第8話 ファミリアの力
次の日、僕達は五人でパーティー登録を済ませた。
そして今日の依頼を決める。今日はイノシシ退治だ。最近数が増えて畑を荒らされて困っているらしい。
僕達は依頼の場所に向かう。今日はファミリアとも共闘しようということになっていた。早くこのメンバーでの戦い方を確立させたい。
ルークはイノシシを見つけると胸を張って鳴いた後、影の中に潜っていった。
標的のイノシシを見ていると、影からにゅっとルークが出てきて首に噛み付いた。圧勝である。
「すごい!さすがシャドウウルフだな!」
ルシアは初めて見たルークの狩りに大興奮で拍手している。
それを不満に感じたのか、キャロットがルシアの服を噛むとグルグルと唸る。それくらい自分にもできると言いたげだ。
キャロットは近くにいたもう一匹のイノシシの元に駆けると、氷魔法でイノシシを凍らせ、鋭い爪で首を引き裂いた。そして咥えた獲物をルシアの元に持ってくると、得意げに尻尾を揺らす。
雪豹がこんなに強くて可愛いとは知らなかった。ルシアもすごいなと言いながらキャロットを撫で回している。
「次はあたしの番ね!」
シュガーはそう言うと、何もない草原に風魔法を放った。不思議に思っていると、少し遠くの方から事切れたイノシシが浮遊してきた。
まさかの遠隔狩猟である。みんなおおと感嘆の声をあげ、シュガーを褒める。シュガーは渾身のドヤ顔である。やはり精霊は強い。というか、戦う気は無いんじゃなかったのか。
「こんなに小さいのに凄いんですね、さすが精霊様だわ」
オフィーリアが言うと、胸に抱かれていたティアが小刻みに震え出した。
そこでやっと気づく。ティアは戦えないヒールスライムだ。回復と浄化魔法以外の魔法は使えないうえに、魔物の中では最弱の括りに入ると言われるスライム種である。
「ティア、そんな落ち込まないで。冒険者をするならティアの浄化能力も回復能力もとても役に立つって言ったでしょう」
ティアは自分が戦闘で役立ずなことに落ち込んでいるらしい。そんなの気にする事はないのに。実際治癒魔法はかなり役に立つし、浄化魔法だって野営の時には体をキレイにできたりしてかなり便利だ。
それでもティアは気にしているらしい。どこか泣いているように見えた。
「無い物ねだりしたって仕方ないわ!特技を磨けばいいのよ!」
シュガーがティアの上に飛び乗って、励ますように言った。特技を磨くか……僕は治癒魔法に関して常々思っていたことがあった。もしかしたらティアの治癒魔法を飛躍的に向上させられるかもしれない。
「医学を学ぶのはどうだろう?」
僕が言うとみんな困惑した顔をした。ファミリアに勉強させようなんて、普通誰も考えないから当たり前だろう。
「魔法は想像力が大切なんだ。ただ傷が治るよう意識するより、人体の構造を熟知した上でどんな風に傷が治るのか意識した方が効果は高いに決まってるだろ。元々治癒に高い適正を持つヒールスライムが医学知識を身につけたら最強じゃないか?」
そういうと、ティアは少し固まったあと、大きく震え出した。そしてオフィーリアの腕の中から飛び降りると、地面で何度も飛び跳ねる。
「ヒールスライムに医学知識……やってみる価値はありそうね!ティアも乗り気みたいだし」
オフィーリアは嬉しそうに再びティアを抱き上げると、優しくティアを撫でた。
「帰ったら早速医学の本を取寄せるわね。教師をつけるのもいいかもしれないけど、スライムに教えてくれる人がいるかどうか……」
ちょっと困ったような顔をしてオフィーリアが言う。確かにそんな人は居ないだろう。とりあえずは独学でやるしかない。ティアのやる気を見る限りきっと大丈夫だろう。
そんな話をしていたら、ウィレミナが浮かない顔をしていた。いやウィレミナじゃない、落ち込んでいるのはミミの方だ。ミミは戦えない。ミミはウィレミナの腕の中で泣いていた。
僕達はミミにかける言葉が見つからなかった。
シュガーがミミに飛び乗ると、さっきのように激励する。
「あたしが特訓してあげるわ、だから泣くんじゃないわよ!ファミリアは女神様に無限の可能性を与えられているんだから。強くなりたいと願いなさい。その願いをきっと女神様は叶えて下さるはずよ」
ミミはシュガーを見つめて頷いた。覚悟を決めたらしい。
ウィレミナは心配そうにミミを見つめていた。
相談した結果、明日と明後日は僕の家で皆の特訓をすることになった。
ミミが戦う術を身につけられたらいいんだけどな。
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