第5話 休日

 冒険者としての初陣の翌日。今日はさすがにゆっくり休もうと予定を入れずにいた。

 母さんと、昨日のウサギ肉で作ったシチューを食べながら雑談する。母さんは今日、余った昨日のお肉で燻製を作るらしい。燻製と聞いて母さんのファミリアである猫が喜びの声をあげた。

 今日は何をしようかなと考えていると、緊張した様子のシュガーが膝の上に乗ってきた。

 

「ねえレイン、あたし灰色のリボンが欲しいわ」 

 付けてあげた赤のリボンが気に入らなかったのだろうか。それにしても灰色は無いと思う。シュガーの可愛さに合わない。

「ああ、アイヴァンくんとルークくんが羨ましかったのね。おそろいだったものね」

 母さんが得心がいったという顔で言った。

 そうか、僕とおそろいが良かったのか。なんだかちょっと照れくさい。

「灰色はちょっと可愛くないから、レインの瞳と同じ青にしたらどうかしら?可愛いと思うわ」

 母さんが言うと、シュガーは嬉しそうに膝の上で飛び跳ねた。

「それ素敵よ、ママ!レインと同じ青空色のリボンがいいわ!」

 僕の瞳はよく晴れた日の空の色だと、両親は言っていた。シュガーもそう思ってくれていたのかと思うとなんだか嬉しい。

 

「それじゃあ今日はリボンを買いに行こうか。あとついでにシュガー用のクッションも買わないと」

 シュガーは嬉しそうに僕の膝から肩に飛び乗ると、今度はテーブルに飛び乗ってはしゃぎ回っている。

「あ、美味しいスイーツも忘れちゃダメよ!」

 現金なヤツだ。

 

 

 

「レインあれ、あのドーナツが食べたいの!」

 街へ出るとシュガーは昨日の大人しさが嘘のようにはしゃいでいた。どうやら昨日は僕たちに気を使ってくれていたらしい。

 

「先にリボンだよ!お菓子は帰りに買っていこう」

 シュガーと共に女の子が好きそうな手芸雑貨店に入る。ちょっと入りづらかったが、シュガーが可愛らしい声で歓声を上げるので不審者扱いはされずにすんだようだ。

 シュガーは商品が展示された棚に飛び乗って近距離から商品を眺めている。

「こら、棚に乗ったら駄目だって」

 僕が注意するとお利口に僕の手の中に戻ってきた。

 

「可愛いファミリアですね!何かお探しですか?」

 店員さんが笑顔でこちらにやってくる。肩にはシュガーと同じくらいのリスが乗っていた。

 

「わ、リスだ、可愛いですね!今日はこの子のリボンとクッションを探してるんです」

「リボンとクッションですか……ご案内しますね。ところでその子はなんて言う魔物なんですか?喋る魔物なんて今まで見たことがないです」

 魔物じゃなくて精霊なのだと言うと、店員さんはものすごく驚いていた。呆然とした顔で実在したんですねとか言っている。その気持ちはよく分かる。

 

「精霊は目に見えないけどそこら辺にいるのよ。ほら、そこにもいるわ」

 シュガーが何も無い空間を前足で指して言う。ちょっとホラーだからやめて欲しい。

 店員さんはそうは思わなかったようで、キラキラした目でそこを見ていた。

 

「こちらがリボンのコーナーです。どんなのがいいとかありますか?」

 店員さんの問いにシュガーが僕の瞳の色と答えるから、何だか微笑ましげな目を向けられた。恥ずかしさでソワソワする。

 店員さんが空色のリボンを複数シュガーの前に持ってきてくれて、シュガーは唸りながら吟味している。

 

「これとこれと、あとこれがいい!」

 三種類も買うのかと思ったら、日替わりで付けるらしい。オシャレな女の子とはそういうものなんだろう。幸い昨日の討伐で小遣いには余裕があるのでかまわない。

 

「クッションはこちらにファミリア用のものがありますよ。私のファミリアがリスなので、ちょうどいい大きさで可愛いものを沢山仕入れてます!」

 それはとてもラッキーだ。普通のクッションではシュガーには大きすぎるので、いいものが見つかるかちょっと不安だったのだ。

 シュガーはまた唸りながら一つ一つのクッションを吟味している。

「家用と野営用と二つ選んでいいよ」

 そう言うと大はしゃぎで可愛らしいクッションを二つ選んだ。これも両方青色である。

 

 

 

 買い物を終え、商店街に出ると女の子に人気のカフェがある事を思い出した。パンケーキが絶品らしいのだが、男だけで入るには気が引けていたのだ。大きすぎないファミリアなら一緒に入れたはずだから、行ってみようか。

 

「わー!可愛いお店!」

 カフェに着くとシュガーが周りをキョロキョロしながら歓声をあげた。店内はフリルやレースをつかった装飾で溢れていて、男一人では到底来られそうにない。

 店員に案内され席に着くと、周りの客からの視線を感じた。喋るファミリアと男の組み合わせなのだから、それも当然だ。

 

 注文したオススメのパンケーキがくるとシュガーがまた歓声をあげた。

 そして器用に風魔法でナイフとフォークを浮かべると、上品に切り分けながら食べ始める。周りの客の驚愕の視線が痛すぎる。

「溶けちゃいそうなくらいふわふわ〜!最高だわ!」

 周りの視線に耐えながら、僕もひと口食べてみる。はっきり言って最高だった。今度アイヴァンと一緒に来ようと思う。アイツにもこのパンケーキの美味しさと、周りの視線のいたたまれなさを味わわせてやろう。

 

 そのあとは母さんにお土産のお菓子を買って、早めに家に帰ることにする。燻製作りの最後の仕上げを手伝えたらいい。

「レイン!今日はありがとう!最高の休日だったわ!」

 シュガーが上機嫌でお礼を言ってくる。ふさふさの尻尾が左右に揺れて、頬にあたって擽ったい。

「僕も楽しかったよ、また行こうね!」

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