中では母さんが、オフィーリアのファミリアであるティアに医学書を読み聞かせていた。

 実はこの件を母さんと父さんに話したら大変面白がって、協力を申し出てくれたのである。父は本職の騎士が使う応急手当や傷のケア方法がかかれた教科書を提供してくれ、軍医に医学書を借りてきてくれた。

 実は衛生兵の中にもヒールスライムをファミリアに持つものが多くいるらしく、この試みが成功したら怪我で退役する軍人を減らせるかもしれないと大喜びだった。

 ティアは真剣に母さんの読み聞かせを聞いているようだ。母さんもティアが分かりやすいように図解を指さしながらゆっくりと読んでいる。とても微笑ましい光景である。

 

 夕方まで一心不乱に訓練して、二人はなんとか及第点まで魔法を身につけた。疲労困憊といった様子で庭に座り込んでいる。ウィレミナだけは完璧に身につけた上に平気そうだ。天賦の才を持つとは彼女のような者に使う言葉だろう。

 そこに騎士服を着たままの父さんが顔を出した。

「おお、有意義な訓練になったようだな」

 ルシアとオフィーリアは慌てて起き上がり、ウィレミナと共に父に挨拶する。

「礼儀正しい子達じゃないか、レインのことをよろしく頼むよ。ところで、ヒールスライムの教育の件、一度確かめてみたいのだが良いだろうか?」

 父さんはそのために帰ってきたらしい。オフィーリアが承諾すると、全員で家の中に入る。

「この子が医学を学んだスライムか……さっそく試してみよう」

 

 父はナイフを取り出すと、おもむろに自分の腕を切りつけた。そしてティアに治してほしいと言う。

 ティアは父さんの腕に飛び乗って、傷の治療を始める。するとみるみるうちに痕も残さず傷が消え去った。それを見た父さんが歓声をあげる。僕達も驚いた。

「素晴らしい!他のスライムの治療とは桁違いだ!治すのも早いし傷も残っていない!」

 父さんは王宮で、他のヒールスライム達にも同じように傷の治療をさせたらしい。父さんの腕には幾つもの傷が残っていた。父さんは腕の傷をみせながら興奮したように言った。

「レイン!本当にお前は天才だ!医学界に革命が起きるぞ!」

 みんなの前で言われるとなかなかに恥ずかしい。僕は照れ隠しに他に話をふった。

「頑張って勉強したのはティアなので、ティアも褒めてやってください」

「ああそうだな。ティア、これからもよく学ぶといい。いずれもっと大きな傷も治せるようになるだろう」

 ティアは嬉しそうに飛び跳ねると、オフィーリアの元に跳ねて行った。オフィーリアは誇らしげにティアを撫でている。


 その後父さんを交えて夕食をとることになり、僕たちは父さんに色々な話を聞いた。騎士団の魔物討伐の話はどれも為になるものばかりで、とても楽しかった。

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